第17話 流れた走馬灯にグレルはお気に召すことはなく、 また次の傷をつけようとしたが無理だった。 追撃に対してセバスチャンは軽やかに避る。 「フー…。」 一つ息を吐き、セバスチャンが燕尾服の上着を脱ぐ。 「この方法だけは使いたくなかったのですが…仕方ありません。」 「ンフッ…ようやくアタシに本気になってくれるのね?」 グレルが死神の鎌を構え直す。 「次の一撃で終劇にしましょうか、セバスちゃん。 この世にさようならを、あの世で結ばれまショ? 雅治も撫子もセバスチャンを終わらせたら相手をしてあげるワ。」 「遠慮しとくぜよ。」 「え?マジ?是非。」 「おい。」 そして両手で死神の鎌を構えたグレルと、片手に燕尾服を携えたセバスチャンが走り出した。 次の瞬間、グレルの鎌の音が止まった。 久しぶりになり続けていた音が無くなり静寂が訪れた。 「!!?……え?」 回転が止まった死神の鎌にグレルは焦る。 取りあえず刃に絡んだ物を引っ張ってみるが、取れない、死神の鎌は機能を停止した。 「この瞬間のグレルってかわいよね。」 「…プリ。」 「エエエエエエー―――ッ!!」 「その武器が回転する事であの切れ味を生み出しているのでしたら、その回転を止めてしまえば良いかと思いまして。」 「こんなモノすぐに取って…!」 必死に絡んだ物を取ろうとするグレルに、セバスチャンが追い討ちをかける。 「その燕尾服は上質なウールで出来ています。ウールは布の中でも特に摩擦力が強い…一度かんだら中々取れませんよ。」 死神の鎌に絡んだ物は燕尾服。 しかも摩擦力が強いときたもんだ。 「お屋敷からの支給品ですし、どうしても燕尾服だけは使いたくなかったのですが…仕方ありません。」 セバスチャンの口角が僅かに上がる。 そしてゆっくりと歩き出した。 それにあわせて撫子と仁王もグレルに近づいて行く。 その場にしゃがみ込んだグレルの側でセバスチャンや撫子、仁王は足を止める。 「ただの殴り合いでしたら、少々自信がございます。」 「私もー、私の場合は踏みつけますけどね、それに…今腕テラ痛ェし。」 「俺も、殴って手壊したら洒落んならんからのぉ…足で。」 「あっ…ちっ…ちょっと待って…かっ…。」 指を鳴らし、笑顔のセバスチャン。 口元は笑っているけど目が全く笑っていない撫子。 そして掴み所がないような笑みを浮かべている仁王。 それらに対し、グレルは顔面蒼白。 月明かりを背にして三人はグレルに死刑宣告。 「顔はやめてぇぇぇー!!!ぎぃやーー――…。」 情けない声が響き渡った。 「…ふう。」 「はぁー…久々に全力出したわ。」 「いつ本気出したことあるんじゃ…。」 やり遂げた、いや…楽しんだ。 そんな笑顔達がグレルを見下ろす。 そしてセバスチャンが軽く額の汗を拭う。 足下では徹底的に顔を殴られ踏まれ、ボロボロになったグレルが横たわっていた。 「お…おぼえてらっひゃい…。」 「おや…さすが死神、打撲では死にませんか。 ですが…これではどうでしょう?」 少し離れた所に落ちていた死神の鎌を、セバスチャンが手にする。 「…!?」 「すべてが切れる死神の鎌。という事は死神も切れるのでは?」 [mokuji] |