不器用なひと





「あれ、光、」

「なんすか?」

「…え、あ…や、やっぱなんでもない」

「はぁ?用ないなら先行きますよ」

「お、おう…」

光は俺に目も合わせず部室を出ていった。
用があったのはほんまで、ユニフォームのボタンがずれとるって教えたろ思ったのに、さすがに名前を呼んだだけであない不機嫌な顔をされるとは思っとらんかったから、用がないフリしてしもた。
俺と光はちょっと前から付き合っとる。
成り行き、なんてのもあったかもしれんけど、光も嫌そうにしとるわけやないし、むしろめっちゃ甘やかしてくれるっちゅーか俺のが年下みたいになっとるくらい優しくしてくれとった。
手繋いだり、ちゅーしたり、あとついこの間、まあ、やらしいこともして、恋人同士がすることは一通りした。

(光…なんで…)

やらしいことしてから光の態度は急変した。
目を合わせることがなくなったし、一緒に帰る日がなくなった。
ヤッたら用なし、そうゆうことなんかな。
それやったら、どないしよ。
付き合ったのは成り行きかもしれへんけど俺は結構本気やったし、さすがにちょっと傷つく。
とぼとぼ部室を出ていくと、目の前で白石が光を呼び止めとった。

「財前、ボタンずれとるで?」

「え?あ、ほんまですね」

それに気づいた白石のせいで、俺が光に話しかける口実はなくなってしもた。
ふう、と思わず重いため息をつく。

「あ、ユウジ先輩」

「へっ!?あ、な、なんや!」

前にいた光が急に振り返ったもんやから、びっくりして声裏返ってもーた。

「……あの、今日うちこれます?」

「え…光ん家?いける、けど」

「ちょっと話したいことあるんで、来てもらってええですか」

話したいこと、っちゅー単語に心臓が震えた。
かといって光は怒っとる様子でもないし、深刻な顔しとるわけでもない。
けど、なんや嫌な予感がする。
もしかして、別れ話、かもしれへん。
それやったらどないしよう。





部活が終わってから光ん家まで、俺らはほとんど喋らんかった。
光ん家までそんなむっちゃ遠いわけやないんやけど、なんか時間が長く感じた。
ちなみに俺は部活中全然集中できんかって、白石とか謙也に怒られるは小春には心配されるわで散々やった。
いや、小春に心配されたのはだいぶ嬉しかったけど。
ようやく光の家についてすぐ部屋に通されて、俺は床に正座して座った。

「なんでそこに座るんですか」

お茶を持ってきた光が部屋に入ってきた。
俺を見下ろす目線が恐い。

「い、いや…勝手にベッド上がるのもどうかと思って…」

「別に今更そんな許可せんといかん関係でもないですやん」

お盆が机に置かれた音に肩が跳ねる。
光の行動全部に過剰に反応してまうほど、俺は緊張しとった。

「ユウジ先輩、」

「は、はい!」

「ここ、」

光はベッドに腰掛けて布団をポンポン叩いた。
隣に来いっちゅー意味でええんかな。
とりあえず立ち上がって俺も隣に腰掛ける。

「……」

「ひかる…?」

「……」

「……」

二人きりの部屋で沈黙とか、気まずすぎやろ。
やっぱりこれから別れ話するんかな。
この流れはもうそれしかないやろ。
そんなん嫌や。

「ユウジ先輩、あの」

「ごっ、ごめん!」

「は?」

「お、俺、知らんうちに光に嫌われるようなことしたかもしれんし、やっぱ男とヤッてありえんと思われたかもしれんけど、けど」

「あの、先輩」

「せやけど、別れたない…」

光のこと好きになって、えっちもして、こんな幸せなときに別れるとか嫌や。
自分勝手な理由やってわかっとる。
でも嫌なもんは嫌、絶対嫌や。
光のことが好きやから、離れるなんて考えたくない。
せめて、もういっかい俺のこと考え直してくれたらええのに。

「俺、もうちょっとマシなやつになるし、せやから」

「……」

「ワガママで、ごめ…」

「ユウジ先輩、黙って」

ワガママでごめんなと言いかけて、口を塞がれた。
唇が離れる時、鼓動が大きくなって、時間が止まったみたいにスローモーションになった気がした。
最後のキスかもしれへん、そう無意識的に身体が感じ取ったような感じがした。

「ひか、」

「ちょっ何泣いてるんすか」

「や、やって別れたくないんやもん…」

いつの間にか流れてきとった涙はもう自分でも制御でけへんくらい溢れてきた。
こんなすぐ泣くようじゃもっと嫌われたかもしれん。
絶対光も呆れとる。

「あの、ユウジ先輩…?誤解しとるみたいですけど、俺、別にユウジ先輩と別れようなんて思っとらんですよ」

一瞬、光が何を言うとるのかわからんかった。
はっとして顔を上げたら、光はほんまに呆れたような顔しとったけど、俺が思っとったよりずっとマシな、俺を馬鹿にするような呆れ顔やった。

「え…やって今日別れ話しようとして呼び出したんとちゃうん…?」

「はあ?何言うとるんですか…今まで避けてすんませんでしたって話しようと思っただけなんですけど」

「ほ、ほんまに…?」

「はい」

それを聞いた途端に力が抜けて、自然と涙も止まってうるさい鼓動も静かになっとった。
俺と別れようとして呼び出したんと違うかったんや。
ああもう今まで悩んどったのがアホみたい。
ちゅーか俺どんだけマイナス思考やねん。
でも、ほんまよかった。
むっちゃ嬉しい。
光と別れなくてええんや、まだ俺と付き合うてくれるんや。

「なんで、避けたん…」

「やっぱわかってないですよね」

「うん」

光は一度目線をそらしてもう一度こっちを見ると、俺の肩を持った。
なんや何する気やと思い目が合った瞬間にそのまま倒された。

「ちょっ、な…っ」

「身体にわからせた方がたぶん早いんで」

「はぁ!?たぶんて、ちゃんと説明してや」

「嫌っすわ、めんどくさい」

「なんやて…っ」

「ええから黙ってください」

また言いかけた言葉を塞がれて、今度は唇の形をなぞるみたいに舌が這った。

「ん、ん…っ」

舌が入ってきて、飴ちゃん転がすみたいに動く。
俺はそれに応えることができんくらい力が抜けてしもて、弄ばれるだけやった。
ふわふわした気分になってきてもう食べられるんやないかやっと思った頃、やっと唇が離れた。

「はぁ、はぁ…」

「ちょ、先輩えろすぎ…」

「は?なんもしてへんやろ…」

「なんもしてなくても、そないトロトロな顔されたらヤバイっすわ」

「なっ、ん、あ…っ」

腰の辺りを触られただけやのに声が出てしもた。
あかん、ついこの間初体験したばっかやのにこないやらしい身体になったと思われたかもしれへん。

「ちょ、ひかる…っ」

「あれ、なんですかこれ」

「え…っ?…あ」

光が撫でたところはもちろん膨らんで固くなっとるとこで。
俺が興奮しとるのがわかったらしい光は、意地悪に笑ってベルトをほどいてきた。
腹の上をスライドするみたいに自然な手の動きが、中のものを捕えてぐりぐり触ってくる。

「キスだけでこんなって」

「やかましいわ…っ」

情けないはなしやけど、たぶんパンツん中どろどろやったと思う。
そのまま手は扱き始めて、ズボン越しにくちゅくちゅ卑猥な音が聞こえてくる。

「ここも、してあげますね」

「っん、あっ!」

指が奥に滑り落ちていって、後ろの口を撫でてくる。
こんなとこ触られたら普通は気持ち悪いはずやのに、なんでか光に触られると妙にそこが疼く。

「うわ、そないひくひくさせて…誘い上手」

「ちゃ、う…っ、あっ」

「急かさんくてもちゃんとあげますよ」

「ひあ…っ、あっ、や、んん!」

入り口周りをくるくる円を書くように撫でとった指が、今度は中に侵入しようとしてきた。
腹の中に指が入ってくる異物感、それすらも気持ちええと思う。
こいつの指っちゅーか指使いは、なんでこんな変な気分にさせるんやろ。
初体験のときも不思議やった。
熱くて、何をされるんかわからんくて、でも身体が期待しとるんがわかって、恥ずかしくて。
ごちゃごちゃ考えるうちに気持ちええのでいっぱいにされる。

「脱がしてええですか?」

「う、ん…」

やりにくかったんか、それとも俺のが苦しそうやと思ったからか、ズボンがパンツごと全部おろされる。
男同士とはいえ、あんま人に見られることのないそこを見られるのは、やっぱ慣れんし恥ずかしい。

「どろどろやないですか」

「…っ、や、やぁ…」

「どんどん出てきますよ?」

「ふ、あ…っ、ああ…っ」

自分のがどうなっとるかなんて見たらわかるのに、わざわざ光は口に出して言う。
それが恥ずかしくて仕方ないのに、下半身は反応しとる。

「続き、しますね」

「ひあ、あっ!」

ぐぷ、て生々しい音が聞こえたと思ったら、また中に指が入ってきた。
今度はさっきと違って好き勝手動き回って、俺の中を掻き回してくる。

「あッ、あ…っ、ひぅ、う、ああ…」

「そない締められるとヤバイっすわ…」

「や、う…あ、ああ、ひあ…っ」

「あー、ヤバイ…」

「ひっ!?や、あ、やや…ぁッ!」

二本目の指が捩じ込まれて、奥の方まで擦ってくる。
なんだかんだで解れてしもたそこは、簡単に咥え込んだ。
気持ちええ。
こんなとこ弄られとるのに、こいつの手つきのせいでやらしい声がいっぱい出てまう。

「ユウジ先輩、そろそろええですか?」

「ひかる…?」

「加減、きかへんと思いますけど、最後までしても…」

我慢できない、そんな顔されたら頷くしかなかった。
首を下に傾けると、足の間を割って覆い被さってきた。
光の余裕ない顔むっちゃ色っぽいなとか思っとるうちに、光のが後ろの口から少しずつ入ってきた。

「っあ!あ、あッ!」

「きっつ…」

そりゃあれからしとらんのやからキツイやろ。
俺やって痛いし。

「大丈夫、ですか…?」

「んなわけ、ない、やろ…」

「ですよね」

「…ッた!あ、おま…っ、ひあっああ!」

大丈夫やないて言うとるのに、ぐいぐい中に押し込んでくる。
異物感に、さっきとは違う涙が生理的に溢れる。

「や、あっ、ひ、い…っああ!」

「もっと力抜かんと痛いですよ」

「は、あっ、むり、ああ…っ」

光が俺の目尻にたまった涙を舌ですくう。
それと同時に、中が動き出した。

「ひか、あっ!やめ、あ…!」

「あかん…、加減できん…」

「っあ!そん、な…っ、あか…ッひああ!あッああ!」

いっぱい突かれて、ぐちゃぐちゃ、耳につく音が大きくなっていく。
痛いだけの初体験と違って、光のが入っとるのがわかる。
中で動いとるのも、光の息も、わかる。
それを感じる度、ぞくぞくして興奮する。

「ひ、んっ、あ!あ、あっ」

「ん…ここもされるとどうですか?」

「はっ、ああああ…!!や、ああ…っ!」

そんな激しく前も触られたらすぐにイキそうになる。
身体中に力が入って中が締まっとるのか、光も苦しそうに眉を寄せた。
一番深いとこまで入ってきたそれは奥の奥までぐちゃぐちゃにしてきて、もうイク寸前のところまで追い詰められた。

「ユウジ先輩…もう、イきます?」

「ひ、かぁ…い、く、イクか、ら…っ」

「…っ、俺も…っ」

「やッあぁあ!は、あっああ!」

どくどく波打つようになんかが上ってきて、俺はイッた。
同時に光のが抜かれて、熱くて白い液体が腹にかけられた。





「むっちゃ腰いたい…」

「せやから加減できませんて言うたのに。はい」

「おおきに…」

ベッドでうなだれとると、光がお茶を持ってきてくれた。
部屋全体に、別れ話する気まずさとは違う気まずい雰囲気が漂う。
たぶん、恥ずかしいとか思い出してとか、そういう空気。
俺はその気まずさは結構好きやったりする。
した後独特の達成感みたいなのがええなんて、女々しいとは自覚しとるけど。

「…で、結局、話したいことってなんやったん」

そういえばまだ聞いとらんかった。
身体にわからせるって最後までされても結局なんもわからんかったし。

「はぁ?せやから避けてすんませんでしたって言うたやないですか」

「そうやなくて、なんで避けとったんやってこと」

「まだわからんのですか」

「わからんもんはわからんし」

「はぁ…」

大きくため息を吐いた後、ぼそっと、ユウジ先輩はアホやからしゃあないかって聞こえてきた。
そんな光を俺が目を細めて見ると、もう一回息を吐き出してそっぽ向かれた。

「やから、この間してからユウジ先輩見とると…ヤりたくなるんすわ…」

「えっ…」

せやから自分を抑えとったんです。
照れくさそうにそう言う光の顔は真っ赤やって、こっちまで顔が熱くなってしもた。
それで今日あんな激しくされたんや。
なんちゅー不器用なヤツ。
避けるくらいやったら今日みたいにしてくれてもええのになあ、なんて思ってまう自分が恥ずかしすぎて、俺はもうすかっり冷たくなくなったお茶を一気に飲み干した。















――――――
2011.6.15
初財ユウエロです!
実はユウくんの泣き顔に盛った光(笑)
良平さまリクエストありがとうございました!

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