Belly black | ナノ




Target 手塚国光 01


「さて、これで私の自己紹介も済んだ。ここで君に質問だ。」

「俺からも質問させてもらうで。」

只今青春学園中等部の校舎の中。
校舎の中の使われていない教室の中。
そこに居るのは三人だけ。

「手塚国光、君はこの状況で満足か?」

「手塚クン、なんで今の君はこんなにもオーラが淀んどるんや?」

「手塚国光、君は今そんな状況に居るべき人間ではないでしょう?」

「手塚クン、今年の自分のオーラは去年よりも増しとるはずやろ?」

「手塚国光、君はこんな状況、打開したいとは思わないか?」

「手塚クン、俺たちになら自分の今のオーラを改善することが出来るで?」

「「さぁ、この手を取って?」」

にこやかに手を差し伸べる稀奈と白石。
それを見上げるように見つめる手塚。
言葉は発していない。

「ホラホラ、とりなよ。この私が無償で君のことを助けてあげると言ってるんだから。それを有り難く頂戴しなよ。」

「せやでー、この稀奈の気まぐれが起っとる間にこの手を取った方がお得やでー。」

「ちょっと商品みたいな言い方しないでよ。」

「すまんなー。」

「で、どうしたい?ん?もしかして喋れないとか?口の中切ってるぅ?」

手塚が二人の手を見上げるようにして見つめていた理由。
それはさっきまで暴力を受けていたから。
しかも同じ部活のレギュラーに、
よくまぁ…手塚をここまで痛めつけれるわけだ。

「………いや…驚きを、隠せないだけだ。」

「嘘だぁ!さっきから表情変わってないのにー!!あぁ!君はそれがデフォルトだったね!!何を考えてるのか全く分からない!」

「遠山は…遠野でいいのか?」

「いいよぉ?名前なんてただの記号なわけだしね。
さぁ?答えをはぐらかす様なことしないで?私って気が長い方じゃないの。」

「せや、呼び方なんてどうでもええねん。手塚クンのがこの世界では年上なんやから、なんでもええねん。」

「年上だからって言っても私の方がはるかに年上だってことは忘れないでね。
まぁ、今はどうでもいいんだって。
手塚クン、Yes or No?」

「…………。」

本当に先ほどから表情を変えない。

「…チッ。」

無言の手塚に少し苛立つ稀奈。
それを白石は宥める。

「まー、まー、稀奈も一回落着きぃ。
手塚クンも戸惑っとるんやって、表情的には分からんだけで。
稀奈の前世の話をされて驚かん方がおかしいねんで?俺が納得したんは俺がこう言うキャラやったからやで?」

「………あぁ、そう。」

「でや、ここで今の暴力に対する手塚クンの気持ちを聞いてみようや。これもまた一興やで?
俺らよう考えたら手塚クンがここまでに至った経緯を聞いとらんで。」

「んー…白石にしてはいいこと言うじゃん。…手塚クン言ってみな?」

「俺は……これを仕方がないと、受け入れている。俺達は名門中学のテニス部レギュラーで―――――――――。」

語ってくれた手塚。
この間にも表情は崩れない。
ただ淡々と、今まで受けてきた暴力を教科書を読み上げるように述べていった。

「へー…君はただなんの理由も無く、ストレスの発散対象としてただ黙って殴られてるってこと?
部活内で?顧問にもばれない様に?君みたいな年頃の男子の考えることはさっぱり分からないよ。」

手塚の言ったことをまとめるとこういう事だ。

名門青春学園中等部のテニス部レギュラーはどんなに英才でもただの中学生だと言う事。
そしてそいつら中学生は、中学生らしくちょっとした悪事を働いてみたいと言う欲求に駆られた。
しかし悪事を働いてそれが中体連にバレたら公式試合の出場停止。
そう考えたらそんなハイリスクなこと誰がやろう?
そう思って誰も悪事をやっていなかったが、我慢しているうちにテニスのプレイにも支障が出始めた。
ストレスが溜まりに溜まって弱体化。
そんなだらしない部活を手塚は部長として改善しなければならない。
だからこんなサンドバックの様な扱いを受けるようになった。
こんなことをやり始めてプレイも安定するようになり、テニスの実力は正常に。
手塚は人身御供に成り下がっていたのだ。

「ホンマや。自己犠牲なんて、反吐が出る。」

「ちょっとちょっと、私だって君の為に自己犠牲を取ってあげたでしょうが。」

「そやったな、前言撤回しとこ。」

「手塚クン、だったらこの状況で君は満足してるんだね?」

「……あぁ。」

「だったらいいよ、君がこの状況に満足してるなら。
私は身を引こう。」

「………。」

「でも、心変わりをしたらいつでも私の所に来ると良いよ。
君は不憫すぎる。当て馬過ぎる。私は君のその姿を見ることにいい思いは抱かない。」

「…優しすぎる稀奈も怖いなぁ。」

「黙れ白石。
じゃ、手塚クンまた今度。」

「…あぁ。」

手塚を残して二人は教室を出て行った。


[ 62/77 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおり]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -