【松及】Prelude

 及川徹は、不思議な夢を見ていた。
 大きな大きな白い蛇が自分を見下ろし、これから一呑みにせんとしているというのに恐怖心をまるで抱いていないのだ。あたかも、その白蛇の腹の中に入るのが自分の運命であるかのように、迫る大口を受け入れていた。

 松川一静もまた、不思議な夢を見ていた。
 自分は人の姿をしておらず、純白の巨大な蛇として世界に君臨していた。信仰の対象として崇め奉られ、時には生贄と称した人間が自分に差し出されることがあった。
 悠久の時が流れ、その生活に何の疑問も持たなくなった頃。
 一人の青年が、手足を縛られ口に猿轡を噛まされて、自分の前に転がされている。
 ああ、また人に呪われながら呑みこむしかないのだなと鈍麻した感情を制御しながら口を開けた時。青年はどれほど怯えた目をして自分を見るのかと確かめるだけ確かめようとした、その時。
 青年は現実に疑問を抱くどころか、蛇となった自分に食われてようやく自分の道が拓けるのだと信じ切った目をしていた。
 ただの白蛇を、人智を超越したものとみなして身を差し出し、未来を見出そうとしていたのだ。

 そんな目をした人間を見るのは、初めてだった。
 呑む気が失せ、感覚を麻痺させる毒の牙をしまった瞬間。

目は、覚めた。





「ってな感じの夢見ちゃってさ、わけわかんないと思わない? 岩ちゃんもさぁ」
 及川は着替えながら岩泉に話しかける。
「俺はテメーのわけわかんねえ夢の話を聞かされてる俺自身が気の毒でならねえな」
 だが岩泉は話に乗って来る気配などまるで感じさせない。
「ちょっと、真面目に聞いてってば、大事なお告げだったら何かしなきゃいけないじゃない? 白蛇って神様のお使いか何かでしょきっと? 神棚に何か祀っておけばいいのかな?」
 及川がもたもたしている間に着替え終えた岩泉が、スポーツバッグを担ぎ上げて及川に背中を向ける。
「知るかよ、くだらねえ話でこれ以上帰るの引き伸ばされたらたまんねえかんな、俺は帰るぞ及川」
「ちょ、岩ちゃんってばぁ!」
 及川は、部室に一人にされてしまった。

「……ちぇ。何だよなんだよぉ。ほんとに帰っちゃうこと、ないだろぉ……」
 一人、部室に残ってジャージに着替え、部誌を記入していた及川のもとに、とっくに帰ったとばかり思われた人物が現れた。
「お疲れ、及川。部誌、まだ書き終わんないの?」
「あれ、まっつん? もう帰ったんじゃなかったの?」
「ちょっと忘れ物をしてね」
 そう言った松川は及川と同じくジャージ姿。真向かいに椅子を用意して座り陣取り、及川が部誌を記入していく様子を何の気なしに眺めていた。
 心地よい沈黙ののち、及川が部誌を書き終えると、両腕を上に伸ばして軽く伸びをした。
「お疲れさん、及川」
「ありがと、まっつん。……そうだ、忘れ物取りに来たんじゃないの?」
「それそれ。……なあ及川、予知夢って信じるクチか?」
「予知夢? 未来のことが断片的に見えるって、アレ?」
「そう、その、アレ。」
「うーん……急に言われてもピンとこないけど、昨日変な夢見たせいかな、今だったら信じちゃうかも」
「変な夢? どんな?」
「それがさぁ……」
 及川は、事の仔細を松川に話し始めた。

「へぇ、白蛇に食われそうになってるのにちっとも怖くない夢、ねえ」
 松川は意外にも及川の話に真面目に取り合っていた。
 彼も同じような……否、彼は及川以上に突飛な夢を見ていたせいで、問いかけを投げかけたくなっていたのだ。
 何人も呑みこみ続けた腹に、及川によく似た青年だけを入れる気にならなかった理由を、彼は探していた。
 そして及川も、呼応したかのように似た夢を見たという。
 単なる偶然にしては、出来過ぎていた。
「うん……俺なんか簡単に一呑みにできるのに、そうしなかったんだよね、不思議なことに」
「…………へぇ。食えるのにそいつは食わなかったのか。いつでも食える自信があったのか、それとも」
「それとも?」
 及川が身を乗り出し、松川の話に身を入れて聞こうとしてくる。
 そんな及川の顎を、松川が掬い。
「気に入ったから傍に侍らせておきたかったとか?」
「え、何それ、冗談でしょいくらなんでも」
「どうだろうな?」
 松川の瞳が不敵に輝く。
「俺なら獲物は逃がさない」
 互いの吐息が吸える距離まで、二人の顔が近づく。
「ましてや、自分から懐に飛び込んできた好みの獲物を、みすみす逃してやるようなお人よしじゃない」
「……まっつん? 何、言って──」
「目、瞑って。及川」
 二人の顔の距離は、ゼロになった。


 どれくらいの間、二人のシルエットは繋がっていただろうか。舌まで入れて及川の口内を堪能し、唇の端を伝いかけていた唾液をハンカチで拭きとってやっていた松川と。されるがままになって腰砕けになり、椅子の背にくったりと体重をあずけている及川の。
 口が離れて生まれた銀糸の橋を舐め取るためにもう一度口づけし、及川の両頬にも口づけた松川が問いかける。
「本気だって、わかってくれた? 及川」
 未だぼんやりとしたまま我に返らない及川をいいことに、部誌の乗っていた机を脇に寄せて、松川は更に及川へと近づいた。
「反応してるね……及川の、ここ」
 ジャージの上から、硬くなっている股間にやんわりと手を当てる松川。
「や……して、ないし!」
 ようやく半分ほど我に返ったのか、及川が返事をする。けれど、普段のような鋭い切り返しではない。熱に浮かされた、切っ先の鈍い返しだった。
「嘘ばっかり。反応してないなら、ここで脱いで証明してみせてよ?」
 着実に及川は追い詰められていた。脱がなければ証明にはならない。かといって脱いでしまえば、着実に反応しつつありグレーのボクサーパンツの色がじわりと変わってしまっていることなど、目ざとい松川が見逃してくれるはずがない。
 前門の虎、後門の狼。及川がもじもじとためらっている間に、しびれを切らした松川が及川の下着の中に手を入れてしまった。
「まっつん!?」
「ほら、糸まで引いちゃってる。これのどこが、反応してないっていうの?」
 下着の中から及川の陰茎を露出させた松川は、さも当然といった風に取り出したばかりのものを口に咥える。
「えっ、なっ、あ……まっつん……だめぇ……」
 ピチャピチャと音を立てて及川のものを舐めていた松川だったが、『だめ』の一言であっさりと口を離してこう言った。
「『だめ』なんでしょ?」
 ぽかんとしている及川。
 完全に勃起してしまい、カウパー液も垂れているというのに、松川という男はあっさりと及川の雄の部分を無視してしまう冷淡な対応を取ったのだ。
 言質を取られては及川も素直にならざるを得ない。
「……ううん。もっとして、まっつん。俺、イきたい」
「了解、『お姫様』」

「えっ、あの、まっつん……俺、イきたいって言ったけど、体触ってって頼んでなかったはずなのに……?」
「サービスサービス、気持ちいいから体の力抜いてみ?」
 及川徹は哀れにも、松川一静の毒牙にかかってしまったのであった。
「あ……そんなとこ、舐めるのだめぇ……」
「どうして?チンコ舐めるのは良くて、どうして乳首は駄目なの?」
「だって、そこ……ひゃんっ!」
 甲高い声が及川の喉から漏れる。
「……自分でするときに弄ってるから、気持ちよくてたまんないんだもん……」
 今の声、誰かに聞かれてたらどうしよう。
 この期に及んで人に聞かれる心配をする及川は、らしいというか何というか。
 結局ジャージの端を咥えさせて、乳首を転がし陰茎を口で吸ってやりながら、及川をイかせてやった時。及川の足は、全開になっていた。



 及川徹と松川一静は、ひょんなことから体の関係を始めかけていた。事の発端は、松川が及川に口づけて、うっかり及川がそれに反応してしまったせいである。手と口でおいしく及川はいただかれてしまい、どうしたことか私服デートの約束まで取り付けられたまでは、及川なりに展開に理解が及んでいた。
 問題はその先に潜んでいた。松川が、抜け道にと通ろうとした繁華街の一角で、見知らぬ看板を見つけたのだ。
「あれ、こんなところにこんな看板と建物あったっけかな……」
 無論、バレー一筋で繁華街に明るくない及川は街の変化にも当然暗く、松川の言葉が事実かどうかさえわからずに、ある意味禁句ともいえる一言を口にしてしまったのだ。
「よくわかんない場所なら、入ってみたら?」

 繰り返す。ここは、抜け道に通ることの多い繁華街、である。

 及川は知らない。繁華街の抜け道めいた道には、何が多いのかを。松川は知っていたが、知らないふりをした。及川の反応を見て面白がるために、わざと黙っていた。
「まっつん?」
「入る? 及川」
「え? う、うん……?」
 よくわかっていないなりの言質を取るや否や、松川は及川の手を取り、建物の中に入っていく。入口が直接は見えないよう工夫されたエントランス。曲がりくねった通路。入口で部屋を選ぶタイプの受付があり、全室今は空いているのか、部屋の空きを示すランプは全部点灯していた。
「及川、部屋の好みとかある?」
「え、へやのこのみ……? まっつんに任せるー」
 その瞬間、松川の瞳にいつにない光が宿ったのを及川が気付くわけもなく。
「じゃあココね。301号室。さ、行くよ」
 どうしてその流れで手を繋ぎ、エレベーターでもやけに体を密着されているのか、及川は鈍いせいで気づかないまま。エレベータは止まり、扉が開く。フロアの端にある301号室の扉を開けると、そこには──
「うわぁ、ひろーい!」
 及川にしてみれば想像以上に広いベッドと部屋が待ち受けていららしく、早速ベッドに横たわり寝心地を堪能する有様。
「ふーかーふーかー……」
 そのまま寝入りそうになる及川を抱き起した松川は、及川の額に口づける。
「こら、及川。早速寝てどうすんの」
「だってぇ……ベッドおっきいし、ふかふかで気持ちいいよ?」
 まっつんも一緒に寝ない?
 クイーンサイズのベッドのど真ん中に陣取っての台詞が、それである。
 こりゃ重症だな、と松川は額に手をやり、気を取り直して及川の服を一枚一枚脱がせていった。
「先にシャワー浴びておいで。俺はやっておくことがあるから」
「う、うん……?」


(料金は前金制、サービスタイムは18時まで……あと4時間強ってとこか)
 おもむろに財布を取り出し精算機に千円札を何枚か通していく松川。表示されていた料金を入れ終えたところで、ようやく部屋に鍵がかかる。天蓋付きのベッドと言えば聞こえは良いが、四方にオーガンジー素材の蚊帳を吊るせるだけと言ってしまえば身もふたもない。
(ま、あの及川の様子からすると、物は言いようで何とでもなりそうだけどね)
 特殊な加工を施しているのか、シャワールームの中からは部屋の様子はわからないらしい。松川の側からは、及川の無防備な入浴姿が丸見えである。こちら側を向き、足を開いて体を洗っている様などなかなか見られたものではない。眼福眼福、となかなか恥ずかしがって見せてくれない局部に食い入るように視線をやりながら、松川も自らの着衣を一枚一枚脱ぎ、落としていった。
 シャワールームの扉を開け、均衡を破る。
「及川、一緒に入ろ」
「あぇ!? まっつん!?」
 同性同士であるのに前やら胸やらを隠そうとする及川がおかしくてならず、松川はつい吹き出した。
「及川、動揺しすぎ。合宿の時も、なんなら着替えの時だって、見てるトコは見てるでしょ」
「だ、だってぇ……」
 及川の動揺も、また尤もなものだった。ヘソ毛から下生えから、松川は何も隠そうとはせずに堂々としている。
「それとも、及川は合宿の時、ずっと俺のことは見てくれてなかったわけ?」
 それはそれで傷つくなあ、と微塵も傷ついていない様子の松川は、口先で及川を弄び。
 とうとう、及川が攻勢に出た。
「だってまっつんだって知ってるでしょ、俺体毛薄くて全然生えてないって! だから見られるの恥ずかしいし、他の人の見たら羨ましくなっちゃうしで、見ないようにしてたの! 全員!」
 声を荒らげた及川に、今度こそ松川は意外な顔をしてみせた。
「へぇ……だったら、この機会に、じっくり全部見せたげる。勿論、及川の全部も」
 反応しかけている自身の陰茎を掴み、座っている及川の顔の前へと持っていく松川。
「俺のはこうなってるの。よく見て」
「う……」
 鈴口が縦に裂け、蛇の口さながらになっている松川の陰茎。亀頭も露出しきっており、カリが張り出して傘のような形状を取っていた。
「……おっきい……まっつんの……それに、なんていうか」
 すごく、大人っぽい。
「お褒めに与り光栄です、お姫様」
「もう、俺はお姫様でも何でもないのに」
 茶化された及川は、意趣返しとばかりに石鹸を泡立てて、松川の陰茎を洗っていく。ころころと両の掌の上で粘土を伸ばすように転がしてみたり、根元からぶら下がっている陰嚢の中身を指先で玩弄してみたり。陰毛にも手を伸ばしかけたところで、松川からの制止が入った。
「それ以上は駄目。俺が自分でやって見せるから、及川も普段どうやって洗ってるのか見せて」
「え?」
「だから、及川が普段どうやって洗ってるのか見せてってこと」
「えと……その……」
 及川の歯切れが途端に悪くなる。
「それとも洗ってないわけないよね?」
「そ、そんなわけないでしょ!? ……洗ってるけど……勃ってる時じゃないと洗えないんだもん……」
 さっき洗ったばっかりだから今はムリ。
 頬を赤らめ、松川のものから目を逸らしながら、及川は白状した。その結果に松川は満足し、備え付けてあるローションに手を伸ばした。
「ふぅん……こっそり及川は、洗うついでに気持ちいい思いをしてたってことか。じゃあ別のところを洗おうか」
 またしても不敵な光が松川の目に宿る。こっそり気持ちいい思いをしていた及川は負い目もあってか、素直に松川のいう通りにすることにした。


「ま、まっつん、この格好って!」
 松川に背を向け、四つん這いにされた及川。
「俺にお尻見せてって意味だけど?」
 しかし、松川は及川の体勢には何ら疑問を抱いていない様子であった。
「お尻見せる必要ってあるの!?」
「ある」
 ローションを手に取り温めながら、松川は及川の菊花に指を這わせた。
「ここにも生えてないんだ、及川……本気で言えるよ、可愛いって」
 つぷり。及川の花に、指が一本埋められる。
「っあ、なに、いまの」
「俺の指。……このあたり、かな」
 及川の体内で一際ふかふかとした部分を、ごく優しく指の腹で松川が擦れば。
「ひゃ、ああん!」
 及川が恥も外聞もなく啼いた。
「やっ、そこ、さわっちゃだめぇ!」
「嘘つきだな、お姫様は。ここはもう、『こんな』になってるのに」
 及川の右手を床から離させて、陰茎を握らせた松川。及川が思っていたよりもずっとそり返っていて、カウパー液も滴り落ちている。直接刺激された時よりもずっと速く、射精の準備は整っていた。
「し、しらない、俺こんなのしらない!」
「だろうな。俺も及川がここまで感じやすいのは初めて知ったよ」
 二本目の指を挿入し、ぐりぐりと前立腺を刺激し続ける松川。程なくして、及川の陰茎の先から、ぴゅうっ、と精液が飛び出した。
「あ、あん!」
 ぴゅるっ、ぴゅくっ。精が尿道を通り抜ける度に、及川の中が締まる。更なる射精を促すようにゆるく陰茎を扱いてやれば、とろりと残滓が滴り落ちた。
「はぁ、はぁ、は……っ……まっつん……俺……どうなっちゃったの?」
 自分自身の変容ぶりを信じ切れていない及川が、松川に素朴な疑問を投げかける。
「及川は、お尻でイくのも上手だね。……立てる? 続きは、ベッドでさせてあげたいし、俺もしたい」
「……うん」

 そして。
 三本目の指も呑みこんだ及川が、枕を腹の下に敷きうつ伏せになり足を広げて松川を待っていると。
「及川、ちょっとトラブル発生」
「何、どしたの?」
「ゴム、入んねえ」
 先端に被せはしたものの、丸まっている筒状の部分がうまく降りて行かないのだ。
「え、サイズいつもと同じでしょ?」
「勿論。……クソッ、こんな時に限って」
「なくてもいいよ、俺、性病とか持ってないし」
「なくていいって、及川お前……中に出していいってことかよ」
「外でもナカでも、まっつんのお好きなように……俺、うまくできるかどうか、わかんないから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 松川が及川の足の間に入り込む。
「入れるぞ」
「……うん」
 ぬちゅっ、という音がして、及川の菊花と松川の亀頭が密着する。
「うっわ、たまんねぇな……及川、本当に初めてかよ」
「そ、そうだよ! お医者さんが坐薬入れる時くらいしかお尻の穴なんか見せたことないよ!」
 ちゅぷちゅぷと亀頭に吸い付いてくる菊花に誘われて、一気に全体重を及川にかければ。
「────っっ!!」
 強烈な抵抗には遭ったが、一番太かったカリの部分が無事及川の中に埋まり、二人の間に隙間がなくなった。
「か、はっ……ま……きつ……」
 及川はものも言えないほどの強烈な刺激にすっかり支配され、松川のものを締め付けることしか出来なくなっていた。
「ちょ、及川、そんなに締めんな動けねえだろ」
 中に入れた部分全てを渾身の力で締められてしまえば、天にも昇る快さと共に痛いほどの圧力を感じる。
「で、でもぉ……力抜いたら、出ちゃいそうで」
「出していいから、汚してもいいところだから、頼むから力抜いてくれ」
 でないと動けないし俺もイけねえ。
 掠れた声で囁かれ、及川の身がびくりと痙攣したかのように反応する。それを合図に及川の体から力が抜け、枕に精が飛散した。ズッ、ズッ、と徐々に奥へと入っていく松川の陰茎が及川の胎内の狭いところを通過するたびに、枕に新たな精が零れ落ちて。
 松川の下生えが及川の陰嚢に当たる頃には、枕は及川の体液でどろどろになっていた。
「全部……入った。及川、大丈夫?」
「だい、じょ……ぶ……すごい、中で……脈打ってる……」
「とりあえず、さ。俺一回、イっていい?」
 及川が楽な体勢でいいから。
 言われるがまま、及川が両膝を立てて尻を高々と上げると、先端だけ残して引き抜いていた松川のものがもう一度深々と挿入されていく。
「く、ぅん……まっつんの、おもってたより……」
「思ってた、より?」
 意地悪く動きを止めて、及川の言葉の続きを促す松川。
「お、おもってたより……ふとくて、ながいの!」
 ひとりえっちできなくなったらどうしよぉ、とべそべそ泣き始めた及川の涙を拭い、松川はもう一度囁いた。
「セックスしたい時はいつでも言って、付き合ったげるから」
「本当!?」
 嬉しい、と安心した及川が、きゅうっ、と思い切り松川のものを締め付けると。
 不本意にも、そのあまりの愛らしさと快感とのギャップに萌えてしまった松川は、予定よりもずっと早く及川の中へと繰り返し精を吐き出していたのであった。

 その後、松川が満足するまでつき合わされた及川は後ろで達して潮吹きも経験し、枕どころかシーツもベチャベチャにしてしまうのだが、漏らしたと今でも勘違いし続けている本人の名誉のために詳しい話はここでは伏せておくことにしよう。
 かくして二人の恋路は体から始まった。
 とどめは及川のこんな一言だった。
「すっごく、気持ちよかった……ありがと、一静」

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