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息も絶え絶えに友哉は笑いを零した。
「ハァ…はあアハハ、ハハ…。」
「あ?」
友哉が笑い出したことにより、二人は喧嘩を止めた。
息を整える様に友哉は笑い続けて、それから地面に座り込んだ。
「喧嘩は…楽しいなぁ……楽しいなぁ、楽しい…よなぁ?亜久津。」
「……。」
「…お前とやりあってると、全部の事を忘れることが出来るよ。お前とやりあうことが今までの喧嘩より、なによりも楽しかったぜ。」
「……何が言いてぇ。」
「なぁ、これからも俺の喧嘩相手してくれよ。毎日毎日、毎晩毎晩、付き合ってくれよ。亜久津…ッ。」
最後の方は声を絞り出すかのように呟いた。
何かに縋る様に、縋らせてくれと、悲鳴を上げている。
どんなにストレスを発散していても根本的な解決には至らない。
解決には幼馴染との再会、そして謝罪、それから、それから…。
もっと幼馴染に近づかなければならない。
しかし、現状は幼馴染の消息が分からない。
生きているのか、死んでいるのかすら分からない。
なにも、分からないのだ。
そんな状況の中、誰が耐えることが出来るだろう。
きっと大人なら自分の中で整理を付けることが出来るだろう。
しかし友哉はどんなに喧嘩は強くても人生経験の少ない中学生だ。友一人失っただけでもその衝撃は大きい。
「…断る。」
亜久津に縋った友哉だったが、その亜久津がはっきりと拒否をした。
「な、んで!?」
「テメェの事なんて知るか。自分の事だろ、自分でどうにかしやがれ。」
「つ、つれねぇこと言うなよ。な?な?」
「俺は喧嘩を楽しいだなんて思ったことはねぇ、ただの手段だ。
テメェみてぇに喧嘩をすることを目的にしてんじゃねーんだよ。」
「ッだったら!だったら俺はどうすればいいんだよ!!俺だって喧嘩は守るための手段だと思ってた…ッ。確かにストレス発散の目的もあったのは否めねぇけど…けど、力を示すことで手塚や不二からもそこそこ感謝されてた…。あいつには…歓迎されなかったけど……、
だけど!!それを否定された俺はどうすればいい!!目的を見失った俺は、…俺は、…俺にとっては喧嘩をすることを目的にするしかねーじゃねーか…!」
「ぁあ?簡単じゃねーか。もう一回その目的を目的にすればいいじゃねーか。
誰が否定しようが、テメェ自身がそうだって思っとけばそれが目的になるだろうが。」
ケッ、と亜久津は吐き捨てる様にそれを言った。
「………亜久津にそんなこと言われるなんて思ってなかったな。」
「喧嘩売ってんのか?」
「いーや、もう売ってねぇよ。正直疲れたぜ。
次、お前とやり合うのは当分後でいいや。」
「ハッ、俺はテメェとなんて二度とやりあいたくねぇよ。」
「…ありがとよ、亜久津。んで、ごめん。」
「チッ…謝んな気持ちワリィ。」
「なんだよー、人が感謝の気持ちと謝罪をしてんだから受け取れよー。」
「…………。」
そのまま亜久津は無言を押し通し、友哉から去っていった。
友哉はそれを黙って見送り、呟いた。
「…そんな、簡単な事じゃねーんだよ。亜久津。」
「よう、テメェが血濡れた喧嘩人形か?」
「ぁあ?んだよ。」
しんみりと物思いにふけっていると、幼稚な声がかかってきた。
見た目は高校生っぽいのだが、
「ギャハハハ、こいつが関東最強?
ただの頭がバカそうなほっそいただのガキじゃねーか。」
なんと品の無い笑い声だろう。
「やってみなきゃ、分かんねぇだろう?
来いよ、返り討ちにしてやる。保険証ちゃんと持ってきたか?」
「ぁあ?っざけんなよガキィイ!!」
友哉の安い挑発に乗り絡んできた輩は友哉目がけて拳を振う。
「そのガキに負けるのはテメェ等な!!」
数分後、友哉が宣言したように地に伏せっているのは絡んできたやつら。
「あぁ、楽しいなぁ…。」
やっぱり、目的は喧嘩だわ。
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