(9/23)
「…守本友哉だな。
俺は、柳蓮二と言う。少し時間をとってもらってもいいか?」
「ぁあ?んだよ。喧嘩売ってんのか?」
ある日、友哉が学校から帰ろうと、昇降口で靴を履きかえていたら柳という少年に話しかけられた。
いきなり名を呼ばれ、驚きから少々悪態をついてしまう友哉。
「そんなわけないだろう。俺はお前に力試しをしたいわけでも喧嘩をただ単に売りたいだけでもない。」
「だったらなんの用があんだよ。」
「聞きたいことがあるだけだ。聞きたいことはただ一つ…あの噂は、本当か?」
「………ハァ?」
「以前の学校で一般生徒にさえ暴力を振るった奴が何故我が立海に来れているのか分からない。そして、何故そのような奴がここの生徒に手を出していないのかも分からない。
それから、弦一郎の鉄拳を食らったと言うのに反撃しない?お前は分からないことだらけ――!?」
友哉は始めこそ柳の言葉に耳を傾けてはみたものの、なんだか不愉快極まりない。
興味本位で近づいてきてる、としか言いようのない雰囲気が柳から醸し出されていた。
友哉は柳の胸ぐらを掴み上げ、それから言った。
「お前さぁ、なに?
人の噂を本人に確かめる?その噂が本当だとしたら、俺は今、テメェを殴ってもいいんだよな?ぁあ?
興味本位で俺の過去を暴こうとしてんじゃねーよ。気分がワリィ。
それに、親しい間柄でもねぇお前になんで俺が質問に答えねぇといけねぇんだよ。」
「それは、すまない事をした。
では、…守本君、俺と友達になってくれないか?」
「ハッ!?」
「興味本位で聞いたことは謝ろう。すまなかった。
しかし、俺が守本友哉という人物に興味がわいたのは事実だ。守本君、俺は君のことが知りたい。」
「キモ……まぁ、あれだ。俺の事なんてその辺の不良共に聞いたらいくらでも分かるんじゃねーの?それが本当の事なのかは知らねーけどな。」
「…では、俺が本当の事を突き止めた時には守本君の口から真実が聞けると言う解釈でいいんだな。」
「勝手にすれば?」
友哉はパッと柳の胸ぐらを掴んでいた手を離して解放した。
それから今度こそ帰る為に校門を目指す。
その足取りはとても軽やかである。
柳のいきなりの友達になりましょう発言にはとても驚かされたが、
何故だろう。こうやって普通に話しかけられることが普通の事だと思えて、とても嬉しくなる。
しかし、それは一瞬の夢であって、現実は、
「血濡れた喧嘩人形さんよぉ、まだ関東のトップから降りないんすかぁ?俺に譲っちゃってくださいよぉギャハ!」
「…テメェみてぇな奴に譲るぐらいなら俺が支配したままの方が平和だよなぁあ!!」
こうやって目が合えば喧嘩。
特に今の様な午後9時位はよく絡まれる。
存在を知られたらふっかけられて、そのまま戦闘開始。
「なッグ…ハァあ!?」
そうして勝つ。
「あー、雑魚。あいつもこいつもそいつもどいつも話になんねぇなぁ。
どーしてこんな力があって、権力があって、なーんで俺はあいつを守れなかったんだろーなぁ?今更だけど、今更だけど、な。」
やっぱり自分はバカなのだと、喧嘩をする度に思わされる。
こうやって相手を力でねじ伏せて従わせることが出来るのに、どうして自分はあの時舎弟に止めろ、と一言言えなかったのか。
一度あいつに無下にされたからって言って、子供みたいに一時の感情で決めて、アイツの本当の想いをちゃんと考えなかったのか。
手紙には助けてほしかったと書いてある。ちゃんとSOSはかすかにも出していた。思い出してみろ俺、あの時のアイツの目は泳いでいただろう。言葉が震えていただろう。
はー…こう思い返せば自分の不甲斐無さだけを再確認することになる。
だけど、不甲斐無かったのだから仕方ない。
「ん?」
そんなつまらないことを考えながら公園の前を過ぎ去ろうとしたら公園の奥からなにやら平和的でない話し合いが聞こえてきた。
友哉自身に直接関係のない事だから助けに行くとかそう言う発想は無かった。
「なぁ、テメェ俺の服に汚れを付けて謝るだけとかねぇよなぁ?」
「だからお金渡しますって、穏便に済ませたいので。俺、事件とか起こすわけにはいかないんですよ。」
「金渡して、終わりぃ?んな甘っちょろい事言ってんじゃねーよ。この先ずっとこの俺に献上しやがれ!」
「えー、それは横暴でしょう。そもそも汚れって言っても砂汚れじゃないですか。」
「口答えしてんじゃねーよ!ガキがぁ!!」
口答えした少年の態度が気にくわなかったのだろう。
少年を囲んでいた不良数名が拳を振りかざして少年の顔を捉える。
少年はただただそれを見て身動き一つとらなかった。
「もう頭に血が上っちゃったの?もー…そういうの――。」
「ッおま、逃げ!!」
少年よりも友哉の方が慌ててしまった。
無抵抗の奴を殴るなんて、あの出来事と被る。
「――困るんだよねー。」
少年がモノを言い終わった瞬間に少年の周りにいた不良達は地面に伏した。
「…え?」
友哉はあり得ない物を見てしまった気分である。
何もしていないのに人が数名目の前で倒れたのだから。
「ふー、夜の街ってこんなに危ないところなのか。ちょっと本屋に用があっただけなのになぁ。
あ、その脱色メッシュ君、うちの学校に来た守本友哉君だよねー。今、暇?これから俺の家に来ない?」
どうやら絡まれていた少年は立海大付属中学の生徒で友哉の存在を知ってる生徒であるようだ。
そしてそいつが今自分の家に来ないかと誘ってきている。
「…断るって言ったら?」
「え?君もこいつらの二の舞になりたいって?」
「お邪魔、させていただきます…。」
「フフッ嬉しいよ。
あ、俺の名前は幸村精市。よろしくね?」
友哉が誘いに乗ったことで見せた笑顔はとても美しいものだったのだが、
誰かが言っていた。美しい花には棘がある、と。
正にその通りだと身に染みて感じる友哉だった。
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