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*光に猫耳尻尾生えます





「なあ、今日ちょっと家こおへん?」

部活帰り、白石部長はにっこり笑って俺と謙也さんに言うた。
なんや知らんけど嫌な予感がする。
絶対行ったらあかんって、本能的に感じとった。

「ええけど…なんで?」

それは謙也さんも同じやったみたいやった。

「なんでも、や。来るやろ?」

「お、おう…」

「……はい」

笑顔と空気で強制的に頷かされた。
蛇に睨まれた蛙っちゅーのはこういうことを言うんやないやろか。
そうして、俺らは白石部長の家に行くことになった。





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「なあ光、なんの用やろか?」

「さあ…」

普通に白石部長の家に来て部屋に上がらせてもらった俺らは、床に座って麦茶取りに行った白石部長を待っとった。

「俺むっちゃ嫌な予感するんやけど…」

「あ、奇遇ですね。俺も嫌な予感します」

「お前も?あの笑顔は怪しかったよな…」

「っすよね…」

小声でひそひそ話しとると、階段昇ってくる音が聞こえて二人して黙った。

「おまたせ」

ドアを開けて入ってきた白石部長は、お盆に麦茶の入ったコップを二つ乗せとる。
麦茶、そう、麦茶を。
いや、麦茶にしては色がおかしい。
ちゅーか、二つとも色違うし。

「白石、なんやそれ…」

白石部長はお盆を机の上に置くと、俺が聞くより先に謙也さんが口を開いた。

「麦茶やけど」

そんなどや顔で言われても麦茶やないのは明らかや。
やって、麦茶って黒と緑やないやろ。
むしろ腐った麦茶と緑茶にみえる。

「どした?はよ飲みや」

「し、白石…これほんまに麦茶なん?変な色した麦茶やな…」

謙也さん、顔がひきつっとる。
まあ無理もない。
この臭い、明らかに麦茶やないし。

「まぁ細かいことはええやん」

「よおないわ!お前、俺らを殺す気か!」

「失礼な…殺す気はないで?ただちょっと実験体になってもらうだけやって………あ」

白石部長は、しまったという顔をして口を押さえた。
今なんや怪しい単語が聞こえたような。
実験体って言うたよな。

「実験体…?」

「あー…そんなこと言うたっけ?」

「おん、言うたで。な?」

「はい…言いましたね」

「どういうことや」

気まずそうに視線をそらす白石部長に、謙也さんが詰め寄る。

「なあ、これなんや?」

「えーっと…ははは…」

「なあ!」

「……しゃあないな…強行手段や!」

「なっ!」

白石部長の舌打ちが聞こえたと思ったら、素早くコップを手に持って、二人のやり取りをみとった俺の口に持ってきた。
何が起こったのかわからんうちに黒い液体が口の中に入ってきて、苦いのと不味いのと臭いので頭が痛くなった。

「ぅあ…っ!?」

「ひかる!?」

身体から力が抜けて、俺は床に倒れた。
なんやこれ、不味すぎてむっちゃ頭痛い。
頭だけやなくて、腰っちゅーか尻も痛い。
意識飛びそう。

「えっ、ひか…っ」

「……エクスタシーや…」

俺の顔覗き込んどる二人が、びっくりしとる。
そりゃ変なもん飲まされて頭痛なったら倒れるで。
こんな不味いもん飲ませよってからに。
っちゅーかこんな時までエクスタシーかい。

「エクスタっとる場合やないで白石!お前何飲ませたんや!」

「俺が作った、特製猫汁や」

「なんやねんそれ!」

「見ての通りや。この耳…実験は成功や」

見ての通り、耳?
白石部長が俺を見下ろしながら満足そうに笑う一方、謙也さんは真っ青な顔しとった。
恐る恐る違和感のある頭に触るとモフモフしたものが生えとるのがわかった。

「…これ…なんですか…?」

「はい、財前」

白石部長が手鏡を俺に向けてきた。
起き上がって鏡を見れば、そこに写っとる俺の頭に髪の毛とはちゃう何かが生えとった。

「な、な、なんやこれー!!」

猫耳や。
猫耳が生えとる。
まさかと思って腰を触れば、もこっとした綿みたいな感触がした。

「もしかして、尻尾も生えたん?」

白石部長は嬉しそうに聞きながら俺のズボンに手を突っ込んで、その綿みたいな何かを取り出した。
後ろを振り向けば、そわそわ動く長い尻尾がにょきっと生えとった。

「う、嘘やろ…?なんやねんこれ…」

なんやこれ、俺、猫娘っちゅーか猫男になってしもたんか。
こんなんありえへんやろ。
わけがわからん。
混乱しとる俺をそっちのけに、白石部長と謙也さんはぎゃあぎゃあ話しとる。

「俺、天才やな…」

「天才とちゃうわアホか!どないすんねんこれ!」

「ノーベル賞貰えるんとちゃう?」

「お前最低やな…これ治らんかったらどないするつもりや」

もし治らんかったら。
その言葉を聞いてさっと血の気が引くように心臓が重くなった。

「こ、これ…治らんのですか…?」

「んー…まだ実験段階やからなんとも…」

「俺、一生このままなんすか…?」

「ひ、ひかる…」

もしかして、一生猫男なんか、俺。
そんなん嫌や。
もう外歩けへんやんか。
テニスもでけへんし、白玉ぜんざいも買いにいけへん。
もうこれから一生そんな生活なんか。

「う…っく、ぅ…」

「あーほら光泣いてしもたやないか」

謙也さんは俺の頭を撫でてくれた。
いつもやったら振り払ってやるのに、今はそれが嫌やなかった。
むしろ、本格的に猫みたいになってしもたんか、ちょっと気持ちええ。
せやけど謙也さんの手が猫耳をかすった瞬間、

「にゃ!?」

「ひ、ひかる…!?」

びくっと身体が震えて尻尾が立ってピクピク動いた。
なんや今の。
むっちゃ変な感じがした。
あかん、猫耳はあかん。
猫男のくせにチワワみたいに身体の震えが止まらへん。
そんな俺の反応を見た白石部長は、ニヤリと口角を上げた。

「ほら財前、男の子なんやから泣いたらあかんで」

「にゃあ!」

確信犯や。
白石部長は直接猫耳だけを狙ってきた。
ムカついてめっちゃ睨んだったけど白石部長はニコニコ笑うだけで、謙也さんなんか顔真っ赤にしてびっくりしとった。

「ちょ、光…にゃあて…」

「にゃあ?そんなん言うてへんですけど…」

「いや、言うたで。無意識なん?」

「はあ?」

にゃあなんて猫みたいな鳴き声、一言も喋っとらん、はず。
謙也さん、耳悪くなったんとちゃうか。

「ちょお、尻尾も触ってみてええ?」

ええですともなんとも言っとらんのに、謙也さんは勝手に尻尾に軽く触る。
なんやろ、嫌な感じ。

「謙也、ちょっとかして」

「ん?」

「なにするんですか?」

「うん、」

白石部長は尻尾の先をぐにぐに揉むみたいに弄った。

「にゃ、あ、あっ!」

またや。
また変な感じがした。
謙也さんに触られたときとはちゃう感じ。
これあかん、腰がぞくぞくする。

「ちょ、白石…なにしとるん…」

「見ての通り、尻尾触っとるだけやけど?」

「いや、それはわかるけど…」

「なんや、興奮しとるん?ちんこたっとるで」

「な…っ!?」

謙也さんは慌てて股間を押さえた。
なんで謙也さんのちんこたっとるん、意味わからん。
ちゅーか、白石部長もちょっとたっとるような気すんねんけど。

「財前…むっちゃかわええな」

「ひゃ、あ…!みみ、いやっすわ…っ」

「尻尾とどっちがええの?」

「あか、あ、にゃ、あっ!」

猫耳をはむはむ甘噛みされてますます変な感じがするようになったところで尻尾も弄られて、俺の身体は火照ったように熱くなってった。
白石部長も謙也さんも過剰に反応する俺のことを見ながら生唾を飲んだ。
ちゅーか、白石部長目つきやらしいし、謙也さん鼻息荒い気いすんねんけど。

「なあ白石…」

「ん?」

「ちょっと」

謙也さんは白石部長の耳元でこそこそ話した。
白石部長も謙也さんの耳元で何か話して、また謙也さんが話した。
こっちの方ちらちら見ながら白石部長が「ええで」って頷くと、謙也さんは俺の方を見て信じられない行動を起こした。

「謙也さん…!?」

いきなり謙也さんは俺の手首を強く掴んで床に押し倒してきたんや。

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