act-6 蔵をあんな身体にしたのは浮気防止のためだったのに、見事に裏切られたものだ。 蔵を見捨ててから十日ほどたつけれど、蔵は俺にすがりついてくる様子もない。 症状が出たときはどうしているのだろう。 また千歳や財前のを飲んでいるのだろうか。 できることなら俺の蔵に手を出した千歳と財前を殴ってやりたいけれど、蔵が自ら求めたならそれはお門違いというものだ。 ああ、もうイライラする。 何もかもが許せない。 (あ、忘れ物したわ) 部活帰り、部室にタオルを忘れたことを思い出して、俺は部室に戻った。 まだ鍵を閉めていないだろう。 蔵がいるかもしれないけれど、無視すればいいだけの話だ。 部室のドアに手をかけると、話し声が聞こえてきた。 「白石、そろそろ欲しいんじゃなかと?」 「や…っいやや、やめてや…」 この声は、千歳と蔵だ。 まさか、まだ懲りていないのか。 俺のが飲めなくなったから他人にそれを求めるなど、随分と淫乱になったものだ。 やはり捨ててよかった。 そう思っていたけれど、二人の会話を聞いているとどうも何かがおかしかった。 「いやや…っ、おねがいやから…」 「そげんこつ言って、嫌がっとるようには見えんばい」 「いや、けんや…たすけて…っ」 「はは、謙也は助けに来なか」 どういうことだろう、明らかに蔵は嫌がっている。 震える声を聞く限り、泣いているようだ。 蔵は、精液なら誰のものでもいいはずではないのか。 中毒症状を抑えられるなら誰のものでも構わない、そうではなかったのか。 「けんや…っ、けんやぁ…」 「ほらはよ咥えなっせ」 「けんやのしか…いやや…っ」 それがなぜ、俺の名前を呼ぶのだろう。 なぜ俺でないとだめだと悲痛な声をあげるのだろう。 考えられることはただ一つ。 すべて俺の思い込みだったということ。 そう思った瞬間、心臓が飛び上がった。 俺は何ということをしてしまったのだ。 俺の精液でないとだめだと、十日前のあの日も言っていたのに、蔵を信用せずに何日も与えずに突き放してしまった。 自分が犯した過ちに、もはや思考回路が停止してしまいそうだ。 しかし、放心状態になっている暇などない。 早く蔵をここから連れ出さなければ。 俺は勢いよく扉を開けた。 「あれ、謙也?」 「……けんや…っ」 開けた瞬間、千歳と目が合ってすぐに蔵に目線がいった。 床にぺたんと座った蔵が今まさに千歳のを咥えようとしているところだった。 それも自らしようとしているのではなく、千歳に頭を掴まれて無理やり。 「ちょお、俺のもんに手出さんで」 「…なして?もう捨てたんじゃなかと?」 「うっさいわ。はよ返せ」 俺は蔵の手を強引に掴み立たせた。 俺の手から蔵の手を奪い返そうとする千歳の手を振り払い、足に力が入らない蔵を引きずるようにして部室を後にする。 千歳が追ってくる気配はなかった。 「謙也…」 「………」 「…ごめん、なさい…」 後ろで蔵が啜り泣く声が聞こえた。 けれど、今はとにかく二人きりになりたくて、俺は無言で蔵の手を引っ張りながら歩いた。 家についてすぐ、俺の部屋に入れた。 本当はシャワーで他のヤツに触れられた身体を綺麗にしてやりたいけれど、それどころではない。 俺が放置している間どうしていたのだろう。 それだけがずっと気にかかっていた。 「なぁ、今まで欲しくなったときはどないしてたん?」 「……自分の…飲んでた…」 「自分のって…お前、自分の精液飲んだん…?」 蔵はゆっくり、静かに頷いた。 やはり千歳や財前のを飲んでいるというのは俺の勘違いだったのだ。 風呂場で無理やり蔵のを舐めさせたときは物凄く嫌がっていたというのに、なんということだ。 「俺…もう飲まんと生きてけへん…どないしたらええん…」 蔵の目からぼろぼろ涙が零れて、頭が垂れた。 精液を飲まずにはいられないなどというとんでもない身体にしてしまったのは他でもない、俺だ。 俺の身勝手な欲望で、一人の男の人生を狂わせた。 自分の精液を飲むほど蔵をここまで追い詰めてしまったのは俺の責任だ。 「けん…」 抱きしめる以外に何ができただろう。 この方法以外に泣いている蔵を黙らせる方法が思いつかなかった。 「ごめん」 「…けんや…?」 「俺が悪かった…」 「違う俺が…ん…っ」 更に自分を責めようとする口を塞いで、また両腕に力を込めて、痛くなるほど抱きしめた。 もう、こんな狂った関係も終わりなのかもしれない。 俺といると、蔵は不幸になる。 今ならばまだ、きっと元の精液中毒でない身体に戻れる。 これから長い人生、俺のせいでこれ以上蔵を不幸にしたくない。 「もう蔵を縛るようなことはせんから…」 「謙也…?」 「せやから、お別れしよか」 今までごめんな。 そう言おうとしたのに。 「いやや!俺はもう謙也がおらんと生きてけへん!」 「あかんて…これ以上蔵の身体がおかしなったら…」 「やや!離れたない…っ、俺は謙也にやったらどんなことされたってええから…!」 「蔵…頼むから言うこと聞いてや」 そう言っても、蔵は首を横に振りながら俺から離れようとはせず、すがるように必死にしがみついている。 「いやや…お願いやから捨てんといて…謙也がおらな生きてけん…」 「せやけど…今ならまだ戻れるやろ…」 「…戻れんでもええ」 「蔵、」 「こんな身体にしたのは謙也なんやから…最後まで、責任とってや…」 潤った瞳が、真っ直ぐ俺を捉えた。 本気だ。 蔵は、俺に支配されることを本気で望んでいる。 今ならまだ間に合うというのに、蔵はこのままの身体で構わないと言う。 それを聞いて、俺の中で何かが弾けた。 「どうなっても、知らんで…」 「ええよ、謙也と一緒なら俺…ん…」 言いかけた言葉が何かは知らないけれど、俺はその言葉を聞いてはならない気がして、唇をまた塞いだ。 きっとその言葉を聞いていたら、取り返しのつかないことをしてしまう。 それこそ、誰も幸せになれないようなことを。 「謙也…」 「…飲みたい?」 「…うん…飲みたい…」 その言葉を合図に、俺はすぐにズボンを降ろした。 俺の性器を見るなり、蔵は性器に飛びついて無我夢中にしゃぶりだした。 余程これが恋しかったのだろう、先端から溢れる先走りをひたすらに舐めとっている。 「はぁ、あ、んん…」 「蔵、ええよ…」 「ん、う…」 今度は奥深くまで飲み込み、両手も使って奉仕し始めた。 先程のように、千歳に無理やりされそうになっているのとは違う。 蔵自ら頭を動かして、俺の射精を促しているのだ。 それがたまらなく嬉しい。 「んン…は、あ…」 荒い息が根元にかかって、くすぐったいような感覚が心地いい。 強く吸いながら激しく頭を動かされ、先走りではなく濃い精液を早く大量に飲みたいというのが伝わってくる。 「ん、出すで…」 「んん、ン…、…!」 すぐに楽にしてやろうと我慢せずにいつもより早く、蔵の口の中に精液を吐き出す。 蔵はうっとりした表情をしながら、口を開けて舌に絡みつく精液を俺にみせた。 俺が吐き出した精液が蔵の舌を真っ白に染め、ネバネバと糸を引いていた。 「ほら見てや…こんなに出たで」 「久しぶりやからな」 「んん…うれしい…けんやのせーしや」 そう言うと蔵は味わうように精液を飲み干した。 むせることなく喉を鳴らしながら、勿体なさそうにゆっくり体内に取り入れていく様子は、ひどく扇情的だった。 「な、はよ…ここに入れてや」 「ちょっと待ってな」 休むこともせず、蔵はベッドで足を広げて俺を誘った。 萎えた性器を軽く扱き、俺は早急に後ろの口に性器をあてがった。 「はよ…後ろの口が寂しい…」 「わかったから」 急かされて、ひくひくと疼いているそこにゆっくりと性器を突き刺していく。 そこはいつもと違ってキツく、絡みつくように包み込んでいった。 「んっ、あ、あ…」 「ほら、これで寂しないやろ?」 「う、ん…寂し、ない…っ、おなか、いっぱい…っ」 離さないと言わんばかりに締めつけてくるこの感覚に耐えられなくなって、律動を開始する。 蔵も、少しでも離れないようにして腕を絡め、一緒に動き出した。 「あっ、けんやぁ…!ああっん!」 「どや、久しぶりのちんちんは…気持ちええ?」 「んぅ…きもひいよぉ…っ、あ!んあぁ!もっと奥…ぅ…突いてぇ…!」 きゅっと切なく締めつけられ、動かすのさえ辛い。 それでも、早く出して蔵を気持ちよくさせてやるのを優先したい。 「あッひッああ!け、んや、も…ああッ…きもち、い…?」 「おん、気持ちええ…めっちゃ締まっとる…」 「あッあ―ッ!そこややぁ!!あん、あ…っあああ!」 蔵が気持ちよくなれる場所を何度も擦り付けてやれば、中がさらに締まる。 気持ちよさそうに蕩けた目を見て、少し安心した。 お互いが気持ちよくなるセックスは久しぶりだ。 「けん、や…けんや…っ、すき…」 「ん、俺もめっちゃ好きや」 「あっあっ、イッひゃう…あぁ…ちんちんからせーしでちゃう…っ」 「出してええねんで…一緒にイこな」 「やや…っ、まだ…ややぁ…もっと、してほし…や、ああ…っあああああっ!!」 嫌がっているのとは裏腹に、搾り取るように迫る内壁。 それに耐えられず、俺は蔵の最奥にどくどくと精液を注ぎ込んだ。 蔵も先端から勢いよく精液を吐き出し、腹や胸の辺りまで飛び散らせていた。 「あっ、ん、…あ、あ…」 大きな快感の波の後も、数回動かして一滴残らず全ての精液を出す。 蔵は小さく喘ぎながら、精液の感触と達した余韻に震えていた。 ようやく全て出し切り、引き抜こうと腰を浮かせた瞬間、 「やや…っ、抜かんといて…!」 「…っ、くら!」 「もっと…っ、けんやのせーしほしい…」 頬を紅潮させながら上目使いで誘われ、これでもかというくらい締めつけられた。 俺の性器は蔵の中で再び熱を持ち始め、すぐにもっと奥へと突き進めてしまう。 「あっ、やぁあ!あ、あああんッ!」 「…蔵、ほんま…どうなっても知らんで…」 「ああ!あっあッきもちい…っ!ああああ!もっと、ついて…っ、ああん!」 萎えることなど知らないように、下半身に熱が集まっていく。 加減する余裕など、もうどこにもなくなっていた。 こうなったらもう、欲望のまま腰を振るしかない。 「はぁ、はぁ、くら…っ」 「ああっあん!…け、やぁ…あぁ、ひあ、あっ!」 「くら…好きや…っ」 「…れも…すきっ、すき…」 そうして、俺の限界がきて蔵が気絶するまで、俺は精液を注ぎ続けた。 決して吸収などされず、掻き出される運命だとしても、蔵の中に熱を植えつけたい。 今まで以上にお互いを感じていたい。 そんなことを考えながら貪るように蔵を求める俺も、ある意味異常なのかもしれない。 あるいは、白石蔵之介中毒にでもなってしまったのだろうか。 もしそうだとしたら、これからお互いに依存し合って生きていかなければならないのだから滑稽だ。 けれど、どのみちもう離してやる気など微塵もない。 もう二度と俺の腕から逃さない。 その代わり、蔵の望む俺自身を全てをあげよう。 それが、蔵の身体を変えてしまった俺だけが、唯一してやれることだと思うから。 *end* ―――――― 2010.12.11 完結です! 短い連載でしたけど、すごく長い間連載していたような気がします。 バッドエンドバージョンもありますので淫乱白石が好きな方はどうぞ^^笑 ともあれ、ここまでお付き合い下さりありがとうございました! 戻 表紙 |