深い底で共に



「幽霊は嫌いですか?」

「嫌いというか怖い…」


 わたしがそういうとレギュラスは苦笑いした。


「じゃあ、絶対あの洞窟には近寄らないで下さい」

 頭を撫でてくれた優しい手が懐かしい。



 それから貴方は誰にも何も言わずに死んでしまった。皆死喰い人に殺されたんだと言っているけど違うと思う。
 貴方が言っていた『あの洞窟』に行けば貴方は幽霊として出て来てくれますか?

◆◇◆


 真っ暗な洞窟に光を当てると道があることがわかった。本当に幽霊が出て来てもおかしくないくらいに不気味で泣きたくなった。
 レギュラスもここを通ったのかなとか考えてみるけどやっぱり暗闇は怖くて、レギュラス…と、愛しい人の名前を口に出した。
 すると、名前を呼ばれた気がした。


「レギュラス?」

 涙が頬を伝う。
 怖いよ寒いよレギュラスでてきてよ


「来てはいけないといいましたよね?」

 間違えなく聞こえる愛おしい人の声が聞こえて鳥肌がたった。


「レギュラス、わたし貴方の幽霊なら怖くないよ?だから、お願いだから出て来てよ」

「僕はもう死んだんです。僕のことなど忘れて下さい」


 その場に泣き崩れた。
 涙が止まらない。レギュラスがいなければ生きていたって仕方ないのに。
 どうして貴方はいつも一人でなんでも決めちゃうの?


「泣かないで下さい」

「レギュラスに会いたい…」

 急に声が聞こえなくなった。燈していた光も消える。
 何の光もなくなって怖い怖くて涙も止まる。

「レギュラス……」

 ピトっと肩に濡れた『何か』が触れた。今さっきは何もいなかったのに何かが後ろにいる。鼓動が五月蝿く響いた。

「ナマエ」

 後ろにいる何かに抱きしめられていた。服に冷たい水が染み込む。

「レギュ、ラス?」

 抱きしめている腕を触ると骨と皮の感触がした。

「ナマエ、震えてますよ?やっぱり怖いですか」

「違う、違うの」


 怖い? そんなはずはない。嬉しくて体が震えるの。涙だって止まらない。
 いつも抱きしめてくれる貴方の体は温かかったけど、冷たくてもちゃんと貴方だとわかるよ。
 毎日待ち侘びていた暖かさ

 だから


「もう離れたくないよ……」

「僕もです」

 だから、ナマエには来て欲しくなかったんだ。
 せっかく一人でも寂しくないと思っていたのに、人間は貪欲だから、すぐに欲求が増える。
 ナマエがいなくても大丈夫だと思っていたのに

「貴女が悪いんですよ?」

 僕は貴女が来なければ我慢出来た。貴女が僕を欲しなければ我慢出来た。
 それなのに

「なんで来てしまったんですか?」

 貴女が欲しい。
 せっかくこの気持ちを心の奥にしまっていたのに抑えられない。溢れ出てくる。

「もう何処にも行かせません」


 一緒に眠りましょう
 貴女となら幸せです





愛してます、ナマエ

main