サンドリヨン 09 城にただ一人で向かう撫子の心の中は混とんとしすぎて逆に落ち着いていた。 たどり着いた城は昨日と打って変わって静寂に包まれている。 これから自分が大騒ぎにさせるんだと思うと、少しテンションも上がる。 門番に一人、 なんてずさんな警備だろう。 大方昨日の舞踏会での疲れがたまって出席できた兵が少ないのだろう。 「こんばーん、は!」 挨拶とほぼ同時、撫子はナイフで兵の首を掻き切った。 「なッ?ガ――。」 あっけなく人形になってしまう兵。 「……。」 もう少しで秘密がバレて家族をこうしないといけなかったのだと思うと、恐怖でしかない。 でも素敵な勘違いをしてくれた忍足には感謝してもしきれないな。 門を堂々と潜って入る。 それから順番に出てくる兵を確実に一人、一人沈めて行く。 強者もその中には居たのだが、撫子は屈しない。 地面につく程度あったドレスの裾はいつの間にか破れたりして膝丈になっており、ティアラは相手の気を引くために投げ捨てて、 やっとの思いでついた先が窓がステンドグラスになっている跡部の自室。 「こんばんは、ケイゴ王子。」 跡部がソファーに腰を掛け昨日の服装からは想像できないくらいラフな格好をしている。 シャツとズボンしか着ていない。シャツもボタンをはめているのか怪しい位だ。 もう寝る準備万端と言う事だろうか。 「あぁ、来てくれると思っていたぜ?サンドリヨン。」 跡部は部屋に入ってきた撫子に驚くことなく、逆に入ってくるように促してくる。 撫子と跡部、見つめ合う瞳と瞳、 その視線は両とも力強く睨み合って火花が散っている様。 「逃げないの?」 「まさか、こんなに愛しているサンドリヨンから逃げる訳ねぇだろ。」 「ッそれ止めて!そんな言葉言わないで!!」 「何故だ?」 「その言葉を言われたら、苦しいの!!心が痛いの!!これから逃れたいと思ってお前を殺そうって考えるともっと苦しくなるの!! 思い出されるのはお前の事ばっかりで、…だから、私の為に死んで?」 死んで?と自ら言ったが、再び抉る様な辛さが撫子を支配する。 辛そうに言うと跡部は心底驚いたような顔をした。 「…まさか、お前も俺様の事を愛してくれているとはな。」 「ハ?なに?まさかこれから殺される恐怖で気でも狂った?」 「まさか、だったらお前のその苦しみから解放してやってもいいぜ?」 「え、どうやって?どうやったら治るの?」 「とりあえず、こっちに来い。」 来い、と手招きをされて撫子は躊躇しながらもゆっくりと近づいていく。 少し距離を置いて撫子が跡部の目の前に立つと跡部は撫子の腕を掴んで、自分の方へと引き寄せた。 「なッにす!!」 近付けが近づくほど心が飛び跳ねて口から出てきてしまうのではないかと思う衝動に駆られたのに、もっと近づいてとてもうるさい。 ドキドキと、とてもうるさい。 「まぁ、落ち着け。 落ち着いたらゆっくり俺の方に体を寄せろ。それから俺に、愛してると言ってみろ。」 「ハァ?」 「騙されたと思ってやってみろ。」 「…………………………………………………………。あ、愛し…てる……。」 長い沈黙の後撫子は言われた通り愛してると呟いた。 「どうだ?」 「…愛、してる……愛してる、愛してる………。」 言えば言うほど心が軽くなっている。 今までどんなに跡部を憎んでも解消されなかったこの気持ちが今、ものの見事に解消されていっている。 「ほらな?心が軽くなってるだろ。」 「なん、で?」 「だから簡単な話だ。お前は自分の心に嘘をついてたんだよ。でも嘘を付けきれねぇでな。なんて滑稽なんだ? その年になるまでこの感情をしたねぇとか…お前は。」 「う、るさい!!ほぼ初対面でいきなり告白してきたお前に言われたくない!!」 「残念だが俺はあの時が初対面じゃねーぜ?」 「どういう事?」 「俺様はお前をヒヨシの城でずっと見ていた。」 「なっ!?」 「お前がワカシの心臓にナイフを突き立てるところもしっかり見た。」 「ッ!?だったら何故私がやったと言っていない!?」 「言ってんだろ。俺様はお前を愛してるって、なのに突き出すバカじゃねー俺は。」 「だからって…アンタ、本当にバカだよ……。こんな殺し屋に恋心を抱くなんて…一国の王子がさ。」 何故かポロポロと涙が溢れ出てくる。 なんでなのだろう。跡部が愚かすぎるから? それとも両想いで嬉しいから? それとも自分が今まで殺めてきた奴らの顔を思い出しているから? どんな思いだって跡部にとってはどうでもいい事。 大切なのは好いている女が目の前で一人で涙を流していると言う事。 「お前、やっぱり知ってねぇな?俺様はお前と同じ孤児なんだよ。それを知った俺様が独りのお前に惹かれねぇわけねぇだろ。 一人で泣くんじゃねぇ。俺様にその涙をすくわせろ。折角独り身同士一緒になれたんだ、一人で遊ぶな。」 [mark] [mokuji] |