4.わからない こんな気まずい関係じゃ部活にも支障きたすと思って、いつもみたいに昼ご飯一緒に食べようて言うたのは正解やったと思う。 目も合わせてくれんなんてさすがにマズイし、他の部員に、ケンカでもしたんかって思われるのも嫌やしな。 せやけど屋上で二人きりで食べようとしたのはあかんかった。 (なんやねんこの子むっちゃかわええ…!) なんでそんな顔真っ赤にするん、なんでそんな動揺しとるん。 ちょっと可愛すぎてどうしたらええんかわからん。 (まさか、こんな展開になるとは…) 二人きりになりたかったのは別にやましい気持ちがあったからとかやなくて、単純に二人きりのが話したいこと話せるかなって思ったからなんや。 この間キスした話とか、教室じゃでけへんと思うし。 決してこんな展開になるの期待して二人きりになったわけやない。 …って自分を正当化しとるけど、たぶん一割くらいは下心があったかもしれへん。 卵焼きあーんとかしてしもたし、二人きりやからって調子に乗りすぎたわ。 でもこんなことできるのまたとないチャンスやって思ったら体が勝手に動いてしもたんや。 「蔵?」 「え?ああ、」 ぼーっとそんなこと考えとったら、弁当箱片付けながら謙也が覗き込んできた。 まだほんのり頬が紅い。 「どないしたん?ぼーっとして」 「あー…いや、今日、ええ天気やなーって思って」 「せやな…って曇っとるやん」 謙也のこと考えとったなんて言えんから誤魔化そうとしたら、見事なノリツッコミされてしもた。 どんな状況でもボケに応える、さすがや。 うーん、何か話題ないやろか。 「…あー、次の授業、予習やったん?」 「あ!やってへん!」 よし、この話題でいこう。 どうせ予習とかやってへんやろ。 みせてやれば謙也と喋る口実ができる。 謙也のためにならん気もするけど、さっきみたいに他の奴にノートみせてもらっとるの見るのも嫌やし。 「今日、謙也あたるんとちゃう?」 「せや、たぶん今日あたるわ!どないしよ!」 「ええよ、みせたる」 「ほんま?おおきに!」 ちょ、笑顔が眩しすぎて直視でけへんわ。 なんで謙也の笑顔にドキッとせなあかんのやろ。 完全にフィルターかかっとるわ。 「ほんなら、はよ教室いかなあかんな」 「あ、せやな」 俺も弁当箱を片付け始める。 結局、昨日のこと何も話せんかったな。 せやけど、あれは謙也にとってもうなかったことになっとるんやから話さん方がええのかもしれへん。 本当なら嫌われてもおかしくないんやから、一緒におれるだけええ方や。 わざわざ自分から関係を壊す必要なんかない。 …でも。 でも、男同士なんかキスのうちに入らんて言うたのに、なんで今日避けたんかどうしても気になる。 もしほんまになかったことにしたいんやったら、俺のこと避ける必要ないはずやし、いつもどおりに接してくれたらええ。 謙也が不器用なことは知っとるけど、嘘つけんことも知っとる。 せやから、今までどおりにしたいならあない真っ赤になったりしないはずや。 (はっきりさせた方がええんかな) なんのために二人きりになったんや。 ここで聞かんかったら、意味ないやん。 「蔵、はよ行こや」 「ああ、いま行く」 せやけど、聞くのが恐い。 昨日は一歩踏み出すことができたのに、「友達」っちゅー関係が終わるはずやったのに、謙也はまだ友達のままでなかったことにされて。 だから、また一歩踏み出したらほんまに壊れて戻れへんくなる気がして、恐い。 「はい、これ」 「ほんま助かるわ!おおきに」 教室に戻ってきてノートを渡すと、謙也はすぐに写し始めた。 「おおー予習完璧やん。蔵ってほんま無駄ないよなー」 「そ?」 「俺、お前が授業中寝とるのすら見たことないで」 無駄がない、か。 ほんまは無駄だらけやのに。 謙也のことが好きで、それを伝えることもでけへん、どう伝えたらええかわからんくせにキスだけはうっかりしてしもた俺のどこが無駄がないんやろ。 「そりゃ謙也と違てゲームで夜更かしせえへんさかいな」 「う、…やってもうちょいでラスボスやもんしゃあないやん」 「はいはい、無駄口叩かんとはよ写しや」 「ああ、すまん」 昨日の英語単語写すのに比べると随分速く写しとるように感じる。 やればできるやん、昨日はあない遅かったのに。 「今日はえらい写すの速いなあ」 「えっ!」 「え?」 「や、授業もうすぐ始まるし急いどるし!昨日は急いどったけど急いでへんかったし!別にわざと遅くやっとったわけとちゃうねんで!」 「はぁ?」 なんやねん、急に慌てて。 あーあー、また顔赤くなっとるで。 その言い方やとわざと遅くやっとったみたいやんな、嫌がらせか。 まあええか、なんでそんななっとるんか知らんけど、かわええし。 「よっしゃできた!おおきに!」 「次はちゃんと忘れたらあかんで?」 「へへ、気ぃつけ、る、わ…、…?」 「よしよし」 つい手がでてしもて頭撫でると、謙也はぽかんとして照れたように目を反らした。 昨日、頭を撫でたときと同じ反応や。 あかんて、そない反応されると、またしてしまいそうになる。 昨日と同じことを繰り返してまう。 「せ、せや、お礼に今日なんかおごったるわ!」 「ええよ、」 「遠慮すんなて!」 お礼やったらもう一回キスさせてほしい、って言えたら苦労しないんやけどな。 まあダメ元で家行きたいて言うてみるか。 いや、家なんか言ったらヤバいことになりそうな気するから冗談やけど。 でも、ほんのちょっと期待はするけどな。 「それやったら、明後日の休み謙也ん家いきたい」 「え、家?なんで?」 「いや、もうすぐテストやし教えたろ思ってな」 なんてキツイ言い訳や。 あー、なんでって聞くっちゅーことは嫌なんやろな。 超上から目線やし、余計なお世話やって言われるにきまっとる。 冗談や、そう言おうとしたら、 「ほんま?」 「え…、あ、うん?」 「よっしゃ、これで次のテストは完璧や!」 え、この流れってもしかして、まさかまさか。 玉砕覚悟やったのに、これはほんまに家に行くっちゅーことか? 謙也ん家でテスト勉強っちゅー方向でええんか? 嘘やろ、冗談やないんか。 「家、ほんまに行ってええん?」 「いまさら何言うとるん、ええに決まっとるやん」 念押しに聞いても、謙也はいつものことやんかって答えた。 そりゃ何回も行ったことあるし謙也にとってはいつものことかもしれへんけど、でも今回はわけが違う。 謙也は絶対それわかってへん。 明後日、謙也ん家の部屋で二人っきり、そんな状況耐えられるんか自信ないわ。 無理、絶対無理やって。 謙也に隙がある限り、俺はまたキスしてまう気がしてしゃあない。 理性が、勢いっちゅー名の本能に負けたらキス以上のことしてまう可能性だってある。 条件さえ揃えば、また昨日みたいなことは有り得るんや。 これは自分との戦い、そして俺に与えられた試練や。 必要以上に謙也に近づかないこと、勉強教えるのに集中すること。 明後日はこれを徹底せなあかん。 やれる、俺ならそれぐらいできるはずや。 「もう授業始まるな、」 「あ、蔵!ノート忘れとるで」 席に戻ろうとした俺の腕を謙也が掴んで、すぐにぱっと離した。 「あ…ごめん、ノート、」 「…ああ、ノート忘れとったわ、おおきに」 俺からは近づかへんけど、謙也から近づいてきたら、やばいな。 ―――――― 2012.2.25 だんだん白石までヘタレになってきました^^; そろそろ他キャラ出したいなあと思いつつ。 戻 表紙 |