第19話 「……ッ。」 「命令だ!!黙ってないで、言え!!」 「…知ってた。 何もかも、ここに来る前から…シエルのこともセバスチャンのこともマダムのことも、…グレルのことも。 マダムが起こしてる事件のことも、トリックも、 なにもかも…全部、分かってた。」 ポツリ、ポツリと語る。 「だったら何故!!こんな無駄な犠牲が出る前にッ…お前らは僕に言わなかった!!」 「言いたかったさ…全部、何もかも、こんな事件が始まる前に、ここに着た瞬間にッ!!これから先どんなことが起きるか、最善のルートを教えたかった…。だけどッ、言えなかったんだよ…。言いたくても…頭が痛くなって、気分が悪くなって…。私たちだって足掻いたさ!!どうやったら原作を変えられるかって…変えれないって分かっていても……もしかしたらパラレルワールドで、変えられるかもって思って……。けどやっぱり…変えられなくて、 マダムを庇うことが出来ても結局は、無駄な行為で……でも私だって助けたかったんだよ!!」 「努力したって、頑張ったって、結果が悪ければ意味ないじゃないか!!」 シエルはその辺にあったクッションを撫子に投げつけた。 「ッ…。」 避けることをせず、撫子は甘んじてその八つ当たり行為を受けた。 当たって床に落ちたクッションを拾い、埃を簡単に払い、シエルの横へと戻す。 戻そうとした瞬間シエルに怪我をしている方の腕を掴まれる。 「イッっ!!!」 「お前はッ、庇ったって言うのもお前の醜いエゴじゃないのか…!? 庇うなら、全身でッ…命を捧げる位の勢いでマダムを庇ったら…どうなんだ?出来ないことでは、なかったんだろう!?」 ギリギリと掴んでいる手に力を入れる。 「ッつ、い〜ッっ!!」 叫びたくなる衝動を必死でこらえる。 叫ぶ事は…したくない。 この痛みだって甘んじて受けよう。 シエルの方がこの痛さよりももっと痛いはずだ。 シエルの言った通りだもん。 庇うなら身を挺して庇いたかったよ。 けど…いざとなったら身が竦んだんだ。 自分の命が惜しいんだ。 「離しんしゃい!シエル!!」 仁王が撫子を引っ張りシエルの手から撫子を解放させた。 「仁王ッ……。」 掴まれていたところを見ると血が滴っている。 傷口が開いてしまったようだ。 シエルの方を見れば真っ赤に染まった爪を信じられない物を見る様な目で眺めていた。 「シエル、おまんは椿崎の立場だったら命を投げ出してでも庇えるんか?」 仁王はシエルを責める。 「僕がしなくともセバスチャンが…。」 「そのセバスチャンが居らんで、手足となる者が居らんで、おまんはただの知人を庇えることができるんか?」 「ッ…。」 「出来んじゃろ、腕一本すら捧げれんじゃろ。 それなのに、おまんは椿崎を責める。お門違いもええとこじゃ。」 「黙れッ…命令だ!!」 「残念じゃが、俺は聞かん。そこまでおまんを、この世界に執着があるわけじゃない。 ええか?俺らは異世界人じゃ。 俺らの世界じゃ、包丁で指を切った位で大騒ぎになるような世界じゃ。そんな世界の住人の椿崎がこんな大怪我をしただけじゃ、足りんのか?まぁ…足りんわな。 おまんの過去とじゃ、比べ物にならんぐらいの小さな傷じゃもんなぁ。俺はおまんらに俺の価値観を押し付けるつもりはないが、そういうことじゃ。 シエル…おまんの物差しでなんでもが量れると思うとったら…将来足元が掬われるぜよ?」 「黙れ黙れ、黙れ!!セバスチャン命令だ、こいつらを引っ込ませろ!!」 「……御意。」 セバスチャンがこちらに来た。 「雅治、撫子の治療をしてきなさい。」 「…分かっとるぜよ。行くぞ椿崎…。」 「……シエル…ごめんなさい。」 出て行く間際、撫子はシエルにもう一度謝った。 [mokuji] |