Target 一氏ユウジ 04
俺はまた暴力を黙って受ける。
そうすればまた稀奈の手当を受けれる。
そしたら稀奈は綺麗ってまた俺を癒してくれる。
俺が傷つけば傷つくほど稀奈が手当てしてくれる時間が増える。嬉しい。
俺が傷つけば傷つくほど稀奈は俺を綺麗だと言ってくれる。喜んでくれる。
だから、もっと、もっと、もっと!!!
――
―――
――
俺の体は前よりももっと色とりどりになった。
稀奈の笑顔には癒される。
傷を見た時の子供が新しいオモチャを買ってもらってはしゃいでるような笑顔が俺はたまらなく愛おしいと感じる。
でも、最近はワンパターンになって来て新しい痣が出来にくくなってる。
もっと力強く、頼むわぁ…皆。
――
―――
――
―
「―――とう…。」
一氏はいつもの様に暴力に耐えていたその時呟いた。
「ハ?反省したか?」
「ありがとう、ありがとう、ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう!!!!!!」
狂ったように繰り返される言葉。
突然の訳の分からないお礼に固まる謙也達。
「ッ!?」
「ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう!!!俺をこんなにしてくれて!!
こんなにたくさんの痣を作ってくれて!いつもいつもアリガトウ!!!おおきになんてフレンドリーな言葉やなくて標準語で感謝の気持ちを伝えるわ!!それぐらい俺は自分らに感謝しとるんや!!
だってそうやろぅ?俺がこんな風にたくさん、たくさん痣を作ってくることで稀奈は喜んでくれる!その姿が俺はめっちゃ好きや!!誰よりも!何よりも!!
感謝してもしきれへんわ。やって俺からお願いせんでも自分らは俺を俺が望むように痣をいっぱい作ってくれた!俺の意思を汲んでくれた!!俺が望むことをやってくれた!!
でもな、欲を言うならもっとや、もっと力いっぱいにやってぇな。もっともっともっともっと!!!もっとくれぇや!!全身に!くまなく!!肌色なんて消えてしまう位に!!稀奈に昔やったように!!なぁ、頼むわ!!!!謙也ぁあああ!!」
「なんや、自分…っなに狂っとるんや?」
「狂ってないんかないで!俺は正常や!!
あ、俺帰るな。これ以上遅くなったら稀奈に迷惑がかかってまう。
やから、明日からもっと期待しとるで!」
一氏は言いたいことだけ高らかに言いあげて稀奈の待つ公園に走って行った。
「…なんやの?あいつ……。」
「追いかけてみましょう?」
小春の提案で一氏の後を追いかける。
気付かれないように、
そうしたらある公園にたどり着いた。
植木の影から公園内を覗くと幸せそうな顔で手当てを受ける一氏の姿、手当をしている稀奈の姿。
それを見学している白石の姿があった。
「「「なっ!?」」」
「なんで蔵リンらがここに居るん!?」
思わず影からかけ出るメンバー。
ここに居ていいはずの無い姿を見てしまったから。
「ん?おお、久しぶりやな皆。そこはかとなく元気にしとるか?」
「白石…随分な言いぐさやな。自分らのせいで俺らは今地獄を見とるって言うんに。」
「地獄?地獄を見とるんは、ここで稀奈の手当てを受けとるユウジだけないんか?」
「白石ー、俺は地獄なんて見とらへんでぇ、こうやって稀奈の手当を受けて頭ポワポワしてんねん。幸せやぁ…。」
「っユウ君!!そいつらに騙されちゃあかんよ!!蔵リンらのせいで四天宝寺は!!」
「俺をユウ君やなんて呼ぶなや!!死なすど!!!」
「「「!?」」」
「俺をユウ君やなんて呼んでええんは稀奈だけや。」
「ねー、ユウ君。いつも私の為に耐えてくれて、愛しいわ。」
「ちゅーわけや。ここは俺らだけの場所や。暴力なら明日受けるから、ここには来んでや。」
「白石…金ちゃん、一氏に何をしたんや!!また、自分らは俺らを苦しめて何が楽しいんや!!」
「何をした?…手当てをして私の愛情を注いであげただけだけど?」
「嘘や!!」
「本当だって、…逆に私は聞きたいね。なんでユウ君だけこんな目に遇ってんの?私は君達を平等に堕としてあげたはずなんだけど。」
「それは一氏が自分らが自殺する原因を作ったからで…。」
「それは語弊があるな。私達はユウ君だけのせいじゃなくってみんなのせいで自殺したことにしてんのに、なんで?君達じゃあんなに簡単な日本語さえも理解できない低能野郎だったんだ?
でも、感謝するよ。ユウ君を壊してくれて、」
「狂っとる!!」
「狂ってるのはどっちだ?たった一人に罪を擦り付けてる部活、学校こそ狂っていると思うんだけど?」
「ッ…………。」
「反論できないか…。
でだ、ここに数日前からユウ君にくっ付けていた盗聴器がある。またTV局に届けようか?また懲りずにイジメの温床になっているって言ってさ?」
「アカン!!!」
「…ユウ君?」
一氏が稀奈の持っていた盗聴器を奪い取って地面に叩きつけた。
「そんなんやったらもうこいつら俺に何もしてこんくなるやん!!もう稀奈の手当受けれんようになるやん!!そんなんいやや!!!」
「ユウ…君、君がそう言うならその意思を汲んであげるよ。可愛い君の為だもの。
よかったね、君達はユウ君のおかげで助かった。お礼でも言ったら?」
「一氏……。」
「稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈稀奈―――…。」
絶え間なく稀奈の名前を呼ぶ一氏。
少し前なら別の人の名前を呼ぶところだろうに、
その別の人は何が起こったのか、
未だに訳が分からない、と茫然といている。
「君達さぁ、もうお呼びやないから…帰ったら?ここに居たって君達にとっていいものは無いよ?あるのは君達が壊してくれたユウ君の姿だけ。
もっと見たいの?延長料金払ったら見せてあげるよ。」
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2012,12,26〜2013,02,02
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