サンドリヨン 07 「ハァ、ハァ…ハァ……ッ!!」 撫子は一目散に自分の家まで走って帰った。 裸足で足の裏がどんなに傷つこうとも止まらずに城から逃げ出す様にかけて行った。 いや、ケイゴから逃げ出す様にかけて行ったのだ。 家に帰って自分の部屋まで駆け上がる。 忍足たちはまだ帰っていない。 「…やぁ?サンドリヨン。そんなに慌ててどうしたの?」 「おい大丈夫か!?」 「無事でよかったです!!」 部屋には滝と宍戸と鳳が既に居て、撫子の帰りを待っていた様だ。 「マザー…。 もう、ケイゴを殺せないかもしれない。」 「そう、で?」 「俺がしっかりケイゴさんの行動を調べていなかったから。」 「いや、お前は良くやってくれた。俺がサンドリヨンの援護にしっかり回らなかったから。」 「アドレサンス、黙って。僕はサンドリヨンに話を聞いてるの。」 「「…ッはい。」」 「私、私は…。」 「だったら今ここで君が死ぬ?そう言う対価だよね。失敗したら、ね?」 滝が撫子の首筋にナイフを突きつける。 「ッ……いいよ…殺して、あんなので動揺する私、どうかしてるもん。」 「「サンドリヨン!?」」 「………そう、だったら対価は君の家族だ。」 「ハッ!?約束が違う!母さん達には手を出さないで!!」 「どうだって出来るんだよ?君を殺してから君の家族をあの世へ送る飛ばすことだって僕には簡単すぎるお仕事なんだから。」 「ッ…………。」 「それが嫌なら、ケイゴ王子をやって来て。」 「…は、い……ッ。」 「無茶です!サンドリヨンさん!!」 「そうだぜ!!家族さえ見捨てればお前は助かるってことだぞ!?」 「アンドレサンス、私を誰だと思ってるの?私は多くの奴らに恐れられてる、サンドリヨンよ?その私が失敗するとでも思ってるの? それに私は家族を見捨てることなんてできない。」 「どうして、そんなに…こだわるんですか。」 「サンドリヨンってどういう意味か知ってるでしょ?灰被りって意味。それから私は銃が嫌い。まぁ…仕事上使わないといけないから使うけど。」 「そうだ、俺はいつも不思議に思ってたんだ。サンドリヨンって言う意味は知ってた。けど、お前の得物はナイフだろ?いっつも矛盾してんなぁって思ってたか…どういう意味だったんだ?」 「私は、小さい頃からこの仕事してた。だって…こんな日系の子供、ここでは物珍しくて売られて豚どもの玩具になるだけ。そんなの私は絶対に嫌だった。だから…だから私は逃げて逃げて…そうしたらいつの間にかこの世界に入ってた。本当にどうしてなんだろうね。覚えてないよ。 ……捨てられた時から、小さい頃…って力ないから銃が便利でよかった。銃ばっかり使っていつも硝煙を身に纏っているようだったからサンドリヨンって言われ始めた。 それから周りにいた人は誰も居なくなった。私が殺し屋の中でも断トツの実力を持ってから。怖がられたんだろうね、小さい子供の癖にただ無表情に淡々と淡々と人の命を削り取っている私が。 私はさ、その当時なんで避けられてるか分からなかった。私、硝煙の匂いが原因だと思ってた。嫌な臭いなんだって…でも仕事上使わないといけない。けど、人との触れ合いが欲しかった。 そんな時にさ、ここの母さんに出会ったんだ。母さんなんて言ったと思う?『嬢ちゃん、そんな灰の匂いさせてどないしたん?煙突の掃除でもしとったんか?だったらついでやからうちのも掃除してや』って、正直今思えば笑えるよ。 だって硝煙とススの匂いを一緒にしてるから…けど、その時そんな匂いを纏ってる私と手を繋いでくれたんだ。今まで私の手は無骨な銃しか持ったこと無かったのに、初めて人の温かみを知ったんだ。 それから母さんは帰る場所が無いって知った私を育ててくれた。親からの愛情を貰ったことのない私にくれたんだ。シンデレラって言う名前をくれたのも母さん。 そんな恩返しをしたくて、私はナイフに得物を持ち替えてまで、この仕事やってんの。」 「……サンドリヨン、お前…。」 「あぁ、喋りすぎちゃった。 マザー、明日ちゃんと…ちゃんと仕事はこなすから……今日は帰って?母さん達も帰ってくるころだろうし。私もこの匂い早く、落としたい。」 「………そう、するよ。じゃぁ、明日がんばってね。 でも前々からそれを聞いて言ってることもう一回言っておくよ。そんなに家族を大切にしているなら君はこの家から離れるべきだよ。家族にこの仕事がバレたら君の仕事っぷりには関係なく殺めなきゃダメなんだから。」 「…分かってる、だから…。」 「分かってるならいいんだよ…おやすみ、シンデレラ。」 「うん、お休みタキ。 あぁ、アンドレサンス明日はもう手伝わなくていいよ。今日はごめんね?」 「いや…いい。おやすみ。」 「おやすみなさいシンデレラさん…。」 「ん…おやすみ、シシド、オオトリ。」 撫子は三人を家から追い出してから風呂へ向かった。 身体を髪を荒々しく擦ってにおいを消す。 それから撫子は頭に異変が起きたことを確信した。 たった一人になってる時に思い出していたのは忍足達の暖かな言葉だったのに、今思い出されるのは跡部のあの5文字。 忘れようと思っていても思い出されるのはその言葉。 忍足達の過ごした数年間をたった一時のしか会っていない跡部に上書きされる。 なんでこんなに簡単に書き換えられてしまうんだ。 いやだ、 あんなあんな言葉は、なんなんだ!! 心を突いて抉って晒して、…。 撫子はそれを忘れたいと言わんばかりにベッドに潜り込んで頭を抱えて眠ることにした。 [mark] [mokuji] |