(10/23)
「…お邪魔します……。」
言葉通り友哉は幸村と言う少年の家に訪れることになった。
普通に接してくれることは嬉しいのだが、なんだかこれは怖いとしか思えない。
だって、見るからに不良の友哉を初対面で家に上げるか?普通。いや、あげないだろう。むしろ話しかけないだろう。
いやはや、立海の生徒は好奇心が強いですね。
「なんだ、不良の癖にそう言う常識はあるんだね。」
「ぁあ?」
「階段あがって突き当り右の部屋が俺の部屋だから行っててよ。」
「…分かったよ。」
「お菓子とか持ってすぐ行くからね。」
友哉は大人しく幸村の言う事を聞いた。
他人の家であり、初めて訪れるところである。
場所の利は幸村にあり、さらに自分のテリトリー内である為気分的にも幸村が優位に立つ。
「ってなんで俺は幸村ってやつと喧嘩することになってんだ。
つーかあの技何?あんなの見たことねーよ…なんなんだよ、あれ…。」
「あぁ、あれね。イップスって言うんだよ?」
「!?」
独り言を呟いていたらいきなり返事があった。
その返事をしたのは幸村であって、両手でお盆を持って飲み物とお菓子を宣言通り持ってきたのである。
幸村はそれを適当に置き、友哉と向かい合った。
「そんなに驚かないでよ。俺が人じゃないみたいじゃないか。」
「いや…驚くからな。で、俺になんの用だ?」
「別に用なんてないよ。ただ…君に興味がわいただけで。
だってそうでしょう?俺が囲まれてる所を見ても助けには来なかったのに、俺が本当に殴られそうになって声をかけるって…普通の人なら見て見ぬ振りをしてその場を去るでしょう?」
「…別に?どうだっていいだろ。お前に何か関係あんの?」
「いやいや、全くないよ?じゃぁ、この話はおしまいだ。
次の話をしよう。友哉君、君の噂は本当かい?」
「ぁあ?また噂か?好きだなぁ、テメェ等。俺の噂がテメェ等になんか影響でもあんのかよ。」
また噂は本当か、と聞いてくる。
何度目だ。
どうしてこんなにも噂がどうの、と聞いてくる。
はっきり言って煩わしい。
「全くないね、ただただ首を突っ込みたいだけだよ。興味本位さ。」
「フーン…そう言うのって、ウザいよ。キモイ。」
友哉は昼にも柳と言う少年に行ったように幸村の胸ぐらを掴み上げる。
「え?ここで暴力振るっちゃう?」
「いいじゃねーか。俺は不良なんだからよぉ。気の向くままに暴れて何がワリィ?」
「もー、だから俺は暴力沙汰起こすわけないはいかないんだって、部活停止になっちゃうでしょ。それに部員に示しがつかない。」
「ハッ、部活停止?俺にとってはそんなの関係ないね。なんだ?テニス部部長か?ハハッ。」
「おっどろいたぁ、当たりだよ。俺は男子テニス部の部長。凄いだろ?」
「べっつに?俺は関東の一番だぜ?部長如きで俺が凄いとでも言うと思った?」
「ふーん…でもこれは凄いって思ってくれたでしょ?イップス。」
「ッな!?」
イップス、と幸村は微笑みながら言い放つ。
そうしたら友哉の体がカクンと力が入らなくなってしまったかのように幸村の胸ぐらを掴んでいた腕をダランと垂らして膝から崩れ落ちた。
「そう、これがイップス。
本当ならテニスの技だって言ったでしょう?それのルーツはこの俺が相手の打球をどこに打たれても返す。それから相手は何処に打っても反されるイメージが焼き付いて次第に五感を奪っていくんだ。
奪うって言うのは語弊があるかな?つまり相手側が俺と対決することを『現実逃避』しちゃうからイップスになっちゃうわけなんだけど…。
つまりそれって、俺に恐怖してるってことだよね。恐怖心からイップスに出来る。あの不良達だってすかしてる態度の俺にちょっとでも恐怖心を持ってたんだね。だから綺麗にイップスにかかってくれた。
フフ、あの時たくさん吠えてくれたけど、弱い犬ほどよく吠えるってやつかな?」
「ぅ…ッあ……。」
「それ言ったら君もあのシーンを見てくれたから簡単にかかってくれたね。
フフ、関東の頭がこうやって俺の足元に転がることなんてこの先一回も無い事かもね。あぁ、ちょっとだけ楽しいね。」
転がってる友哉の頭を小突いてやれば、友哉はかすかに動いて睨みつける。
「テメッ…。」
「まだ喋れるんだ。やっぱその辺の不良とは違うなぁ。」
「く…。」
「やっぱり友哉君は違うなぁ、話に聞いた通りだ。
関東最強なのに、無駄に暴力は振るわなくて、でもやっぱり頭は足りてなくて、喋れば面白い人で、不良の癖に虐めとかそう言う陰険なモノは嫌いで、」
「い、ッ…!!!」
友哉は手をブルブルと震わしながらしっかりと幸村の足を掴んだ。
「何?そこまでして俺に危害を加えたい?今度は俺を殴る?蹴る?それとも、…――殺す?君の幼馴染の様に、」
「テメッ、誰…かッら…!」
立海の生徒は誰も知らないはずの友哉の幼馴染の存在。
何故幸村が知っている。
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