1ページネタ ヴェパシ

お前もこのように部屋を乱雑にすることがあるのか。
騎空挺にある自分の部屋の片づけが終わったパーシヴァルが、予想以上に乱雑に『出来上がって』いる、ヴェインの部屋に足を踏み入れての開口一番の台詞だった。
依頼を立て続けにこなし、ようやく丸一日の休暇をもぎ取ったヴェインとパーシヴァルだったが……その貴重な貴重な休みは、互いの部屋の片づけに現在進行形で費やされている。
積み上がった風土資料に始まり、洗い上がったまま収納待ちの下着にまで至る雑然と置かれた数多くのもの。
それらを大まかに区分けしていくのがパーシヴァルで、区分を参考に最適な場所へとてきぱきと移動させていくのがヴェイン。作業の合間に二言三言の会話はあるが基本的に言葉は少ないのだが……世の中何が起きるかわからない、彼らは実のところ相思いの仲だった。周囲の誰もそうとは思っていないどころか、当人たちでさえ自覚していない、相手の心に自分が住まっているなど一度として想像もしていない……相思の仲が聞いてあきれる実態ではあったが、まあそのあたりは時間と機会が解決してくれるのではないかとうっすら期待する位、彼らの距離は近しかった。
現にこうして、互いの部屋の片づけを手伝いあっているのだから。
「俺の部屋よりも、下手をすれば荷物が多いのではないか?」
積み上げられていた書物の片づけが中心だったパーシヴァルの部屋とは違い、多種多様な品々が所狭しと……並ばずに床に転がっているのが、それまでの多忙を象徴している。
ヴェインの部屋を目にしてのパーシヴァル個人の印象だった。
「あー……借りたものとかも混ざってるからそう見えるだけで、私物だけだったらパーさんとそんなに変わんないはずなんだけどな」
好まない呼び方をされているのだが、目の前に広がる惨状の方に気を取られているパーシヴァルは、意識がヴェインの方にはあまり向かなかったようで。
わずかに顔をしかめながら脱ぎ捨てられたままの衣類を、『雑踏』の中からひとつひとつ取り出しては洗濯用のかごの中に放り込んでいく姿は、ヴェインの記憶の中では像がぶれてしまっている『母親』をどこか思わせる。
あの頃は、手を伸ばして抱きついたら──陽だまりのような匂いと体温に、すっぽりと包まれてしまえたのだけれど。
今となっては、遠い世界の話だった。
唐突に遠い目をして物思いに耽り始めたヴェインに気付かないまま、パーシヴァルは洗濯物を部屋中からかき集めていた。
「……一度洗っているものも混じっているかもしれんが、埃をかぶっているものや他と区別のつかなくなっているものがある以上、もう一度洗ってしまった方がずっと清潔──おい」
思い出の世界の住人になってしまっているヴェインに、パーシヴァルもようやく気が付いて、眉をひそめ若干の棘のある声色でヴェインをなじった。
「部屋まで犬用の簡素なつくりにしてほしいのなら、俺から団長にかけあってやってもいいが」
何を言われたのかよくわかっていない風のヴェインが、記憶の中の像を抱き締めようとして──パーシヴァルに向けて腕を伸ばす。
パーシヴァルの腰を抱き寄せた拍子に、山と積み上がっていた洗濯物が何枚か床に落ちてしまったのも手伝って、苛立ちを隠さない声のパーシヴァルがヴェインの手をつねった。
「──ふざけるのも大概にしろ、ヴェイン」
パーシヴァルがなかなか呼ぼうとしない名で呼んだせいもあって、ヴェインははっと我に返った。
腕の中には、パーシヴァル。
わずかに頬に朱が差しているように見えたのは、まず気のせいだろう。
「──あ、ご、ごめんな、パーさん!」
慌ててパーシヴァルを解放したヴェインだったが、胸元や二の腕のあたりにはパーシヴァルの香がほのかに残っていて。
赤面しながらヴェインが離れると、目を合わせようとしないパーシヴァルが、漂わせていた視線の先で何やら見つけたらしく。
「……これは、何だ?」
実に興味深そうに、少々安っぽい装丁の冊子を手に取りぱらぱらと頁をめくっているではないか。
「ちょ、パーさんっ、それ!!」
あわてふためくヴェインをよそに、パーシヴァルは頁を繰る手を止めようとはしない。
「見られてそこまで慌てるようなものなら、きちんと管理をしておくべきでは──そ、その、なんだ」
ようやくパーシヴァルも、自分が何を手にしてしまったのか察しがついたらしく。
うっかり取り落としたパーシヴァルの足元で、大きく開かれた本に掲載されていたのは。
艶やかな紅の髪をした、すらりとした体型の女性……という特徴だけなら穏便に済んだのだ。
局部をかろうじて手で隠しているだけの、丸裸であったのが決定打になってしまった。
「……あちゃー」
まずいことになった、と視線を泳がせたヴェインと。
成人男性として至極当然の欲求を解消するための媒体に、この上ない怒りを覚えて今にも焔をゆらめかせようとするパーシヴァル。
だが突然、炎の気配は消えてしまう。
「……俺は……」
母には、なれない体だ。
当然とも、何か深い意味があるとも受け取れる言葉を残して、パーシヴァルは足早にヴェインの部屋から出ていってしまい。
その一件を境に、パーシヴァルはヴェインを意図的に避け、無視するようになってしまった。

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