第16話 「アタシは返り血で真っ赤に染まったアナタが好きだったのよ。マダム・レッド。下らない情に流されるアンタに興味ないわ。」 宙に浮いていたマダムの体が地面に落ちる。 「アリバイ作りの手助けもしてあげた。アンタのためと思って死神のルールを破って、リストにない女まで殺してあげたのに…ガッカリよ! 結局そこらの女と一緒だったのね。アンタに赤を着る資格ないワ。」 横たわるマダムを見下し、その上着をグレルは奪い取る。 「チープな人生劇場はこれでオシマイ。さようなら マダム。」 上着を羽織り、無言でその場を立ち去るグレル。 止まない雨の中、シエルがマダムの瞼をそっと閉ざした。 セバスチャンは終わった…というように、一息ついた。 「セバスチャン 何してる。」 「…?」 「僕は"切り裂きジャックを狩れ"と言ったんだ。まだ終わってない。」 一息ついたセバスチャンとは反対にシエルはまだ終わっていないと言う。 「ぐずぐずするな。もう一匹を早く仕留めろ。撫子と雅治もだ。」 「…御意。」 「「イエッサー。」」 撫子も止血は終わり、ズキズキとする痛みに耐えればどうってことなく戦闘は可能。 しかし人間の二人は戦力外。 せいぜいセバスチャンの助っ人をするぐらいしかできない。 「…ンフッ。ヤる気萎えちゃったから見逃してあげようと思ってたのに…。」 再びグレルが死神の鎌を振り回し始める。 「そんなに死にたいなら四人まとめて天国にイカせてあげるワ!」 「天国ですか、縁がありませんね。」 「私も、死んだら二次元に行けるって信じてる。」 「おまんが今居るここは二次元ぜよ?」 セバスチャンに向かっていた攻撃をセバスチャンは避け、そのまま後退し側にあった木箱を片足で持ち上げ、グレル目掛けてそれを蹴り飛ばす。 「アタシ今機嫌悪いの、手加減なんか…!?」 死神の鎌で木箱を壊したグレルの視界からセバスチャンと撫子、仁王が消えていた。 直後、死神の鎌にわずかな重みが加わる。 「!!」 死神の鎌に下りたのはセバスチャン。 グレルは繰り出された蹴りを間一髪の所で避けた。 今度は左右横から撫子と仁王の鉄拳が顔面目がけて飛ぶ。しかしそれもグレルは避けた。 「ちょっ…アンタ達、今アタシの顔狙ったでしょう!この人でなしッ!」 「でしょうね。私はあくまで執事ですから。」 「だって私らここでは異物だし。」 「頭痛はどうしたのよ!!」 「おまんに加勢せんかったら問題ないんじゃ。」 騒ぐグレルに対し、三人は冷静に答える。 「ふんっ悪魔や異物が神に勝てると思ってんの?」 「どうでしょう?戦った事がないので分かりませんが…坊ちゃんが勝てと言うなら勝ちましょう。 今この身体は毛髪の一本に至るまですべて主人のもの、契約が続く限り蹴れの命令に従うのが執事の美学ですから。 彼が死ぬなというのなら死にませんし、死ねと言われれば消えますよ。」 「俺も、常勝を掲げてるんじゃ、負けたら真田の鉄拳が飛ぶけんのぉ。それは勘弁じゃ。」 「敗者切り捨て、実力主義なんだから恥ずかしいとこは見せらんねぇよ。」 それぞれが掲げている信念を言う。 「ふーん…信念を掲げてる男って好きヨ。 セバスチャンに雅治、今は撫子もふ く め て☆」 「今はって…複雑だ……。」 「そんな人の顔をヒールで踏みつけて、跪づかせて、靴を舐めさせてやりたくなる!!」 大きく鎌を振り回す。 「いや、私どっちかって言ったらSだから無理。」 「俺はノーマルじゃ。」 「アンタMでしょ。」 「な!?」 「雅治のMはドMのMー!!」 「誤解されるようなことは言わんでくれ!!」 「雅治、撫子、今です。拘束してしまいなさい。」 そういうセバスチャンは片足で鎌を踏み、 グレルの動きを止めている。 「ああ…セバスちゃん…朝なんかこなければいいのに……そうしたらいつまでも、こうして二人、いえ雅治と撫子とも殺し合っていられるのに。」 確かこの後は、 「セバスチャンさん逃げッグぅ…。」 頭突きが来るよ、と言いたかったがまた邪魔をした。 「でも、アバンチュールはここまでよ。」 グレルの顔がスっとセバスチャンに近づいた。 そしてまともに頭同士がぶつかりあった。 油断していたセバスチャンはまともに食らい一瞬思考が停止する。 「情熱的なキッスでお別れヨ、セバスちゃん。」 セバスチャンの足元から鎌を救いそのまま振り上げる。 「それでは、幾千にも幾万にも…ごきげんよう。」 そしてセバスチャンの走馬灯が上映された。 [mokuji] |