Belly black | ナノ




Target 不二周助 04


稀奈は昨日言った通りに不二を朝練のある時間に呼び出して共に部室へと向かう。
その時の不二の足取りはとても軽やかなモノだった。

「フフフっ流石稀奈って所なのかな?本当にあいつ等に地獄を見せてくれたんだね?」

「うん、見せてあげたよ。勿論最悪な、とでも言えるね。」

「満足だよ!だって昨日僕を嵌めていたあいつが、あいつの会社が大問題を抱えていたってことがニュースで流れて、もうあいつはここに居られないよね。僕は昨日までの扱いを受ける心配も無くなった。」

「…君は、君を虐めてくる男子も女子も、あいつの操り人形だって知ってたの?」

「当たり前じゃないか。この僕がそうじゃないと全校生徒に虐められるってことは無いからね。」

そんな会話を白石は聞いてぼそっと呟いた。

「………不二クン、そんなに洞察力があるんやったら…手塚クン達のことも気付いてやれや。」

「白石君、何か言った?」

「いんや…なんも?」

「ふーん…ね、稀奈。僕は君に言われたように部室に向かってるけど、それって意味あるの?」

「あるある、余裕で。部室には地獄を見た後の手塚達の姿があるから。君に一目でも見てもらおうかとね。」

「へー、粋な計らいじゃないか。どんな地獄を見てきたのかな。僕みたいに全身が痣だらけだったりするのかな?フフッ想像だけが膨らむよ。」

「それは上々。さぁ、部室だ。開けると良いよ。」

「それじゃ、遠慮なく。」

不二が部室の扉をゆっくりと開けた。
そこに居たのは昨日と同じレギュラーメンバー。
昨日と違うところは皆肩から三角巾で腕を吊るしていることだ。

「………え?…稀奈、どういうこと?」

不二が心底驚いた顔をした。
そんな顔を見て稀奈と白石は心の中でほくそ笑んだ。

「え?君が望んだことでしょ?こいつらに地獄を見せてって。」

「言ったけど…これはやり過ぎなんじゃないの?腕を壊すって…これじゃもうテニスが出来ない……。」

「だからわざわざ利き腕をやってあげたんじゃん。
ほら、こいつらはちゃんと君の望み通りの地獄見た!!」

「だけどッ!…だけど!!これじゃ僕はこいつらと本気のテニス出来ないのかい?」

「かもね!!あぁ!もう一つだけ言っておかないといけないことがあるんだった。
こいつら全員、君の味方だったよぉ。手塚も大石も菊丸も河村も乾も桃城も海堂もコシマエも全員残らず君の味方だった!!」

「え?…う、そだ!!!」

「本当だ!!」

「だったら!だったらなんで助けてくれなかった!?どうせあいつに僕を庇ったら自分の身がどうにかなるってだけなものだったんだろ!?だったら…助けてくれたってよかったじゃないか!!
少しぐらいッ庇ってくれたってッッ!!」

「不二…すまない。俺達は本当に無力だった。」

「ねぇ、不二クン…君は自分自身という人質だったら…それを犠牲にしても他の人を助けるのかな?」

「当たり前だ!」

「ふーん、とても他人を思う奴だね。
その他人を思う奴に聞こう。人質が…お前の両親、お前の姉、弟、そしてお前の仲間、そいつらまとめて人質だったらどうするんだ?自分が行動したことで他の奴らも巻き込まれるって、…分かってても助ける?関与する?」

「ッ!?」

「だんまりか、まぁ仕方ないよね!板挟みにされる気持ちって何もできないってなっちゃうんだよね!ただただ自分は無力としか考えられなくなるもんね!
あれ?これってまるで手塚の心境だよね!!君はそれでも助けろ、って命令するんだ。なんて強欲なんだ!!こいつ等に常からの苦痛を味あわせておいて!その上で君は君でこいつらを苦しめようとしてる!!」

「ッでも僕はこんな地獄の見せ方を望んだんじゃない!!僕と同じだけの暴力を!同じだけの精神的な苦痛を味わってもらいたかっただけなんだ!!」

「私に君が望んだんだよ?それに私は何度も確認した。本当に地獄を見せてもいいのかって!!」

「!?ッ…だったら君はあの時から手塚達の立場を知ってたんだね!?なんで教えてくれなかった!!」

「ハァ?教える義理なんて何処にも無いよ?自分がその真実にたどり着けなかっただけの話。私のせいじゃない。君に責められる必要なんてこれっぽっちも無い!!」

「それでも、壊すことなんてなかったじゃないか!!手塚や…みんなは将来有望なッ。」

「だからだよ。だから私は皆の腕を壊してやった!!
それが地獄って物でしょう!?全身打撲したところで地獄になるか?いや!ならないね!!だって傷は癒えるんだもの!!
私がこいつらを精神的に痛めつけても他人の言葉なんてたかが知れてる!!だから私は、この方法が最善の方法だと思った訳ですよぉ?」

「僕はッそんなの望んでない…ッ。」

「望んでない…ねぇ………ねぇ、猿の手って知ってるよね?
とっても便利な道具だよ。そう!願いを叶えるための道具!!そして私も今は君の道具だ。君は私と言う猿の手に願ったんだ。『地獄を見せて欲しい』ってね!!
だから私は猿の腕に則って最悪の方法で!改悪されたその手段で!君が望んだ地獄を見せてあげたんだ!!
それに…君のせいでもあるんだよ?」

「…僕、の?」

「そう、君のせい。
だって君私と君の立場分かってなかったでしょ?玩具の癖に散々私を上から目線で見てくれたよね?見下してくれたよね?私を道具だと思って荒く使ってくれたよね?
確かに私は君の望むことを叶えてあげると言った。けど、道具になるとは言ってない。そして君は契約を交わした瞬間から私の玩具だった!!なのにさぁ、散々噛み付いてくれたよね。
噛み付かれていい気分なんてしないからさ、君を躾直すことにしたよ。
躾直すのって精神をギッタンギッタンにしてからの方がやりやすいでしょ?だから、こいつらを使って君を精神的に疲弊させることにしたんだ!!」

「ッ…あッ…ぁ……。」

不二はその場に力なく座り込んだ。

「あーぁ、君のせいだよ。君のせいでレギュラー達は全員苦しんだんだ。君があいつなんかにターゲットにされるから!!こいつらは巻き込まれて人質も使われて手も足も出ない状況で、下唇噛みしめて君を助けに飛び出していきそうな体を押さえつけて耐えていたのに…君は、その上からさらにこいつらに私と言う猿の手を使って地獄を見せた!!
嗚呼!!なんて可哀想!!こいつらに非は全くない!!君の判断でこいつらは見る必要性のない地獄まで見る羽目になった!!」

自分の耳を荒く塞いで稀奈の声を届かせないようにする。

「いやだいやだいやだいやだ!!それ以上言わないで!何も言わないで!!僕は悪くなんだ!僕だって、僕だって!!
あ、あや、謝ればいいのかなッ…謝るからッ手塚、大石ッ皆ッ!謝るから!腕、腕ッゴメっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!!!!!」

目からはうっすらと涙を流す。
そして耳に手をやったまま頭を床へとつけた。
ごめんなさいと言い続けて、言い続けて声が掠れても謝る。
謝ってすむものではない、と昔誰かが言っていたような気がするのだが。

「最悪だよ!君!!君は他人の人生を大きく狂わせた!!だってこの学校は今年のテニス部は全国大会で優勝するはずだった!!なのに君が地獄を望んだせいで敵わなくなった!!主戦力が全くなくなった!!
手塚なんて、テニスの実力が認められて世界に羽ばたくはずだったんだ!!なのにそれを君はぶっ潰した!!全部、不二周助!君のせいだ!!!!」

「あぁああああっぁぁぁあぁっぁっぁあぁっぁあぁぁ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――――……。」


「さって…と。いい感じ、不二クン、これから君を私好みの玩具に変えてやんよ。
エキストラの青学テニス部レギュラーさん達、ご協力ありがとうございましたぁ!また、次作…エキストラをお願いするかもしれませんので、その時もよろしく、ねぇ?」



――――――
2013,02,24〜2013,05,04

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