【牛及】ぱんつ一ダースください。

下着は定期的に新しい物へと取り替えるといっても。
一度に大量に買い込むとなると、それなりにおかしな目立ち方をする場合がある。
買い物に来た当事者が、目立つ容姿をしているなら尚更だ。
「げっ」
下着売り場に足を踏み入れるなり、くるりとUターンして元来た道へと戻ろうとする及川を捕まえた牛島は、至極ありきたりな問いかけから会話を切り出すことにした。
「買い物に来たのだろう、及川」
先日初めて枕を交わしたばかりの仲ではあるが、逃げられるようなことをした覚えはない。
はじめてなのにきもちいい、どうしよう、と言わせた以上牛島の完全勝利で、記憶の中には一片の痛みも存在させなかったはずなのだ。
よって、ここで逃げられるのは理にかなっていない。話をすればわかることもあるのだろう。
首根っこを掴んで及川を足止めしている、牛島のそんな意図など当然知らない及川は。
「やだやだ、放せよ、放せったら」
じたばたと及川は抵抗してみせたが、身長に対してのウェイトが違う。
「買い物に来た恋人を手ぶらで返せば俺の沽券に関わる」
「……買ってくれるなら、ここにいてやる」
何を、とは及川は言わなかったが。
下着売り場に来て買うものなど、当然下着に決まっている。
自分用の買い物かごの他にもうひとつ、及川のためのかごを手にした牛島は、手で何となく計った時の記憶を頼りにサイズを見定めて。
勝手に自分の好みで次々に下着を選び始めた。
「ま、待てって、ちょっと待てったら!」
かごに放り込まれた五つほどの下着を見た及川は、いつになく余裕のない様子で牛島の手にすがりつき動きを止めさせた。
「いくら何でもこの色とか柄はない! ピンクとか花柄とか絶対やだ着替えの時に笑いものになるの俺じゃん!」
花柄とは少々違う、ボタニカルモチーフと呼ばれていて、などといった入れ知恵を懸命に行った結果。
「──こういった模様が女性だけのものではなくなりつつあるし、及川なら色合いといい似合うと思うのだが……どうだろうか」
きつい蛍光色をまとえと言っているのではない。あくまでもやわらかな色調のサーモンピンクで、色以外はベーシックなデザインをしている。色とサイズの異なる同一ライン製品の着け心地を知っている牛島は、この下着のほどよいフィット感を知らずに及川が過ごすのは少々勿体ない気がしてならなかったのだ。
「…………そこまで言うなら」
という調子で、牛島が及川の退路を断っていき。中性的な印象の下着を次々と及川用のかごの中に入れることに成功した牛島は、今日の買い物の量や主たる目的についてもさぐりを入れてみた。
「何枚くらい買う予定なのか、また考慮した方がいい事項などはあるのか、聞かせてもらえるか」
どうして自分の下着のサイズが牛島に筒抜けなのか、気にし忘れた及川があれこれ考えている間は、自分の買い物を進めて。
「……笑ったりするなよ」
視線を泳がせながらも答えを出した及川が、そっと耳打ちしてくる。

じゅうにまい。
汚れの落ちやすいやつがいいな。

「……随分と物入りだな」
思わず牛島がつぶやくと。
仕方ないじゃん、と及川が唇を尖らせた。
「お前のせいなのに……」
うっかり声に出ていたと気づいた及川は咄嗟に口を両手で覆ったが、既に発した声は牛島の耳に飛び込んだ後で。
「どういう事だ、及川」
返答次第では菓子折りを持参してご両親に謝りに行く。
そう顔に書いてある牛島の心を違う方向へと逸らす術を、及川はまだ持たない。
「……自分で、ヌいても……寝てる時に、いつもお前が夢に出てくるから……」
ようやく牛島も、毎夜夢に見るほど鮮烈な経験をさせてしまったと気が付いて。
現実の自分の何倍も、及川の体内の温もりや締めつけを味わっていられる夢の中の自分に嫉妬して。
十二枚に足りなかった枚数をサイズだけ確認し、適当に選んでかごに放り込んだ。
何も言わないままの牛島は手早く会計を済ませて、二つのショッピングバッグを片手に、空くはずの手は及川の手首を掴んで強引に引き連れて、足早に売り場を去った。
「……おい、待てって、一体俺をどこに連れてくつもり──」
ショッピングモールの数ある出入口でも、まず学生のうちは大して用がないと思っていた出入口に向かっていることに、及川は気付かないままで。
未成年には見えない二人が近くのビジネスホテルの入り口で目撃された時には、牛島の手は及川の腰に回されていたというのだから、事実は小説より奇なり、である。

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