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嗚呼、なんてきれいな感情なんやろ、なんてきれいな表情なんやろ。
…なんでそんなきれいなモノを謙也さんとか部長とかにさらしとるんやろか。
なぁ、なんでなん?友哉さん。
それを見るんは俺だけやないんですか?ねぇねぇ友哉さん。
やっぱり、誰にも見せたくないわ。独り占めしたいんすわ。
どこかに閉じ込めるべきなんやろか、…でも友哉さんは強いから抵抗されたらひとたまりもないわ。
やったら…ここで死んでもろうて、…友哉さんを独り占めするんが……妥当なんやろか?
財前は背中に回している腕をゆっくりと離し、気づかれないように友哉の首元へと持っていく。
あともう少し―――
「ッ…財前、ありがとな。」
友哉がそう言って財前の胸の中から離れた。
「…ぁ。」
「変なところ見せちまって…悪かった。こんなしょぼい俺の舎弟辞めたかったらいつでも言ってくれ。な?」
「止めません!!」
「ぇ…なんで?」
「俺は友哉さんの一番近いところに居りたいんです!誰が何というと、俺は友哉さんの舎弟であり続けるつもりっすわ。
変なとこなんて友哉さんにはありません。有るはずないっすわ。完璧な友哉さん、完璧であるために感情を隠してた友哉さん。
友哉さんに対して敬意の念しか持ち合わせてないっすわ。
でもなんで俺やなかったんですか?その感情を受け止めるのは舎弟である俺の役目やったんとちゃうんですか?ねぇ、友哉さん?なんで謙也さんだったんですか?
そんなきれいな感情をなんで俺以外にも見せとるんですか?誰にも見せたくないんすけど、なんで白石部長にまで晒してるんですか?誰にも見られんようにするにはやっぱり友哉さんをどこかに閉じ込めてしまうしか方法ってないんすかね。」
「……財前、お前疲れてんのか?」
友哉が苦笑を浮かべる。
「…はい?」
「だってそうだろ?昼からボケすぎて…今回のそのボケは怖いぞ?」
「……かも、しれんすわ。」
「そっか、だったら部活終わったらしっかり休まねぇとな。
あ、俺もう帰るわ。一緒に帰ってやれなくて悪ぃが、今日は疲れちまった。」
「あ、はい…お疲れ様です。」
「じゃーな!!謙也にも……白石にも、よろしく伝えといてくれ!!」
友哉はそう言ってテニスコートを後にした。
「ッ………。」
場所は変わって、
謙也と白石が話していた。
「なぁ、謙也?守本の過去って何やねん。」
「あー…流石に言えへんわ。友哉は言いたくないと思うとるやろうし、ええ記憶やないからな。」
「俺と同じようなことをしてもうたって言よったけど…あいつも、一人のもんを虐めたことあるちゅーことか?」
自分の過ちを穿り返すような質問を謙也にして、苦い顔をする。
「いや、どっちかって言うと友哉も被害者の立ち位置や。
残念やけどなぁ…白石みたいに殺せなんて命令はしてへんで友哉の場合は、
それ以前に助けようとしたみたいやで?」
皮肉たっぷりに白石に返す。
それに対し白石は何も反論できない。
「………謙也は…やっぱ俺のこと、許してくれてへんのか…。」
「冗談や、冗談。前にも言ったやろ?みーんな許しとる。まぁ…許す前にマネはどっかに転校して行ってもうたけどな。」
「……守本が、泣いとった。」
「…せやな、友哉は強い、強いからこそ、弱いところを見せる訳にはいかん。やからここに来るまで友哉は一人でその感情を抱えとったんやろうな。
ここに来て誰も自分のことを知らんって思ってやっと弱い部分を出すことが出来たんや。一人で抱え込むんは辛いからな。支えてやらんといけん。
前、俺が友哉に支えられとった、なら今回は俺が友哉を支えてやる番や!」
「…なぁ謙也?」
「ん?」
「俺も、守本を支えてもええやろか?」
少し照れた感じで言う白石。
「ええと思うで!!…けど、なんでなん?」
「いや、…守本のおかげで目ぇが覚めたっちゅーこともあるし……謙也や思うて守本にも酷いことをしたんも事実やし…ご飯もまともに食ってなさそうやし…あの泣き顔見とったらなんかほっとけん気ぃしてもうたんや!!」
「……白石、自分は友哉のオカンか。」
「ちゃう!!そんなんやない!!だた、ほっとけん思うたのは事実やけど、そんなんやないで!!!」
「…そうか。ま、白石は今んとこ友哉に嫌われとることを忘れとかんことやな。」
「……おん。」
「謙也さん、部長いいっすか?」
財前が登場。
「どしたんや?」
「友哉さん帰ってしもうたっすわ。疲れたんやそうで…謙也さんと部長にも……よろしゅうって言っとりました。」
「なんや、帰ってもうたんか。…な!光、俺ら三人で友哉のこと支えてやろうな!!」
「…三人っすか?」
「せや!白石も友哉のこと支えてやりたいんやて!!」
「そう…すか。分かりました。」
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