Belly black | ナノ




Target 一氏ユウジ 02


「なんやて?」

「君達は私達をあんな目に遇わせた。だから私達は復讐と称して君達を地獄に堕とした。勿論、平等に。
平等に堕としたはずだったのに、君だけこうやって突出してイジメの標的になるなんて計算外もいいところだよ。
だから、私達は君の支えになりに来た。」

「支…え?」

「そう、一人だったらもう潰れてしまいそうな位、君は背負い込んでるよね。精神的に参ってる。もうそんな頃合だよ。
君からはもう希望も何も感じられない。人間諦めてしまったら立ち止まる。その先を見ようとしない。
君はこの先、希望を持って過ごしてる?」

「…持っとらん、俺はこの地獄からは抜け出せれんのやッ!!」

「ほら、絶望しきってる。
こんな風になるなんて、責任を感じてるよ。だから、私は君の支えになりたい。どうかその役目を私にくれないだろうか?」

「そんなん、俺…あんなに酷い事したんやで?なんで、ホンマ…何も信じれへんッ。」

「分かるで?その気持ちは、だって俺らも経験あるんやもん。仲間に裏切られて、誰も手を差し伸べてくれへんでただただ理不尽な時間を耐えて行かんといけんっちゅー気持ちも。」

「信じなくていいよ。その心理は良くわかる。だから、これだけは覚えておいて?私達は、君の支えだって、ね?」

稀奈は一氏を包むかのように抱きしめた。

「……とりあえず、言葉だけ受け取っておくわ。金ちゃん、白石。」

「ああ!そうだ、私の名前教えてあげる。私の本当の名前は稀奈、遠野稀奈。」

「そういえば、知らへんかった。遠野、おおきにな。
俺、帰らんといけんから…またな。」

「うん、ばいばい一氏。私達はいつもここで君を待ってるから、辛くなったらおいで?」

「おん。」

一氏は公園から出て行った。
稀奈と白石は手を振って一氏の姿が見えなくなるまで見送った。



「ッ………白石。」

白石、と呼びかける稀奈の声は若干震えていた。

「っ…なんや?稀奈。
ほっぺたメチャメチャ膨らんどるで?」

「ちょ、つっつくな。
折角私がとってもいい子ちゃんで過ごせたんだから、爆笑させるとか止めてよ。堪えてるのに。」

「何がいい子ちゃんや。責任は感じ取っても謝っとらんし、その現状から救ってあげるじゃなくて、支えになってあげるって言ったやん。どれも裏の意味があるんやろうが。」

「あったりまえじゃない。私が元敵に塩だけを送るはずないじゃない塩に紛れ込ませて劇薬を混ぜるわ。」

「毒薬じゃないところに稀奈の優しさを感じてしもうた俺が居るわ。」

「あの状況だといつ壊れても可笑しくないな。」

「確かにな。しかしユウジの変わり様、稀奈に一回であんなに心開くなんて予想外や。何回か接触を繰り返さんといけんかと思ったけど…。」

基本小春以外には罵声を浴びせている一氏がまともに稀奈と会話をしたんだ。
一氏をよく知っている白石は多少なりとも驚いた。

「ただの人が元仲間に虐められて平常心でいる訳ないじゃない。心はボロボロ、ひび割れて、カスカス、うるおいなんて有ったもんじゃない。
だから、入りやすいんだよ。心の隙間にさ。
ちょっとでいいから甘やかして、そうすれば私の方に靡くに決まってる。
あの様子だと金色小春も一氏の事を守ってはいないだろうねぇ。あいつは頭がいいから保身に走るだろうし。………やったね白石、玩具が増えるよ!」

「せやなぁ…。」






イタイ、また、また俺は殴られて、蹴られてる。
折角昨日稀奈が手当てしてくれたのに、また傷が増えた。

でもなんやろ、ちょっと嬉しい。

「アホ!アホ!!ユウジがあんなこと言うから!この学校はこんな風になったんやで!!反省しぃや!!なんやねんその眼、全然反省しとらんやろ!!
反省さえすれば俺らもこんなことせんっちゅー話や。」

「俺だけが悪いんとちゃうし、自分らだってグェッ!?」

「ホンマ減らず口をよう叩くなぁ!!」

「うぐっぅ。」

痛いわぁ…誰も庇ってくれへんっちゅーんは分かっとんのに…な。
そういえば、小春…小春は俺の事、どう思っとるんやろうか、タイミングを見計らって俺の事助けてくれるんやろうか…?


少しの希望を胸に小春の方をジィっと見つめる。
すると冷めた目でこちらを見ていた小春が、近づいてきた。

本当に、助けてくれた…ッ?

「こは――ッ!?」

思わず手を伸ばした。
が、小春の体に触れる前に、叩き落される。

「こっちをそんな薄汚れた目で見んといてや、その上触ろうだなんて、最低やで一氏。」

「ッ!?」

「ホンマ、高校入試は内申で自己推狙える位置に居ったのに、母体の学校がここまで堕ちたら意味ないやんけ!!どうしてくれるんや!」

「そんなッ!!」

「あー、いやや、ほんっっまいやや、吐き気がするわ。謙也クゥン、もう行きましょッ!」

「せやなぁ…って必要以上にくっ付くなや!!」

「やーん、小春好きんなってしまいそぉ!!」

「ひっ!?こっちくんなぁああ!!」

小春と謙也が走って消え去った。
それをただ呆けた顔で見送った一氏。

「………嘘や…。」

小春は自分の味方だと思ってた。
暴力は振るってこなかったし、何もしてこなかった。
だからただ、巻き込まれるのを怖がっているだけかと思っていた。

俺自身、俺に対する暴力で小春が傷つくことは嫌だからそれでいい。小春は巻き込まれない方が良いってそう思っていたのに、

なのに、本当は心の奥底から自分のことを嫌っていたではないか。


希望なんて、もてない。
明日の自分を想像できない。
出来ても、ただ、人形の様な自分の姿。

もう、いやだ。

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