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「俺には俺とは正反対で真面目な幼馴染が居たんだ…。」
話し始める。
何処か神妙に、何かを懐かしむように、
そして何かを悔やむように。
「小学校の時はまだ仲良かったんだ。お揃いのキーホルダーを買うぐらいにな。家が近所ってこともあったし。
けど…俺がこんな風になって、幼馴染はくそ真面目なガリ勉君になって…交流も無くなった。当たり前だよな、こんな不良と優等生と…関わっていいはずなかったよな。
まぁ、俺はそん時はどうでもよかった。あいつより仲間と駄弁る方が数倍楽しかった…しな。
それで……あんま時間が経たないくらいにあいつは謙也の様にいじめられ始めたんだ。主犯は俺の仲間兼舎弟。」
「ッ!?」
「アハハハッ面白れぇだろ。俺は止めようとしなかったんだぜ?止めることが出来なかった!!俺はあいつがいじめられてるなんて知らなかったんだッ!!
一個訂正しよう。交流がなくなっても挨拶ぐらいはしてたさ。ご近所付き合いは大切だからな。挨拶してもあいつは毎日、毎日…虐められていてもいつもと同じような顔で挨拶してきた。
……よく見れば悲しい雰囲気とかしてたかもしれねぇけどさ…俺バカだから…そんなの気づかなくてよ。
あいつがいじめられてるって聞いて俺はあいつに問いただした。どうして俺に言わなかったってな。
けど、あいつなんて言ったと思う?俺には関係ないって言ったんだ。
俺はムカついて勝手にしろよって、あいつを放った。
それから間もなくだ、あいつは自殺をした。あ、まだ死んでねぇよ?植物状態になってる。病院は知らねぇ、あいつの親が何も言わずに転院させた。
それでよあいつは死ぬ気満々でよ。真面目な奴でよ…遺書まできっちり残してあったんだぜ?しかも3通も、学校用に家族・親族用、そして俺用だ。」
友哉はポッケに手を突っ込んだ。
「あ、これ謙也のだった。
……俺、あいつの遺書いっつも持ち歩いてんだぜ?お揃いで買ったキーホルダーも一緒にな。女々しいだろ?」
自虐的に笑う友哉を見た財前は苦しくなった。
「でよ、ここからだ。俺が謙也に肩入れする理由は、
学校用にはこう書いてあった。『僕が死んだのはあなたたちのせいです。僕は相談しました、虐められていると。ですがあなたたちは勘違いではないのか、仲良くしなきゃダメだろうって言って相手にしてくれませんでした。僕が死んでこの遺書が見つかった時には後悔してください。』
って何処までも真面目な奴だよ。
で家族には『先立つ僕を許してください。』って書いてあったらしい。…忘れちまったけどな。で俺には…。少し長くなるけど聞くか?」
「……はい。」
友哉は貰った遺書…手紙の内容を暗唱し始めた。
『友哉、初めて手紙を書きます。初めて書く手紙がこんなのでごめんね?
学校にも、両親にも言わなかったこと…友哉だから話すよ。
辛かった。辛かったんだ、でも僕ね。いじめられるのはこれが初めてじゃなかったんだ。実は小学校の頃にもあった。友哉にはバレてないと思う。バレてたら今の僕は恥ずかしいな。
バレてない前提で話させてもらうよ。
小学校のいじめの原因は友哉に引っ付いてたからなんだ。
友哉はカッコよくて、でも僕は根暗で君とは雲泥の差があった。だからいじめられた。嫉妬だったと思うよ?だから僕は少しずつ、少しずつ君から距離をとった。
君は僕が居なくても大丈夫な人だったからね。僕の計画はスムーズにいったよ。
また平穏が僕に訪れた。友哉と気軽に話すことが出来なくなるっていうことが少し寂しかったけどね。
それで、今回いじめられた原因は…分からない。考えてみたけど…分からなかった。きっと暇つぶしだったんだろうね。いじめる対象がたまたま僕だったんだろうね。
いじめの主犯が友哉の友達ってことは想像がついた。実際そうだったよね。
君は責任感からか僕に迫ってきたよね。僕…嬉しかったんだよ?長い間挨拶ぐらいしかしてなかった間柄の僕を君は気にかけてくれた。本当に嬉しかった。
けど僕は君を突っぱねてた。
理由を言うね。僕は、僕が原因で君が人を殴るとこを見たくなかった。僕のせいで人が傷つくのを見たくなかった。君は考えるより先に手が出るからね。安易に想像がついたよ。
僕は君の手を借りなくても過去の様にまたこの現状は回復すると思ってた。
けど、さすが中学生だね。なかなか終わらなかった。
僕にも友達…仲間が居たんだけど……僕がいじめられ始めてだんだんと距離を置くようになったんだ。仕方ないよね、いじめに巻き込まれたくなんてないよね。
だから僕は仲間が僕を無視しようと、耐えることが出来た。いつかまた一緒に過ごせるようになるって信じて。
でも……耐えられなくなっちゃった。仲間が僕の大切な…君とお揃いで買ったキーホルダーを目の前で踏んで壊してくれた。
僕は頭の中が真っ白になった。何が起こったのか分からなかった。けど目の前には壊れたキーホルダーがある。茫然としている僕に僕の仲間はこう言った「お前なんて仲間なんかじゃない、さっさと死ね。」って。
僕はもう何も考えたくなくなったから…この時初めて死にたくなったから、僕は死ぬことにしました。
最期に僕は友哉と過ごせた時間が大好きだった。僕のこと忘れないでね。
でも…欲を言うなら、あの時助けて欲しかったな。』
「――――――――ってよ。だから俺は謙也に肩入れをした。全く同じ境遇だろ?あいつと謙也。仲間だっつって…お人よしなところもな。
可笑しい話だろ?関東の学校を牛耳ってる俺が、何千人って支配下における力がありながら俺はたった一人のダチも救えないんだぜ?俺は、結局バカのバカで大バカ野郎だったんだよ。
でももう後悔したくねぇ。だから俺は同じような境遇にいて、あいつと同じような考えを持ってる謙也を助けたいと思ってこんなことでも納得して助けようとしてきた。
でもさ、また俺は誰も助けることはできないんだわ…謙也は何も反応してこなくなっちまったし……なぁ財前クン?仲間から受ける暴力って死ぬことよりも辛いらしいぜ?………ん?…財前大丈夫か?」
財前は友哉の話を聞くうちに目にはたくさんの涙を溜めていた。下唇を噛んで歯を食いしばって涙が溢れ出ないようにしている。
「平気…す。」
「アハハ…悪ぃこんな重い話聞きたくなかったな。でも財前納得くしてくれただろ?俺が謙也の意思を尊重してる理由。」
「はい…。」
「じゃこれで話は終わりだ。財前はクラスに戻れよ。俺はもうひと寝入りすっから。」
「はい……ッ!?友哉さん。校門のとこ!!」
「あ?」
財前が指差す方向を見ると20人程度の少年が四天宝寺中学に向かってガンを飛ばしてきた。いや友哉に向かって飛ばしている。
「あいつら朝っぱらから来たのかぁ?」
「……友哉さん…もう放課後や。」
「え………マジ?」
友哉は十分に寝過ぎていた。
「ホンマっすわ。」
「……まぁいいさ!!さてあいつ等を再起不能にしてくるわ。財前はここに居ろよ。」
「着いて行く…。」
「いーや、来るな。俺の舎弟なら余計に来るな。巻き込むぞ。
ここからは俺の、俺のための時間だ。」
顔から笑みも苦笑いも消え、あるのは得物を捕えた肉食獣の様なぎらぎらとした目。
「…友哉さんっ。」
怖い、
そう思った。
「財前、やっぱ謙也が居なくなってよかったよ。俺の目に映る風景は優しすぎるアイツには刺激が強すぎる。」
友哉は財前を屋上に残し校門まで歩いて行った。
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