今よりちょっと前のお話
その日新渡戸は今度行われる生徒総会で使う備品のチェックをしに、普段あまり人通りのない実習棟にいた。 ほとんど倉庫のように使われている社会科準備室に入って一つ一つ書類で必要なものを確認していればずいぶんとあたりは暗くなっていた。 用具などは一通り確認し終わったのでそろそろ帰ろうかと一歩教室を出たとき、物音が隣の教室から聞こえていた。続いてガタンという音と、数人の声。何事だと思い、静かに中を除くとそこでは一人の生徒を複数の男子生徒が床に押さえつけて襲っていたのだ。 必死で抵抗しているが、体格的にも女生徒のようなその男子生徒は他の奴らに圧し掛かられては満足に動けない。必死で首や足をバタつかせて抵抗しているが、そうしていられるのも時間の問題のようだ。口もタオルか何かを突っ込まれてしまって満足に助けも呼べない。そもそも人通りの少ないこの棟では声を上げても気づいてもらえるかどうかすら危うい。 とうとう手が、生徒のズボンに掛けられた時、新渡戸は勢いよく戸を開けた。
「よお、楽しそうなことしてるじゃねぇか」
彼の姿をみた加害者たちはみな一様に顔を青ざめ、固まった。被害者に至っては信じられないという風に、呆然としている。
「ひいっ!?なんで会長がこんなところに!??」 「欲求不満なら俺が相手してやろうか、ああん?」 「けけけけけけ、結構です!すいませんでしたああああああ!!!」
バタバタと逃げるように男たちは窓から走り去って行った。一階でなければ捕まえられたのにと人知れず新渡戸は舌打ちをした。
後日、学園内で強姦まがいのことをした場合、会長直々の制裁が下されるという噂が流れていた。それもこれもそういった事件に会長が自ら出向き、未遂で阻止していたからだ。 その噂が広まって以降、この学園でそういった被害に遭う生徒が激減し、生徒や先生問わず尊敬のまなざしを向けられることになったのだが、当の本人はそのことを全く知らずに頭を抱えていた。
(くっそ…ッ!せっかくの強姦シチュだったのに、顔見られただけで逃げられるってどういうことだ……ッ!?)
本人はいたって真面目に性的な意味での相手といったのに、武力制裁な意味で他の人々に受け止められてしまったのだ。緊張して若干こわばった顔は獲物を甚振るサディスティックな笑みだと思われたらしい。話しかけられると逃げられてしまうのだから弁明も何もない。 人生ってうまくいかないと涙目になりながらため息を吐く会長を、生徒達は知らない。
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