【四騎士+ジータ】フラグはすぐそこに

誰もが魔法少女になれる。
どこからか流れてきたフレーズに感化された一部の団員が衣装を作り、似合わないはずのない相手に着せたのがきっかけで唐突に団内で魔法少女ブームが巻き起こっていた。
愛らしくかわいらしい衣装に身を包むと、誰もが少女に立ち返りしぐさまでが衣装にひっぱられる。
そこまでは!
よかったのであるが!
衣装をとっかえひっかえし堪能した女性たちの好奇心の矛先が、むさくるしい野郎どもにまで向けられたのが運の尽き。
依頼を片づけて帰って来た男たちの着替えを隠し、リボンとフリルをふんだんに使い仕立てた魔法少女風の衣装のみを脱衣かごの中に仕込むイタズラの実行犯がいた。
すっかり大所帯になった騎空団の副団長に最近就任した少女。
彼女には誰も逆らえないのをいいことに、双子の弟である団長──グランの服まで没収し着替えさせる辣腕ぷり。
副団長であり、団長の双子の姉である彼女の名は、ジータといった。

コルワお手製の魔法少女風ワンピースの出来は素晴らしいの一言に尽きるのだが、姿形が似通っている団員は少数なので比較的各サイズの似ているエルーンとヒューマンをターゲットに今回の犠牲者は出ていた。
当初はいかつい体型かつ筋肉質な者に着せて笑いをこらえていたりもしたようだが、ガウェインに着せたあたりで潮目が変化した。
顔のいい男に着せると映える。
どうにもならない、変えようのない真実に到達してしまった女性たちは、ジータを中心に一致団結し何とかして見目に優れた男たちに着せられぬものかと策を練った。
副団長直々に土下座して着ていただいたアルタイルすらも引き入れ、本格的に頭を使い、何とかして本人たちの同意を取り付けられないものかと時を費やした。
結果、本丸をパーシヴァル、二の丸をランスロット、三の丸をジークフリートとヴェイン、大手門をアイルストの面々と仮定し外堀を埋めていく作戦が立案され衣装づくりが開始された。

意図的にウエストを絞ったのは見た目のラインを重視した結果着用時にコルセットを装着する前提であり、決してジータ発案の嫌がらせではないことを当人の名誉のために書き記しておく。

さて、アイルストの面々が先陣を切らされることになったのだが、ヘルエスは元々身に着けている服と大差なかったため着用を快諾してくれた上に記念撮影にも乗り気であった。ヒトの文化に興味津々のスカーサハなどは言わずもがなである。
にこやかな笑みを浮かべて圧力をかけてくる姉のヘルエスがまた何か企んでいる、そう察知したセルエルは説明が終わる前に衣装をひったくり着替えに行くやら、その後姿を不憫と思ったのかノイシュは自発的に自分の分はないのかと申し出るやら。
小道具のステッキまで握らされて二人並んでの記念撮影をするまでの一部始終を見てしまい、次は我が身と戦々恐々とする次のターゲットは、不運にも一人もいなかった。
全員出払っているタイミングを見計らっての各個撃破。
騎空挺に戻るであろう順に、攻めるに易い相手から攻め落とす。
銀の軍師の知恵の無駄遣いもここに極まっていた。

市場に食料調達に出向いていたジークフリートが最初に戻ってくると、偵察をしていたソーンから連絡があり。
にわかに艇内の戦況があわただしく動き始める。
『対ジークフリートは正攻法、身なりに対して頓着しない可能性にかけるのが最も負担が軽い上に勝算もなかなかのもの』
帰還したらすぐにシャワーを浴びるように躾けられているジークフリートの習慣をお膳立てし、部屋で先に甲冑一式を外してきたのを確認してから、シャワールームへ送り出す。
この時にジークフリートが手ぶらで向かったのは癖だった。常備されているタオルを適当に使えばいいと思っていた彼は、タオル類が一枚も置かれていないことに意識を向けもせずにシャワーカーテンの向こうへと姿を消した。
勿論、その準備をしたのはジータである。
「ジークフリートさーん、タオル切らしてたから脱衣かごのところに置いとくね」
フェイスタオルとバスタオルを置きに行くついでに、ジークフリート用の衣装も仕込んで汗で湿ったアンダーウェアを回収する。
「着替えも置いとくから、着てきたのは洗濯に出しちゃうね」
「ああ、頼む」
まさかジータの言葉に裏があるとは思いもせずに。
ゆっくりとシャワーを浴び、ざて服を着ようとしてタオルで体を拭いていたジークフリートの首が傾げられていく。
「……これは、なんだ?」

ジークフリートがシャワールームに入ってから三十分ほど経過しただろうか。
編み上げのロングブーツはきちんと履けているのだが、そこから上が制作陣の予想を超えていた。
「わぁ…………!」
歓喜の声をあげたジータは、ジークフリートの逞しい腰部がどうにかコルセットで締め上げられている時点で十分満足してしまったらしい。太腿を隠し気味になっているスカートもパニエも男の足を彩るには不釣り合い極まりないはずなのに、未完成の芸術にも通じる何かがあり、ルナールなどはインスピレーションを得たのかすさまじい勢いでラフスケッチを始める始末である。
「寸法は概ね問題ないんだが、背中のファスナーが途中から上がらなくなってな」
その言葉にコルワが肩を落とす。
「どうしましょう……あまりサイズを変えずに残りの三着も縫ってあるから、今から手直しをして間に合うかしら……」
「コルセット慣れしてそうなパーシヴァルの魔法少女姿、見たかった〜〜〜!!!」
頭をかきむしり悔しそうにするジータ。
目の色を変えるジークフリート。
「俺以外に、着せるつもりでいた残りの三人は誰だ?」
もしかして、と期待の色を滲ませながら、ジータが答える。
「えっと、ヴェインと、ランスロットと、パーシヴァルの三人だよ」
もしかして。もしかして。各々の雑務にあたりながら、女性陣も聞き耳を立てる。
「ヴェインはサイズを上げないと着られなさそうだが、あとの二人は寸法を知っている。詰めるべきところを詰めれば支障なく着られるはずだ」
やったー!!!
声に出さずに両の握りこぶしを空へと突き上げるジータと、何やら悪だくみを始めるジークフリート。
騒動にはまだ続きがあるようだ。

地質学者に話を聞きに行っていたパーシヴァルと、自警団の鍛錬の指南をしていたランスロットが揃って戻ってきたのは昼過ぎだった。
「おかえり〜、二人とも一緒だったんだ?」
「偶然鉢合わせてな」
「パーシヴァルが俺のこと強引に連れてきたんだろ?」
「依頼が片付いた足で市場に寄って土産に甘いものを、と貴様が言い出さなければ放っておいたんだ」
「カタい事言うなって、疲れた体には甘いものがきくんだぜ?」
「あーはいはい二人とも、とりあえず着替えてシャワー浴びてきて、話はそれからゆっくり聞くから」
まさか二人一緒に帰ってきてしまうなんて。これでは一番勝率の低い策を取らざるを得ない展開ではないか。ジータはアルタイルの話を必死に思い出しながら、いかにしてパーシヴァルとランスロットの性格を活かして両者に魔法少女になってもらうかを即興で考え始めた。

シャワールームといっても、仕切りがあって個人のプライバシーがそこそこ守られるようなつくりではないのが、この騎空挺の面白いところのひとつである。
シャワーカーテンの向こうは、数人まとめて湯を浴びられる広さはあっても、シャワーノズルは二つだけ。
裸の付き合いというやつが出来てしまうのである。
「ここ設計する時にどうして間仕切り作らなかったのか、俺なんとなくわかった気がする」
「どういうことだ」
「ほら、騎士団の時は仕切りあったせいか、お前今くらいまでは俺に気を許してくれてなかったように思えてさ」
「ほぅ……同じ空間で共同生活を送る上では、気心の知れた相手がいるに越したことはないからな」
「それにさ──」
話が広がりかけた次の瞬間。
「おじゃましまーす!」
シャワールームに響いたのは、よりにもよってジータの声。
一瞬固まり、続いてシャワーカーテンが境界を作っていることを確認し、それからジータを叱ろうかとした二人だったが。
「お洗濯する都合があるから、着替えもってきたよ〜! ちゃんと服着て出てきてね〜!」
理由がそれなりにまともだったため、最後の一言が何かひっかかるような気もしたが、塵埃を洗い流して出た時にパーシヴァルはふと思案した。
少なくとも自分の着替えは持参したはずなのだが、なぜ副団長はあのようなことを言いながらわざわざやって来たのかと。
すぐに答えは出るのだが。

「ぐぇっ」
なんとも情けない声をあげ、締まりゆくコルセットにぎゅうぎゅうと腰をやられているのはランスロット。
「大人しくしろ、礼装の中にはコルセット必須のものもあると知っているだろう、少しは協力しようとする姿勢を見せろ」
編み上げのコルセットの紐を引っ張りながらランスロットにくびれた腰を形成しようとしているパーシヴァルは、身動きの取りにくいはずのコルセットを既に自力で装着済みだった。それもそのはず、パーシヴァルは公的な立場の人間としての役割を果たす折に何かと礼装が必要になり、その際にはシルエットをより美しく見せるために腰から肩の下までを覆うタイプのものをつけていたため、腰部のみを覆うものなど彼にとっては何ほどのこともなかった。
「お前が……っ、おかしい、だけだろ……ぅ……」
散々締め上げられて浅い呼吸しか出来なくなったランスロットは、パーシヴァルが自分だけゆるく締めているのではないかと勘繰り、ためしにパーシヴァルの紐を締めつけがよりきつくなる方向へと引っ張ってみた。
だが。
「…………諦めるしか、ないのか……」
ランスロットは自分と同じかそれ以上のきつさで締められているのを知り、観念してワンピースとパニエに足を通した。
皮肉なことにジークフリートの伝えた寸法は、コルセットで締めるのを加味してのものだったため、動きに余裕が出る程度にしか遊びがなかった。
渋い顔をして鏡に映った自分の姿を見ているパーシヴァルも同じだった。

ランスロットのあがきもあり、シャワールームが無人になったのは二人が帰還してから一時間ほど経過してからだった。
「────しゅ、しゅごい」
色々とダメになっているジータが万象に感謝しながら気を失い、八方を遠巻きに女性陣に囲まれたパーシヴァルとランスロットはもはや男性としての自己が揺らぐほどの窮地に立たされていた。
付け毛をつけられ可憐なヘアアレンジを加えられ、やれ決めポーズだのもっと絡めだのと暇つぶしのはけ口になれるばかりで。
なぜランスロットのスカート丈だけ極端に短いのか。
なぜパーシヴァルの靴は編み上げブーツではなく衣装と揃いの真っ赤なハイヒールなのか。
下着を用意してもらえていないため、気の毒なことにランスロットはずっとスカートの裾を押さえたままである。
そもそもどうしてジークフリートが二人の正確なボディサイズを把握しているのか、誰も指摘しないそら恐ろしい状況と、撮影班と化したルリアとビィ。
目に見える混沌を破ったのは、遅れて帰還したヴェインの手から転がり落ちた大根が真っ二つになる音だった。
「…………ランちゃん? パーさん? 新しい依頼でまさかその恰好しなきゃいけないとか、そういうのじゃないよね?」
一人難を逃れたはずのヴェインが、一番顔色を青くしていたのはなぜなのだろうか。

ふろふき大根になりそびれた大根おろしもわからない、当面の謎である。


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