Target 手塚国光 05
「あー…幻滅、いや、初めから貴様らに期待はしてないけどね。
どう?手塚クン、心は揺れた?」
稀奈は手塚の体にもたれ掛るようにして話しかける。
「いや、まったく。何も感じない。
が、だからこそ許してやろう。それでお前らの気が晴れるのならば、
だが、これだけは覚えておいてくれ、俺はこの先一生お前らを仲間だと思うことは、無い。」
「手塚…君、壊れたんじゃ…?」
不二が静かに涙をおとしながら手塚を見つめている。
「壊れた?…あぁ
壊れてるかもしれないな。いや、治ったとでも言うべきなのか…?」
「ああッなんでもいいよ。手塚、手塚、手塚ッ………。」
不二が立ち上がりゆらりと揺れてしまう身体を倒れないようにしながら一歩一歩手塚の元へ。
「不二……。」
「ッ手塚……ッ!?」
手塚に触れようと不二が手を伸ばした瞬間。
手塚の顔に触れる直前で手がはねのけられる。
「触れないでくれるか?」
手塚本人が不二の手を力いっぱいに払いのけたのだ。
「なん…で?」
「俺に触れていいのは稀奈だけだ。」
「フフフフッそうよぉ?
手塚クンは私のモノ!私の玩具!!君達が壊して捨てたんだから、私は直して私のモノにしたんだぁ。
素敵でしょう?どんなに羨ましく思われても私は君達みたいな輩に貸すなんてしないから!!勿論譲るつもりも無い!!
それに…手塚クン自身が望んで私の所に来てる訳だし、私はそれを受け止めてるだけ。
分かった?不二、君に私の玩具に触れていい権利なんて無い。」
「そんなッ…手塚!嘘だよね!?脅されてるだけだよね!?」
「俺は、稀奈のモノだ。
俺は稀奈の為に存在している。
稀奈が喜ぶことをしたい、いや…する。それが俺の今の存在価値だ。」
「ッ嘘だ、嘘だっこんな手塚僕は知らないっ。」
「当たり前じゃん?君は手塚のこと、何も分かってなかったんだし!」
不二にとって聞きたくない言葉が羅列される。
そんなことあるはずないのに、今までずっと部活で一緒に頑張ってきたというのに、どうしてぱっと出の稀奈なんかに青学の柱を持っていかれなければならない。
それほど手塚とその他部員達との絆がなくなっていただけの話なのだが…。
そんな信じたくない現実を彼らは…彼は見たくないようで、稀奈を睨みつけて、怒声を上げた。
「誰が、誰が、こんなッ…………………………………………お前がッお前がぁあああああああああ!!!お前がッ手塚を!!戻せよ!!!手塚を戻せよぉおお!!!!!」
不二は鬼の形相になり稀奈の首目がけて両手を向ける。
しかしまぁ、殺気と言うのはこんなにも生ぬるい物だったかな?
「きゃー、こわーい、たすけてー?」
稀奈の首に手がかかる直前不二の手は手塚によって払いのけられ、
白石によって拘束される。
「ッ!?」
「稀奈に触ろうとすんなや?天才、不二周助?括弧笑い。」
「稀奈には危害を加えさせない。そんなことをした奴は全員――」
「「地獄に落とす。」」
白石と手塚。
声をそろえて、威嚇。
そうそう、身体の芯から凍てつくような錯覚に陥る、これが殺気。
「そういう訳で、私たちはこのままこの学園から消えるから。探そうとはしないでね?
あぁ、ちゃんと餞別を残しといてあげる。ここの学校で起きたことを収録してるDVDその他記録媒体のコピー。
コピーっていう事は分かる?まだオリジナルを私が持ってるって事。
それを持って警察にでも教育委員会でも出頭することをお勧めするよ。私も気が長い方じゃないからさ。ばらまいちゃうかも、しれないよ?静かに、終わらせたいでしょう?
白石、手塚クン行こうか。」
「「あぁ、」」
稀奈が教室から去る時二人に声をかけた。
白石はいつもの様な黒い笑みで答えて、
手塚はほのかに微笑んで、
みんなの前で見せた最初で最後の表情。
くしくも、その表情は皆に向けたものではなく、稀奈一人に向けられたもの。
「…………あッああああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁッァぁぁぁぁあああッァっぁッァぁぁああぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁ!!!!!!!!」
教室を出た後、
最後に不二の大きな断末魔が泣き響いた。
「………ん?そんなに拍手をしてもアンコールは無いよ。」
――――
2012,12,02〜2012,12,20
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