*千歳がすごく可哀想





タオルを忘れて部室に戻れば、よく知った声が聞こえてくる。

「あぁああんッけんやぁ…ッ」

ああ、今日の相手は謙也か。
確か昨日は財前と、一昨日はユウジとこういうことをしていたくせに。
いつもいつも、よく何人もの男を相手にできるものだ。
こういう誰とでもするような人間を『聖書』などと呼んでいいのだろうかといつも疑問に思う。

「けんや、あ、あんッ、きもちええ…っ、すき…っ」

「好き」という単語がこんなに軽いものだった思うようになったのはこいつのせいだ。
だから、俺はこんな人間を好きになったりはしない。
絶対に、好きになってはいけない。
そんなことはわかっていた。





きっと恋じゃない






「千歳、」

部活が終わったあと、白石が俺を呼び止める。
なんだろうと思う前に、白石は背伸びをして耳打ちした。
俺はそれを聞いて了承して、制服に着替えた。

『今日したいんやけど、ええ?』

小声でもはっきり聴こえたその言葉に、俺は動揺を隠せなかった。
つい今さっき謙也に抱かれていたのに、もう他の男とするなど信じられない。

(結局、相手は誰でもよかとね)

白石とは、だいたい一週間に四回くらい、割りと頻繁に交わっている。
身体の相性も悪くはないからそれなりにお互い気持ちよくなれる相手。
それでも付き合っていないのは、こういうことだ。
要するに、白石にとって自分を抱いてくれる男は皆ただの性欲処理の玩具でしかない。
謙也も、財前も、ユウジも、そして俺も。
白石が俺を玩具だと思っているのなら、俺も白石を性欲処理の玩具だと思わなければやってられない。
謙也とニコニコ話している白石を見ても、もう苛立ちしか感じられず、俺は白石から目線をそらした。





俺の家まで我慢できないという白石に誘われて、俺は部室の裏に連れてこられた。

「千歳…」

俺の名を呼びながら上目使いで口をじっと見つめてくる。
キスしてほしくて仕方ないというような潤んだ瞳。
白石を抱く男はこれにやられるのだろう。

「しょんなかね…」

「ん…」

それに応えてやるようにキスしてやると、白石はすぐに舌を絡ませてきた。
甘い舌、けれど数時間前に他の男と絡み合った舌だ。

「は、あ…」

「ん…」

「あ、ちとせ…」

「………」

壁に押し付けてシャツを捲り上げれば、数えきれない程つけられた痕。
その一つ一つの上から、さらに自分の痕を重ねて付けてやる。
束縛したいとか、独占したいだとか、そんなことを思った訳ではなく、ただなんとなくその無数のキスマークを上書きしてやりたかった。
白石は俺の所有物だと、白石自身に認識させたかっただけだ。

「こげんキスマークつけて、白石は悪い子だったと?」

「ん、ちが…」

「お仕置きせんといかんばいね」

別に白石を悦ばせることを言ったつもりはないが、白石はすごく嬉しそうな顔をして頷く。
お仕置きに期待する白石を膝立ちにさせると、すぐに腿にすりよってきた。

「ん…舐めたい…」

「ひとりえっちしながらなら、舐めさせてあげてもよかとよ」

「…うん、わかった」

まるで、エサを前に「待て」状態の犬だ。
ズボン越しに膨らんだ俺の性器を見ているらしい白石は、俺の顔など見もせず性器が取り出されるのを待っている。
お望みどおりズボンを下ろしてやれば、飛びつくようにそれに頬擦りしてきた。

「あん…おっき…」

「………」

「舐めてええ?」

においを嗅いで耐えられなくなったのか、まだ返事をしていないのに先端をぱくっと一気に咥えた。
白石はフェラするとき、焦らしたりしない。
それは、早く自分が性器を咥えたいから。
ここまでこれば淫乱なんてもんじゃない、男性器依存症だ。

「あ、ん…んん…」

「ほらひとりえっちは?」

「ぅん、ん、んんぅ…っ、んっ」

咥えながら両手で自分のベルトを緩め、勃起した性器に手をかける。
先走りがどくどく漏れ出すほど勃ち上がったそこは、卑猥な水音を発しながらさらに固くなっていった。
俺のを舐めて余計に興奮しているのか、白石の顔が快感に歪む。

「ふぁ、あっ、はふ…、んん…」

「ひとりえっち、気持ちよかと?」

「う、ん…きもちええ…あっ、あ…ッ」

「お尻も弄らんといけんよ」

「ん、ふぁ、ああ…」

涎なのか俺の先走りなのかわからないものが地面にぽたぽた落ちる。
白石はそれを指で絡ませ、そのまま穴へもっていった。

「あっ、ぐちゅぐちゅいうてる…」

「やらしかね…」

「ん…っ、う、ふぁ…んぅぅ…」

いやらしい音をたてながら穴を弄り、再び奉仕を再開する。
先走りを舌先で受けとめ、口内に運んで飲み込んではまた舐めるの繰返し。

「あん…ちとせ…ぇ…ちんちん、は…っ、まだ…?」

「いれてほしか?」

「ん…ほしい…も、こんな、やから…」

媚びるようにやらしく俺を見つめながら、ぐちゃぐちゃと指を出し入れする。
やらしい。
つい生唾を飲み込んでしまうほどに卑猥な白石の姿に下半身が疼く。

「淫乱さんは「待て」ができなかね」

「あ、ん…いれて…ほしい…ちんちん…はよぶちこんで、じゅぷじゅぷしてやぁ…」

「だーめ、お仕置きせんと」

「んっ、ぅぐ、うぅ…」

喉の一番奥に無理やり突っ込んで、白石の頭を掴みながら腰を振る。
それでも白石は吸い付きながら頭と手を動かして悦ぶもんだから、お仕置きにならない。
こうなったら、顔射してやろうか。

「ん、うぅ…んんっ、」

「…あ、でる…」

「や、あっ、あん…っ」

射精直前で引き抜けば、白石の顔めがけてびゅくびゅくと数回に分けて吐き出される精液が、徐々に白石の顔を汚していく。
頬や髪や口元が白い液体でどろどろになったというのに、それでも白石は嬉しそうにそれを指ですくって口へ運んだ。

「濃いなぁ…おいし…」

「それはよかったと」

「うん…なあ、もうがまんでけへんのやけど…」

そうか、白石の場合おあずけすることが何よりのお仕置きになるのか。
けれどもう我慢できないのはこっちも同じだ。

「ん、後ろ向いて」

白石を後ろ向きにさせて壁にもたれさせ尻を突き出させると、待ちきれないのか、アナルをひくひくさせて誘ってきた。
それに反応して下半身が耐えられなくなった俺は、もう一気に突っ込んでしまった。

「ああっ、あっ、はよおく…いれてぇ…!」

「ん…、」

「あッ!!あぁあああんッ!おっきぃ…っ、こわれちゃう…っ」

「いま壊しちゃる、」

「やああん!!ひろがってまうっ!がばがばになっひゃうぅ!!」

難なく俺のを飲み込むほど年中緩いくせに、これ以上緩くなるものか。
緩すぎるアナルにイラついて、さらに広げるようにピストンを繰り返して白石の中を貪る。
締め付けられるというよりは、摩擦で気持ちがいい。

「ちと、せの…ちんちん、すき…っ、おっき、あッ!しゅご、おっきぃ…っすきぃっ!」

「奥まであたると?」

「ああああ!!おく…っああん!きもちええよぉ…!あ、そこもっと!こわしてぇ!」

白石の尻を引き寄せて深く繋がれば、よがり声をあげておねだりをしてきた。
はしたなく涎を地面に垂らして嬉しそうに惚悦した顔をしながら腰を振りまくる姿のどこが『聖書』なのだろう。
ただの淫乱の間違いだ。

「あーっ、あぁあぁん!きもちええ…あ、ひゃうぅ…っ!」

「ぐりぐりがよかとち、この前言うとったばいね。もっとしちゃる」

「ああん!そ、な、ぐりぐりっあか、あん!きもちええッ…ちとせぇ…すきぃ、あぁんッ!」

俺じゃなくて、尻に突き刺さっているものが好きの間違いじゃないのか。
もう本当に壊す勢いで揺さぶってしまえば、緩いアナルが急に締め付けてくる。

「あっ、やあ!あか、あああぁ…っ、イクっ、イッひゃうぅっ!ちんちんからザーメンでてまうぅう!」

「もう?前触ってなかとよ?」

「やぁあ!イク!イク…後ろのお口でイっひゃうぅッ!」

迫ってくる内壁がキツすぎる。
もう限界だ。

「あああ!くるっ、なんかぁ…っくる…あ、ああ、あああああんッ!!!!」

白石は絶叫しながら身体を震わせたけれど、毎日ヤリまくっているからか精液が飛び散ることはなく、ほぼ空イキしていた。
白石が達した余韻で中が痙攣して、俺も一番奥で射精した。

「はぁ、あん…きもちよかった…」

まだ中の精液を掻き出していないというのに、お構い無しに白石は足元にずりさがったズボンを履いた。
短い余韻、こういうところで慣れているなと思ってしまう。

「今、何時や…?」

「もう七時半ばい」

「七時半?あかん、もう行かな」

「どこへ行くと?」

「財前の家……CD返しにな」

ああ、今日は3人も相手がいたのか。
CDなんて口実のくせに。
どうせ財前とも身体を重ねて、明日はきっとユウジあたりとするのだ。
だから、俺はこんな人間を好きになったりはしない。
絶対に、好きになってはいけない。
好きになったら最後、辛くて苦しくて仕方なくなるのはこっちだ。
そんなことはわかっている。
わかっていた。

「千歳、また明日もしよな」

わかっているのに、なぜそう言われてほっとしている自分がいるのだろう。
白石のことが好き、そんなはずはないのに。
白石が誰と何をしようが知ったことではないはずなのに、どうしてなのか。

「白石、」

「ん…?」

ふと、思いついたように白石の唇に優しくキスをする。

「また明日ね」

「うん」

嬉しそうに笑う白石はひどく憎らしくて、愛らしい。
これはきっと、恋じゃない。
恋じゃない。
そう必死に、自分に言い聞かせた。















――――――
2011.4.1
く、暗い…!
なんだか白石に本気だと気づいてない千歳になってしまいました申し訳ないです><
うみさまリクエストありがとうございました!

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