Belly black | ナノ




trick trick trick!!


※OSTER_project様の『trick and treat』のパロディ小説になっています。






深い深い霧の中、幸村は道に迷っていた。
森に来たのは趣味のガーデニングの参考にしようと思って、軽い気持ちで来ただけだったのに、まさかこんなことになろうとは…。

「まいったな…こんなに霧が出てきたなんて…。」

がむしゃらに動いてはいけないと思うのだが、何故だか足が進む。

―――キャハハハハハ!!
――ハハッハハハハ!!

「!?」

もっと奥の方に進んだ時、笑い声が聞こえた。
キャハハ、と元気な声かと思うが、妖艶にも聞こえるこの声、
高い声と低い声がこの森の中で響く。

すると先ほどの声の持ち主だろう。
幸村と同じぐらいの年の少年。
それから女物の服を着ているが、きっと少年なのだろう。
しかし少年と言うよりは女性の雰囲気と言うべきなのだろう、そんな雰囲気。

「なんや?兄ちゃん迷子か?」

「そうなんか?」

「うん…霧が濃くて、迷っちゃったんだ。」

「ここの森は霧深いから危ないでー、な?白石!」

「せやな。やったら俺らの家においでぇ、幸村クンこっち来ぃや。俺らの家はもっと奥深くにあんねん。」

「え?いいのかい?」

「ええで!だから早ぅ早ぅ!!」

稀奈が幸村の腕を引き誘導する。

「ちょ、待ッ!」

「おいでぇや!そんでワイらの家についたら、めっちゃ愉しい――。」

「「遊戯をしようや!」」

幸村は強引な稀奈に戸惑いつつも、
右も左もわからない森の中で一人で居るのは恐ろしかったから、こうやって人と出会えて、今日の宿まで手に入って、とても心が安らいだ。


「ホラホラ幸村ぁ!このシナモンスティックメッチャ美味いで!
しかもこれ魔法のステッキなんやで!!」

「へぇ、それは凄いな。どんな魔法が使えるんだい?」

「あんな!一回、ヒュンって振るだけでこのビンの中のシロップが増えんねん!!
見といてや!!行くでぇスーパーウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐ぃい!!」

稀奈はシナモンスティックを大きく振り回した。
するとどうだろう。
ビンの中のシロップが増えているではないか。

「金ちゃんはすごいなぁ、ホンマに魔法が使えるやなんて。」

そう言う白石の背中にまわしている右手には先ほどの空になっていたビンがあった。
どうやらただ単にすり替えただけらしい。

そんな光景を幸村は微笑ましそうに見つめている。

「…―――ファア…なんだか眠くなってきちゃったな。」

「そうなん?やったらもう寝ようか!疲れとるんやろ!!いっぱい甘いもん食ったから幸せな夢見ると思うで!よかったやん幸村!!」

「うん、見れると良いな。」

迷子になってしまった嫌なことさえ忘れることが出来そうな甘い夢が見たい。

幸村は稀奈に案内された部屋へ。
そこにあった天蓋付きのベッドに横になって眠りに堕ちる。



それから稀奈と白石は幸村が寝たことを確認して、二人だけの対話をする。

「……うん、寝たよぉ?よっぽど疲れてたんだろうねぇ。すぐ寝ちゃった。
それか…私達をよほど信頼してるのか。」

先ほどまでのヤンチャな空気は纏っていない。
纏っているのは妖艶と表現すべきだろうか、そんな空気が今この部屋には充満している。

「ええやん。俺らが優しいっちゅー幻想に溺れたままで、」

「そーだねぇ、私の催眠に溺れ続けていればなおいいなぁ。
折角私達が一演技うって本性を見せない様に目隠しをしてるんだからさ。速攻でバレたら面白くないもんねぇ。」

「せやなぁ、目ぇを隠されて不安定な足元は俺が引いてやらんといけんな。
注意せんと溺れてまうで?」

「キャハハハ!!それが目的なクセに!
幸村は私に身を委ねればいいんだよぉ、今すぐに!!…あ、でももう委ねてるかな?」

「さぁ?」

「嗚呼!新しいオモチャ!アタラシイ玩具!!何年振り!?ねぇねぇ、ねぇ?幸村、私の玩具になってちょーだいなぁ?」

愉しい楽しいタノシイ遊戯。
やっぱりこの時期はいいね。すぐにこうやってあちらから来てくれるんだもん。


幸村は何日かここで過ごしていた。
霧が晴れたらすぐにここを出て行くつもりだったのだが、
なんだかここを離れるのが寂しくなっていったのだ。

寂しかったこともあるし、その上楽しかったのだ。
ここで稀奈と白石とおしゃべりをすることが。


しかし今、幸村が抱いている想いは疑念。

ただただ楽しいだけなら抱くことのない思いの刃。
そんな思いが幸村の中で見え隠れする。

いつも寝るまで稀奈は幸村を好きだと言う。
カッコよくて、綺麗で、強くて、儚くて、好きなのだと言う。

さっきも幸村がこのベッドで寝るまでしきりに言っていた気がする。

好意を向けられて嫌な思いはしない。


しかしその好意が嘘なのだとしたら?
その好意は悪いことをしてしまったとき、許してもらうための免罪符だとしたら?

こんな相手を疑う思いは抱いてはいけないのに、
ましてや自分を助けてくれた恩人に、

だからこんな疑念を消し去るためにこれからもう一回稀奈達に会いに行こうと思う。
寝ていたベッドから起き上がり、底冷えのする廊下をぺたぺたと歩いて行く。

さっきまでワイワイ騒いでいた部屋に居るのだろうか?

目的の部屋の前について幸村は半開きになっている扉から中を覗き見る。
そして幸村の思考は凍る。

だって、折角稀奈達が幸村を怖がらせまいといい子ぶっていたのに、
いい子ぶって本性を見せない様に幸村に対して目隠しをしていたのに、
幸村はその隙間からわざわざ見なくてもいいものを見てしまったのだから。

二人の話し声が聞こえていたのだ。
部屋の電気は落とされ、ランタンだけの光で二人は雑談をしていたのだ。

その雑談を聞いて、
ランタンが映し出す三人の姿に思わず身の毛がよだったのだ。

稀奈が黒髪の少年を壁に追い詰め話をしてる。
白石が壁に寄りかかってその風景を嗤いながら見ている。

「ねぇ。光クン!!今、どんな気持ち!?ねぇ、どんな気持ち!?
君みたいに迷い込んできた私の新しい玩具をみてどんな気持ち!?嫉妬しちゃう?ねぇねぇ嫉妬しちゃう?
でもだぁいじょうぶ!私は新しい玩具があっても君が壊れない限り捨てないから!!壊れない限りね!!」

「俺以外の…犠牲者、出さんといてや……。」

「君はそんなこと言って謙也クンを逃がしたんだもんねぇ。でも、本当に逃げれたのかなぁ?」

「ッどういうことや!!」

「んー?そのままの意味だけど?ヒントとしてはぁ、私…私のモノにならない玩具ってイラナイの。だからステタの…この世界から?キャハッ。」

「なっ!?」

「!?」

ガタン、
幸村が稀奈の発言に対して驚き、音を立ててしまった。
すれば幸村が覗いていて聞き耳を立てていたことがばれてしまったのだ。

「なんやぁ、自分思うとったよりも悪い子やんなぁ。
目ぇ覚めてもうたんか?」

「あー…ばれちゃったのかぁ。折角、目隠しして壊さない様にってしてたのにぃ……もう壊して盲目にするしかないのかなぁ?
ホラ、笑ってよ!!君が何も知らずに私に向けていた微笑みでさぁ!とっても虐めたくなる可愛いお顔でさぁ!!」

「あぁ、幸村クンかなり驚いてしもうとるやん。
もっかい稀奈が猫かぶりしたら笑ってくれるんやないか?」

「ナイスアイディア!
…幸村ぁ!なんで起きてしもうたんや?もしかして怖い夢でも見たん!?ワイが慰めてやろうか?
そうや!怖い夢なんて忘れてしまう位もっかい騒ごや!!」

「っ………いや、だ…ッ!!」

本性を知ってしまったのだから、もう騙されない。
幸村は一刻も早くここを逃げ出してしまたい。
そんな思いを抱きながら幸村は拒否した。

「あーぁ、つまんないのぉ、私達の本性を知ったらみーんなそう言うんだよねぇ。
別に悪いことしてないのにぃ…。
あぁ、そうだ。ここから出て行くって言うなら、此処で過ごした分の対価、ちょーだい?」

「………対価?」

「……ねぇ、ちょうだい?アハッ!」

今までになく妖艶に微笑む稀奈。
この笑みを幸村に見せたのは初めてだと思う。
幸村の動きが動揺したのか一瞬だけ止まった。
それから恐怖を抱き体がガチガチと震える。

「どないしたんや?幸村クン。そんな目ぇ見開いて…、
そんなに震えてしもうて…あぁ、廊下が寒いんやな?あったまりたいわなぁ。」

「温かいミルクでも飲みたいの?じゃぁおいで?いつもみたいにおもてなししてあげる!」

「さぁ、ここに入って来ぃ?暖炉もあって、温かいでぇ。」

白石が幸村を部屋の中へと引っ張り込む。

「ねぇ、幸村クン。私達こうやっていつもいつも甲斐甲斐しくお世話してあげたでしょう?
だから、見返りは幸村クン、…ポケットの中身でいいからね!」

「…ポケット?」

「うん!勿論、ポケットの中身って言うのは君のハート!心臓じゃないよ?君の心をちょーだい?
物は何にもいらないよ!だってかさばるんだもん!!」

「!?」

「ねー、頂戴よー。早く!ね!もう飽きちゃったよ!!早くちょーだい!!
ねぇ、もうほら!今すぐに!!」

「あ、あげるわけないだろ!?」

「そんな答えは望んでなーい!!…あ、でも望んでるかも!
ハートをくれないならこの世界から君はイラナイよね!?だからステラレても文句はないんだよね!?
それが嫌なら私にちょーだい!」

「ハハッ稀奈ー…それどっちにしたって結末一緒やん。」

「はぁ?二者択一なんてもん私の主義じゃなーい!今まで一緒に居てそんなことも分からないのぉ?そんなもの殴り捨てて踏みにじってやる!」

「いや、ちゃんと分かっとるで?実際謙也と財前のようなもんやん。」

「さぁ!幸村クン!!君はここで夢の様な経験をした!!楽しかったんだろう?私が愛おしいとさえ一瞬でも感じたんだろう?まぁ、それはまやかしだったわけだけど。
でもそれのおかげで噎せ返る様な甘い蜜を吸うことが出来たんでしょう!?だから感謝の意を示してちょーだい!!
私、聞き分けのない子はイラナイよ!だから寄越せよ!ホラ!!今すぐにさぁ!!!」

幸村は動けない、動けない。
整理がつかないと言ったら正しいか。
今までの事が幻想だったことを認めたくないからと言った方が正しいのか。

そんなことを考えている幸村なんかの状況は気にしない。

「「……―――――ちょーだい!」」


幸村が幸村で居たのは今、この瞬間が最後だったかもしれない。






――――――――――――
500000hit企画第18弾
チェシャ猫様リクエスト「『Belly black』で『trick and treat』/リン役が夢主でレン役が白石で招待されたのが幸村」でした。

こちらの方でのお答えとさせていただきました。
始めは前者の曲で頑張って解釈しようとはしたのですが…練詠の力及ばず、全く面白いものにならず…(これも面白いとは言えないでしょうが…)。
すみません…。

そして勝手に光君も登場させちゃいましたw←
どうしてこうなったwww

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