第13話 んばっと投げキッスをされ、セバスチャンや仁王は鳥肌を立てた。 「ああ〜やっと本当の姿で会えた!恥ずかしかったのヨ?スッピンで色男の前にいるの、しかも二人。 撫子は綺麗で羨ましかったワ。あんなに可愛い服を着て、アラ?今はかっこいいじゃない。 撫子と雅治にはお礼を言っておこうかしら?あの時美味しい紅茶を入れてくれてありがとうって。 二人とも今日は気分、悪くないのかしら?」 「おまんの投げキッスを見たけん…少しブルーじゃ。」 「私は色々とテンションMAXだよ。気分は相変わらず悪いけど。」 やっぱり感情移入してしまって気分がすぐれない。 「あら、そう…にしても悪魔が執事してるなんて初めて見たから、最初ビックリしちゃったワ。」 「それは…貴方も同じでしょう? 私も結構生きていますが"貴方の様な方"が『執事』をしているなんて聞いた事がありませんから、神と人との中立立場であるはずの存在…死神!」 グレルが動きにくい要因となるコートを脱いだ。 「曲がりなりにも"神"である貴方が何故執事など?」 「堅い事は言いっこナシよ、そうね…一人の女に惚れ込んじゃったってトコかしら?」 「その女とは…?」 「聞かなくてもわかってるんでしょう。」 部屋の中から再び足音が聞こえてきた。 目を塞がれていたシエルがその音に反応してピクリと体を強張らせる。 「セバスチャン。」 「…マダム…。」 塞いでいたセバスチャンの手を目の上から払いのける。 「計算違いだったわ、まさかグレルの正体を見破れるヤツが、シエルの傍にもいたなんてね。」 「……最初の容疑者リストにはもちろん貴女もいた。 けれど、貴女のアリバイは完璧だった。」 「酷いわねシエル…身内である私まで疑ってたの?」 腕を組んだまま、マダムが困ったように笑う。 「犯人になりえるのなら、血縁であろうが知り合いであろうが関係ない。全ての殺人に関わるには、容疑者リストにいた、どの人間にも無理だった。 もちろん貴女にも…。 切り裂きジャック事件の被害者には『娼婦である事』『子宮が無い事』以外にも共通点があった。 全員がマダムが勤めるロンドン中央病院で"ある手術"を受けている。」 一度言葉を区切り、シエルはポケットから1枚の紙を取り出した。 「その手術が施された患者を、日付順にならべたものが、これだ。被害者の殺された順番と、手術を受けた順番がきっちりと重なっている。 このリストに名前が上がっていて『残っていた』のはその長屋に住むメアリ・ケリーだけ、張っていれば貴女達が現れると思っていた。」 悲しげな表情でシエルは呟く。 「救えは…しなかったが…。」 「残念ねシエル。私の可愛い甥っ子…私の…姉さんの子…気付かなければまた一緒にチェスが打てたのに…。」 「……。」 「だけど…。」 グッと握り締めたマダムの手に力が込められる。 「今度は譲らないわ!!」 「!?」 マダムの叫びを合図にけたたましい音を立てながらシエルに襲いかかった。 襲いかかったのはグレルのチェーンソー。 撫子と仁王がその場から動くことの出来ていなかったシエルを抱えて移動。 セバスチャンがチェーンソーを真剣白刃取りのように受け止める。 「なっ…なんだあれは!?」 「死神は全員魂を狩る為の道具を持っています。 その名は『死神の鎌』あのような形は初めて見ますが…厄介ですね。」 「アタシに鎌なんてダサイ道具似合わないデショ?アタシ用にカスタマイズしたの。 魂の断末魔と最高のハーモニーを奏でるアタシ専用の『死神の鎌』! もちろん切れ味は保証付きよ。どんな存在でも切り刻める神だけに許された道具!」 「ジェイソンでも真っ青だよ。」 「じゃな。」 「ずっと大人しくしてたから身体が鈍っちゃってるの。久々に激しい運動したいワ、ア・ナ・タと♪あと雅治と、それから今の撫子と。」 「気色悪い事言わないで頂けますか、それに今勤務中ですので。」 「遠慮するぜよ。」 「え、何?私今モーション受けた?」 「男装中の撫子はモテるのぉ。」 「あーん、たまんないわぁ!!」 きゅーんと乙女の様に片手を振り回す。 行動は可愛いのだが、チェーンソーも共に振り回しており、怖い。 「アタシね、赤が好きなの。髪も服も口紅も赤が一番好き。 だからブスな女共を綺麗な血でお化粧してあげるのが好きよ。 女ってのは派手なら派手な程毒花のように美しいデショ?撫子もそう思うでしょ? きっと色男が薔薇色に着飾る姿は最高ヨ、セバスちゃんに雅治。 アタシがアナタの奥まで暴いて美しく飛び散る薔薇色で、派手に掻き乱してアゲルわ、セバスちゃん♪」 死神の鎌を構えなおし、グレルが不適に笑う。 「死神とはただ静かに死に逝く者の魂を狩る者。執事とは影の様に主人に付き従う者。 その両者の美学に反するその悪趣味さ、反吐が出ますね」 「アタシちゃんと執事として主人の為に働いてたわよォ。お仕事中はお化粧もおシャレもガマンしたしっ。」 「呆れた…貴方それでも執事ですか?」 口を尖らせ反論するグレルにセバスチャンが聞き返す。 その言葉にグレルはニィと口角を上げた。 「これでも執事DEATH★」 決め台詞ktkr!! 撫子のテンションは静かに上昇。 「―女王と我が悪しき名において命令する! 奴等を狩れ!」 「御意ご主人様。」 [mokuji] |