Belly black 第06話
「ん?どんな回転?」
それは…初耳だな。
「知りたいか?」
「うん。」
「教えて下さい白石様って言うんやな。」
「は?」
白石がとても偉そうにふんぞり返りながら稀奈の言葉を待っている。
「ほら、言いや。」
土下座してくれても構わんで、
「…君、ドSだね。」
「おん。」
「だったらこっちも考えがあるよ。」
椅子に座っていた状態から白石の正面まで歩いて行った。
「?…………ッ!?」
「私が教えてって言ったんだから教えなさい。君に拒否権なんてないの、あった時には天変地異の前触れだと思え。」
稀奈が白石の傷をグリグリと押さえつけている。
そりゃぁもう、金太郎の持てる力をフル活用してグリグリと。
「イテテテテテテッ!!??!堪忍!!教えるから、傷押さえんといて!!」
「ハンっ始めからそうしてよ。」
パっと手を離し稀奈は元座っていた椅子へと帰った。
「おーイテ、キャラ崩壊も激しいで。」
「これが私の素だよ。 ワイの性格は作られとるもんやってまだ白石は分からんのんか?アホやなぁ。」
「…やめぇ、…その口調で罵られるんはなんか屈辱や。」
「うん分かった。今度からも活用していく。
ほら、回転の話早く教えてよ。」
どうやら稀奈は白石の上を行くドSだったようだ。
「……俺の思ったところにボールが返ってくるように回転をかけとんや。」
「ふーん、それ手塚ゾーンみたいなものだね。」
「なんや稀奈手塚君知っとんか?まだ会うたこと無いやろ。」
「まぁ…ね。色々と。」
「前世になんか関係あるんか?」
「んー、君の想像にお任せするよ。
なんでそんな面倒くさいことしてるのさ。」
それが使えるなら手塚の様に動かなくてもよいのでは?
動くことが無駄、になるのではないか?
と聞く。
そして白石はニタリと嗤う。
「それはな、基本に忠実なテニスで負ける相手の顔が面白いからや。
ホンマ、おもろいで?
自分には必殺技があるからこんな基本しか極めとらん相手には負けん。そんな事思っとる輩はめっちゃ居るけんな。そいつらが俺のテニスに負けてみ?こんなしょぼい奴に俺は負けたんだって失望した顔してくれんねん。」
絶景や、とクスクス笑う。
「…でもそれとエクスタシーって関係ないよね?」
「いや、あるで?やって俺回転かけとるから相手が右に打ったつもりでも中央に行ったりするし、勘のええ相手やったら気づかれるやん。
やけど最後の一言、エクスタシーで全部のことが吹っ飛ぶやろ?」
「あー…確かに、問い詰めようとしてもそんなこと言われたら相手は怯んじゃうよね。」
「やから俺は基本に忠実なテニスをしてあのセリフを言っとるんや。」
「嗚呼、君はなんて腹黒い。」
「腹黒いんはお互い様やろ。」
「ま、ね。」
「で、この先どうするんや?俺について、これから今迄みたいな虐めがあるとは思えんのんやけど…。」
「んー確かに、金太郎が白石につくことによって意見変更する人も…居るかもしれないけど。
なんたって天真爛漫純粋無垢な遠山金太郎が白石蔵ノ介についたんだからね。」
「自信過剰やなぁ、自分。」
「自信過剰?それ違うよ?ただの事実だ。金太郎は純粋で周りの空気には敏感だ。それ故、人の本性というものが分かる…というキャラ設定。
実際私が白石側に行ったとき、怒りの顔じゃなくて何かに気付いたような顔した人が、一人居たわけだし。」
稀奈は椅子から再び足りあがり窓の方へと歩いて行った。
「あぁ、稀奈も気づいとったんか。」
一歩、
「当たり前でしょ、私を誰だと思ってるの。」
また一歩。
「遠野稀奈や。」
「ご名答、そう私は遠山金太郎のキャラを演じている遠野稀奈だ。
さて…これが私の、いやワイの正体や。……………そこで聞いとる奴もいい加減入ってきたらどうや?」
どうや?と聞いた瞬間に窓の向こう側から物音が聞こえる。
逃げようとしているのだろう。
しかし稀奈は既に窓際まで来ている。
音を立てたその人の首根っこを稀奈は片手で掴む。
「ッい!?」
「財前、光ぅ――。」
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