【牛及】あの花びらが散る前に〜押してダメなら押し倒せ〜

 俺の頭には生まれつき、桜の花の蕾がついている。別に取り立てて珍しいわけじゃない。男女ともに、頭にそういう蕾をつけて生まれてくる人は、全体の約半数いたから。
 けど、成長するにつれて……特に、大人になっていく過程の中で……蕾は花となって咲き、散っていく。理由を語る人はほとんどいない。だからきっと、表立って話題にするのははばかられるんだろうなと、漠然と思ってた。いつか俺もこの蕾が咲いて、大人になっていくんだろうなって。
 たまに、蕾のまま大人になった人も見かけたけれど。全体から見ればごく少数だったし、どうして咲いていないのかさえ周囲の大人たちは口にしようとしなかった。だから俺もそれに倣って、気にしないようにした。
 ちなみにこの蕾、むしり取ろうとしても絶対取れない。咲かせて散らせないと、『ついてる』側の人間にはつきっぱなしだ。ちなみに幼馴染の岩ちゃんの頭にはついてなかった。いつ咲くんだろうな〜って子供心に不思議がって、面白がって、時には引っ張ってみて。けど、無理矢理に開かせようとしたことは一度もない。硬く閉ざされいて、どこか神々しささえ感じる薄紅色の蕾は、自らの意志を持ち自らの意思によってのみ花開く瞬間を待ち望んでいるかのように見えたから。
 そう、小さい頃は純粋だったんだ、俺もね。
 でもある日、見ちゃったんだ。
『どうやったら、蕾が花開く』のかを。

 その日、岩ちゃんは珍しく学校を休んでいたから、一人で家路を歩いていた。いつもの曲がり角、いつもの散歩道、いつもの公園。そのはずだった。帰り道にトイレに行きたくなったりしなかったら、普段は使わない公園のトイレに寄ったりしなかった。
 用を足して手洗い場で手を洗って、ハンカチで手を拭き拭きトイレから出てみたら……何の変哲もないはずの草むらの奥から、人の声が聞こえて来たような気がしたんだ。くぐもった人の声。よくわからないままに、声の正体が知りたくて、好奇心で近づいて行ったんだ。
 近づいてみても、なんて言ってるのかはわからない。けど、植え込みの隙間から覗き見は出来た。だから俺は、ついうっかり、植え込みの奥を見てしまったんだ。
 男の人と女の人が、裸で何かをしていた。よくよく見てみたら、女の人のあそこに、男の人のアレが、刺さってるっていうか入ってるっていうか、そんな感じになってて……女の人の頭についていた百合の花が満開になって、かぐわしい香りを漂わせながら花びらを落としてる最中だった。
 そう、だったんだ。子供が見ちゃいけないようなことをしたら、蕾は咲いてその花びらを散らせるんだ。
 こわい。こわい。こわいよ岩ちゃん。俺もいつか、誰かとああいうことをしなくちゃいけないの?
 その公園からどうやって家まで帰ったのかよく覚えてない。見つかったらよくないとか考えてる余裕なんかなくて、思いっきり走って帰ったんだろうけど、どこをどう走ったのかわかんない。お家に帰るなりお母ちゃんに抱きついて甘えて、怖いもの見ちゃったってわんわん泣いて。大丈夫よとおる、って何度も頭を撫でてもらってやっと泣き止んで、でも何を見ちゃったのかは言えなくて。
 忌まわしい事実を知ってしまった罰だと思った。

 そんな俺を救ったのは、バレーボールとの出会いだった。すぐに俺を夢中にさせて、友達の一人の岩ちゃんも一緒に始めてくれて、二人で沢山練習した。いつの間にか公園での一件は過去の事として記憶の底の方に封印されていて、実に健やかに俺は育つことが出来た。蕾は少しずつ柔らかくなってきていて、いつ咲くのかを再び楽しみに出来るようになってきていた。
 中学に上がって、バレー部に入って。本格的な指導を受けて自分が上達していく喜びを噛みしめながら出た、一年生限定の公式戦で。背すじがざわつく奴を、一人見つけた。
 圧倒的だった。同じ一年とは思えないくらいに、巧くて、パワーもあって、迫力もあって。俺たちだって弱くはなかったはずなのに、こてんぱんにのされた。試合を終えて帰ろうとしたときに、俺だけそいつに呼び止められて。そこの桜の蕾、止まれ、だって。ひどい言いぐさだよね、いくら名前を知らないからってさ。
 でも俺は律儀に、ちゃんと足を止めてやったよ。
「及川徹。桜の蕾なんて名前じゃない」
「そうか。俺は牛島。牛島若利」
「知ってる。有名だろ、怪童、だっけ? 異名で呼ばれてさ」
「呼び名が変わったところで、俺のすべきことは変わらない」
 そうですか。
「あっそ。で、どうして俺を呼び止め──」
 ん。
 むにゅり、と柔らかい感触が、唇に。
 牛島の、強烈なスパイクを生み出す左腕が、俺の背中に回されてて。
 なんだ、これ。なんで牛島の顔が至近距離にあるわけ。なんで牛島の右手が、俺の後頭部を支えてるわけ。
 なんで。どうして。
 これじゃあ、まるで──
 『あの光景』が、フラッシュバックする。
「──っ、やだ!」
 両手で牛島を突き飛ばす。あの時の光景が、あの時の肌と肌との触れ合いが、脳裏に蘇る。
 知らない間に頬が濡れていた。視界も潤む。顔も耳も熱い。熱が、全身を侵していく。へなへなとその場に崩れ落ちて、床に手をつき、俺は涙を零していた。気が付いた経緯は、床にいくつも滴が滴り落ちていた事実からの、婉曲だった。
 急に泣き出した俺を牛島は扱いあぐねるかと思ったけれど、そうじゃなかった。着ていたジャージを頭から被せられ、抱き寄せられて。
「大丈夫だ、大丈夫だ及川」
 ひたすらに、宥められた。
 パニックを起こしかけた元凶に、よりにもよって慰められるだなんてこと、あるんだ。恥も外聞もなく俺は泣き続け、その間中ずっと牛島は俺を宥めてくれていた。
 俺が泣き止んだ時には、そっとジャージのヴェールを持ち上げてくれて。
「もう、『俺』は怖くはないか?」
 確かめてくれた。本当はこっちが被害者だったのに、人間の心理って不思議なものだね。牛島を見ても、もうあの忌まわしい記憶は蘇らない。
「……うん」
「そうか、良かった。これでお前と、今後も戦えるな」
「……フン。次会った時に痛い目見るのはそっちなんだからね!」
「そこまで言えるようならもう心配はないな」
 もう一度、唇が重なる。今度はフラッシュバックも起きない。一人の人間の、温もりが唇から伝わってくる。何分くらいそうしていただろうか。不意に牛島が口を僅かに開いて、舌で俺の唇を舐めた。一瞬身を固くしたけれど、すぐにその舌は引っ込んだ。
「……まだ、早いか」
 そういえば、家族以外とのキスは、初めてだった。でも、ショックじゃないし、どっちかっていうとドキドキしてる。変なの。……男同士なのにね?
「……ねえ、『ウシワカ』ちゃん」
「…………その呼び方はどうにかならんのか」
「いいでしょ、別に。……今日の事、皆にはナイショにして」
「勿論だ。……いずれその蕾は、俺の手で咲かせてみせる」
「え?」
「聞こえなかったならいい」
 そういって牛島改めウシワカちゃんは、ジャージを俺の頭から奪い取ってその場を去った。
 俺はまだその時幼くて、自分の胸の高鳴りの正体に気付かずにいたんだ。

 次の大会も、その次の大会も。白鳥沢と当たったら必ず負けて、ウシワカちゃんはその度に俺に熱視線を送る。
 毎回同じようなことをしてくるもんだから、思い切って聞いてみたんだ。
「ねえ、どうして俺ばっか見てくるの?」
 大会が終わり、お互いに帰り支度で忙しい僅かな時間の隙を縫って、呼び出し問い質してみたんだ。
 そうしたら、だよ。
「お前の蕾は俺の手で咲かせると決めたからな」
 ぐい。胸のあたりを、ご自慢の強い力で押される。
「おい、なんで押してくるんだよ」
「文句を言いたいのは俺の方だ。こういう時は大人しく押し倒される方が自然だろうが」
「やれるもんなら……やってみろ!」
 言った瞬間、世界がぐるりと回転した。
 ご丁寧に、頭を打たないように、後頭部を支えながら牛島は俺を押し倒したのだ。
「これなら満足か」
 ……納得いかないけど。納得したことにしてやる。また、自然と顔が近づいてきて……あ、キスされた。二度目も牛島か。落ち着くっていうか、安心するっていうか……気付けば、自分からも唇を食みにいっていた。それに気をよくしたのか、開いた口の隙間から牛島の舌が侵入していた。服の中にも手を突っ込まれ、腹やら胸やらをまさぐられている。
「あ、え……?」
 何が何やら。手は温かくて少し硬くて、でも……どうして、嫌じゃないんだろう。乳首を弾かれた時に、おちんちんが……ぴく、ってして。それにも気が付いたのか、ハーフパンツの上から掌で擦られる。気持ちいい理由が、全然わかんない。
 …………?
 唇が離れた。ハーフパンツも、その下も、ずらされて脱がされて。牛島の口は、俺のおちんちんをくわえた。
「やっ、そんなとこ、汚いって……!」
 ちゅぷっ。ちゅぱっ。
 相変わらずろくに人の言うことを聞いてない。気のせいか、おちんちんが少し大きくなってきてるような気がする。なにこれ、しらない、わかんない!
「な、なにこれ、こわい……っ!」
 一旦口を離してくれたけど、一言だけ言って、またおちんちんを口で可愛がり始める牛島。
「怖くなどない」
 また少し、おちんちんが膨らんでいく。膨らんで、何かが出そうになって、俺は無意識に牛島の頭を両手で掴んでいた。
「んっ、んっんっ、だめぇ……何か出ちゃう、でちゃう……!」
 我慢するのがつらい。くるしい。泣きたくなる。
 内腿がぴくぴくして、体の奥から何かが飛び出しそうになってる。剥き出しの太腿を撫でられて力が抜けた、その瞬間。
 ぴゅるっ。ぴゅっ、ぴゅううっ。
 ものすごい気持ちよさと一緒に、何かが体の中から出ていく。それを牛島は吸い上げ、先っぽを舐めてくれてる。
「んっ、あ、あ、あああ……あ、ふぅ……」
 なかなか気持ちいいのが収まらなくて、しばらく牛島の口の中で俺は可愛がってもらってた。ころころと転がされて、ぬるぬるを綺麗にしてもらって、とどめとばかりにタオルで拭いてもらって。
 口を離してもらった時には、とってもすっきりしていたんだ。
 そ、その後から……定期的に、白鳥沢の寮の中に忍び込んだりなんか、してないんだから! 遊びに行ってあげてただけなんだからね!
 
 大会の度に顔を合わせていたけれど、中学最後の大会の時だけはいつもと違った。それまで俺たちにずっとストレート勝ちしかしていなかった牛島が、1セット落としたのが余程ショックだったんだろうか。それまでも遊びに行くたびに何度もお尻の孔を弄られてたけど……その日は初めて、指を三本も、入れられたんだ。ストレス発散なのかなと思って、最初は大して気にしてなかった。痛くなかったし。
 けど、痛くないのか、って問いかけに、素直に答えちゃいけなかったのかもしれない。
 うん、って。
 そうしたら……牛島は俺の中から指を抜いて、ポケットから保健の授業で一回しか見せてもらったことのない、コンドームを取り出して、自分のおちんちんに着け始めたんだ。俺のよりも大きくて、血管とか浮いてて、ちょっと怖かった。
「怖いか、及川」
「……うん」
「怖くても……いや、及川に怖がられても、今更俺はお前を諦めたくない」
 よくわからないことを言いながら、牛島は……俺の体の中に、すっかり大きくなったおちんちんを……ぐいっ、と入れてきた。
「あっ、やぁんっ!」
 ここがどこだとか、見つかったらなんて言い訳すればいいのかなんて、全然考えられなかった。あんなにおっきいものが俺の中に入ってる。しかも結構、いや、かなり気持ちいい。ふちのところをくすぐられてるだけなのに、俺のおちんちんは精液を吐き出してる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……きもち、いいよぉ」
 勢いが良すぎて、自分で出した精液が胸まで飛んで、白く汚れる。それを牛島は指で拭って、ぺろって舐めて。奥に入れられるたびに、ぴゅるっ、ぴゅぴゅっ、って……いっぱい俺は、出しちゃって。
 あとはもうおしっこしか出せない、ってなった時に、不意に頭の先の方がむずむずして。ぱあっ、と咲いたんだ。
「え!?」
「……やっと、咲いてくれたか」
「や、その、なんで!? なんで、咲いたの!?」
「? ……俺はお前のことが好きだし、お前も俺が好きだろう? だからだ」
 そ、そういうからくりなの?
 でも現に、俺の桜は満開で、花びらの色もとっても綺麗で。
「ところで……俺もそろそろ限界だ。加減なしで動くぞ」
「え、ちょっと待……ああんっ!!」
 そこからの記憶は朧気にしか残ってない。
 何度も体勢を変えながら牛島は俺の体の中を思う存分に行き来して、桜の花びらが散り始めた時にやっと、俺の中で精液を出したんだ。コンドームは途中で外れちゃってたみたいで、俺の中はとろとろのぐちゃぐちゃ。
 拭くのに使ったタオルはかわいそうになるくらいにカピカピになっちゃうし、最中ずっとおしっこを我慢してた俺は大急ぎで身支度を整えてトイレに駆け込まざるを得なかったり。
 とにかく、俺の初体験はそんな感じ。咲かせ方を何となく知ってた岩ちゃんには、次の日会った時に仰天されたけど……好きになっちゃったものは、仕方ないよね?

 というわけで、学費の事もあるし、白鳥沢学園から来た推薦は受理しました。この春から、及川徹は、寮生活を始めます。大好きで大好きでたまらない、牛島若利と一緒の部屋でね!

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