年が明けると ジョイ+サンダルフォン

ジョヤの煩悩に関する一連の騒動が片付き、やれ正月だ宴会だ年始の挨拶だとばたばたしているうちに、当座のお役目が片付いたと判断してしまったジョイが自動的にお休みモードへと移行していたのですけれど。
倉庫の片隅で休んでいるつもりのようだが、その姿はどう見ても不用品が床に転がっているだけに見えてしまい、どうも不憫でならなかった。

そんなわけで、ジョイくんのお休みをより快適にするための緊急会議が実施され、繭歴もあることだし、という謎の理論によりサンダルフォンに白羽の矢が立てられた。
年末の立役者のベッド管理を一任される名誉なことだ、と入れ知恵もとい思い込まされた彼は、寝ぼけ眼のまま出席させられた会議で妙な係を拝命させられたのですけれども。
サンダルフォンは一生懸命でした。
自身が最も敬愛するお方に専用の繭を作ってもらい、その中でまどろむ時間は──自身の犯した罪とそれに対しての罰という因果を抜きにすれば、居心地は申し分なかった。
何を不自由することのない時間を与えてくれた存在とは今は離れているけれども、人間でいうところの愛情を信じられるようになった今は、どれだけ彼が自分のことを考えてくれていたのかを思い出しては時として気恥ずかしくなるほどで。
ジョイに対しては格別の思い入れがあるわけではないけれど、安らぎのひとときを過ごすためなら出来ることをやってみよう。前向きな結論に辿り着いたサンダルフォンは、自分が作ってもらった繭の形状を思い出そうとした。

そして気が付いた。
倉庫にあの繭を再現しようとしたら、倉庫が倉庫でなくなってしまうことに。
倉庫とは名ばかりで、ジョイ専用の寝床になってしまうことに。
釣鐘状の、そう小さくはないジョイのボディをすっぽり包み込むためには相応の大きさの繭が必要だから、それだけ多くの羽も必要になってくるし。
あのお方のような能力があれば、繭を構成する物質の構築から始められるのに、自分にはそれがないから材料を何らかの手段で調達しなければならないし……。

ふと思い立ったサンダルフォンは甲板まで出て、継承した十二枚羽を背に顕現させて丹念に羽を繕ってみたのだが。
(やはり代謝機能にも速度的な限度はあるか)
抜け落ちてくる羽では到底足りない。羽毛の肌触りは心地よいから使えないかと思っても、量が少なすぎる。とりあえず拾い集めてみても、寝床の足しにはなりそうもない。せいぜい羽飾りが関の山だった。

繭はそもそも用意しようとしたのが間違いだった、と考えなおしたサンダルフォンは、特製の敷布団とかけ布団で細かな塵や埃からジョイを遠ざけることにした。
不織布をジョイの大きさにあわせて縫い合わせたものをカバーとしてかけ、倉庫の温度変化からくる影響を小さくするために寸法を少しずつ変えた敷布団とかけ布団、それぞれ三組。
裁縫の得意なエッセルに事情を話して教えを請い、難しいところは手伝ってもらいながらなんとか手縫いで仕上げるまでには時間も要したが。
手間をかけることで相手への愛着が増す、という感覚を体感で学んだサンダルフォンは、四人がかりでジョイを布団に寝かせたときの団員たちの眼差しに、わずかに胸が詰まった。

あなたは俺の繭を用意した時に、どんな思いでいらっしゃったのですか、ルシフェルさま。
思うように育たない被造物だとお嘆きになりましたか。それとも、自我を持ちはじめた幼子の癇癪を微笑ましくお思いでしたか。
あなたの繭に帰りたいとは、俺はもう思いませんけれど。
俺が初めて手掛けた『繭』が、このものにとっての安息をもたらせばよい、と思っております。

次にジョイの機能が作動したら、何を教えてみようか。
まだ難しいかもしれないけれど、『愛』なんてのもいいかもしれない。

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