2011.9拍手:光謙光




「あー…あっつ…」

真夏に比べたら多少涼しくなってきた季節とはいえ、運動すれば当然暑くて汗もかく。
今日は日差しも強いし、結構練習もキツイ。
水分補給しようとベンチにおかれたペットボトルをつかむと、それは温くなっとって飲む気が失せそうになる。
せやけど喉は渇いとるから、仕方なくそれを口に運んだ。

「ひかるー」

「…なんですか謙也さん」

やっぱり温かったそれを一口飲んでキャップを締めると、謙也さんが近づいてきた。

「ひ、ひとくちわけてはいただけないでしょうか…」

「は?なんでですか自分のあるやないですか」

「いや、それが今日体育あったりして飲みすぎてしもて…」

「底を尽きた、と」

「はい…」

それならカルキ臭い水道水でも飲んだらええやん。
ああ、でもあれは不味いな。

「また今度ぜんざいおごるから!」

水一口に対してぜんざい。
なんて俺得。

「ならええですよ」

「ほんま?」

当然、交渉成立や。
今月は小遣いピンチであんま食べられへんと思っとったのに、こんなことでぜんざいにありつけるとは。
謙也さんにペットボトルを渡すと、何故か謙也さんは考え事でもしとるみたいにそれを見つめた。

「な、なあ…これってもしかして、間接ちゅーやんな」

「はぁ?なにキモいこと言うてるんですか」

「いや、ごめん…ってキモい言うなや!」

ノリツッコミされても、男同士で間接ちゅーもくそもないやんな。
つか、間接ちゅー気にするとか女子か。
謙也さんはペットボトルのキャップを緩めて口をつけた。
ちら、とこっちをみた謙也さんはまだそのことを気にしとるんか、一口飲んだら飲み口を指で擦った。

「ん、おおきに」

「あ、はい」

俺にペットボトルを返すと、謙也さんは部活に戻っていった。
俺はまたペットボトルのキャップを開けて水を飲んだ。

(間接ちゅー、か)

謙也さんと間接キスくらいどうってことないはずやのに、謙也さんのせいで俺まで意識してまうやんか。
男同士の間接キスいちいち気にするとか、おかしいやろ。
あの人ほんま女子みたいや。
うん、俺のこと好きな女子みたい。
ってちゃう、男同士でそんなんありえんやろアホか俺。
キモいとか言うた俺がこんなんなるってなんやねん。
あー最悪。

(まあええわ。ぜんざいでチャラや)

俺はさっきよりずっと温くなったペットボトルをベンチに置くと練習に戻った。



――――――

今更ですが間接ちゅーネタ。
なんかうちの光はよく男前だと言われます(笑)