僕の愛しい人


「ないてるんですか?」

「泣いてないよ」

 嘘だ。だって涙がこぼれるのを必死で隠してる。

「また兄さんに何かされたんですか?」

「……されてない」


 周りを見渡すと兄とレイブンクローの新しい『彼女』とでも言うべき相手が見せ付けるかのように何度もキスしていた。

「あれですか」

 彼女は首を振ったけど、泣いている理由はあれに違いなかった。

「あんなのの何処がいいんですか?」

 どうせ外見や女の子に人気があるから、ただ自分も好きだと勘違いしているだけでしょ。女の子を取っ替え引っ替えしているような人を好きになるなんて有り得ない。


「とりあえず泣き止んで下さい」

 ハンカチを渡すと、泣いてないと強がったけど一応受け取ってくれた。
 貴女には僕のような男が似合ってるんですよ。僕なら貴女が泣いていたら、直ぐに気付いて慰めてあげます。貴女が困っていたら、直ぐに助けてあげます。
 僕のどこが駄目なんですか?顔ですか?確かに兄には劣りますが、別にそこまで悪くもないと思います。


“僕にしませんか?”

 いつも気付けば、口に出してしまいそうになる。ただ彼女を困らせてしまうだけなのに。



 ただ何も言わずに隣に座っていた。
 彼女は僕の渡したハンカチで隠しきれない涙を拭っていた。あんまり擦ったら眼が紅くなりますよ。眼が紅くなった貴女でも可愛いには違いないですけどね。



「なんでレギュラス君はいつも優しくしてくれるの?」

「なんででしょうね」

 それくらい考えれば直ぐにわかるでしょう。
 どうして僕はこんな鈍感な人を好きになってしまったのですかね。いつもいつも不思議がるだけで、考えようとしない。
 でもそんな所も好きですよ。貴女なら全部好きです。
 こんなに貴女のこと好きなのは世界中何処を探しても僕ぐらいです。
 早く僕にすればいいのに、もう焦らされるのは飽きました。


「わたしね、シリウスさん諦める」

「そうですか」

 じゃあその溢れ出す涙は何ですか? どうせ諦めれるはずないんだ。いつもそう言って眼で追ってる癖に。僕に期待させるだけさせて、また落胆させる。
 いつも兄のせいで僕は……
 兄がいなければ、彼女は僕を好きになってくれただろうか?いや、きっとその時はまた兄でない別の人を好きになってしまうのだろう。
 僕はいつも報われない。


「レギュラスくんは恋しないの?」

「しますよ」

「意外! 恋しそうなイメージないよ。どんな子?」

 ハンカチを握りしめた彼女は、泣き止んだのか前を茫然と見詰めながら話していた。こちらを見ようとはしない。

「そうですね、とても鈍感な人です」

「えー、なんでそんな人なの?」

 そんなの僕が知りたいくらいだ。貴女を好きにならなければこんな思いせずにすんだのに。貴女は兄にしか興味ないのに。

「力になりたいって思うんです」

「レギュラスくんってお母さんみたいだね」

 悪びれた様子もなくそういわれて、なんだか変な気分になった。褒められているのだろうか、けなされているのだろうか。
 恐らく彼女のことだからけなしてはいないのだろうが、褒められている気もしない。


「わたしね、最近シリウスさん以外に気になる人が出来たの」

「そうなんですか」

 ほら、どうせ僕は報われない。
 どうして僕は彼女の恋愛対象外なのだろう。僕はこんなにも彼女のことで頭がいっぱいなのに。


「その人はとても面倒見がいいの」

 彼女は聞いてもいないのに勝手に話し出す。

「それでわたしが落ち込んでたらいつも慰めてくれるの」

「それからいつも居てほしいときにいてくれる」

 黙って彼女の話を聞いていた。
 でも、彼女の話してる人はまるで…

「その人にしたらどうですか? 兄よりずっといい」

「え?」

「僕は貴女程鈍感じゃありませんから」

“貴女の気になってる人は僕でしょう?”

 ずっと前を向いていた彼女が驚いたように僕を見た。

「貴方は鈍感過ぎます」

「も、もしかして、レギュラスくんの好きな人って」



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