2011.3拍手:ちと蔵






静まり返った千歳の部屋に、荒い息だけが嫌に耳につく。

「蔵、」

「ん、ん…っ」

しかも荒いのは俺の息だけで、相手は普段と変わらない。
いや、雄になっている。
先程から繰り返されるキスは呼吸する隙さえ与えてくれない。
改めて、恋人である千歳千里も男なのだと思い知らされた。

「千歳…、も、あかん…っ、これ以上は…」

床に押し倒されている状態の俺は、その巨体をどかそうと腕に力を入れた。
当然、勝てないのはわかっている。
それでも、抵抗する素振りを見せなければ、わずかに残ったこの続きを止められる確率がゼロになってしまう。

「そげんこつ言われても、無理ばい」

「無理やなくて、やめてや…明日はメニューきつい日やから…」

「蔵なら大丈夫、」

千歳が力任せに覆い被さってくると、元よりそんな確率はゼロなのではと虚しくなる。
大丈夫なわけない。
この間だって、腰が痛くて仕方なくて全然動けなかったっていうのに。

「ん…っ、や…」

何度かキスをした後、いやらしい手つきで頬や首筋に触れてきた。
しかも、さらに追いつめてきたかと思えば、はた、と動きを止めて緩急をつけてくる。
だから、予測できないその手の動きに翻弄され、少し動いただけでも過剰に反応してしまう。
そういう敏感な身体にされてしまったのだ。

「あっ、や…っ」

するり、手がシャツの中に入り込んできて思わず身が強ばる。
あまりにも自然な動作に戸惑いつつも、もうだめだと観念した。

「ひ、あっ!」

それを感じとったのか、千歳は潜り込んだ指でヘソの周りに円を描いた。
くすぐったいはずだったここを触られてこんな声が出るようになってしまったのも千歳のせいだ。

「あ…っ、んっ、あ…」

「ここ、こげん弱かったと?」

「だれの、せい、や…」

「俺のせい?」

千歳はくつくつ笑った。
自分のせいだとわかっているくせに聞いてくる。
こういうところ、憎たらしいはずなのになぜか憎めない。

「じゃあ、責任ばとらんといかんばいね」

「せきにん?」

「そ、責任。蔵んこつ敏感にしたのは俺ばい。だから、ね」

だから、なに。

「もっと敏感になってくれてもよかとよ」

ああ、そういうこと。
千歳は俺の身体を、今よりもっとやらしい身体にする気だ。
そんなの御免だ。
ただでさえもう自分の身体を制御できないほど敏感になってしまったというのに、もっとだなんて。
けれど、

「責任のとりかたによるわ」

責任とってずっと側にいてくれるなら、それでもいい。
とろとろに溶けきった頭で、そんなことを思う俺は、きっともう千歳に思考回路まで犯されてしまっているのだろう。
千歳は笑って頷くと、深くキスをしてきた。



――――――

軽く逆プロポーズだよねこれ!!
ああもうはやく結婚しろお前ら!
そんなことを思いながら書きました(笑)