【影及・治侑】双頭蛇

「あ」
「お」
それは単なる、偶然の邂逅から始まった。

話では聞いたことがあった。
ユースの合宿で一緒になったセッター。
及川は、影山からそう端的な情報を与えられたにすぎない。
だが目の前の男はべらべらと、自分自身に関する話をまくしたててばかりいる。
だから、知るつもりもなかった、血のつながった双子の兄弟との肉体関係まで詳らかに情報を得てしまっている。
及川は完全に、宮侑に対しては、聞き役に徹していた。
「で、そちらさんは、どないなっとります?」
急に話を振られて、咄嗟に言葉が出なかったのも、無理はないと及川は思っていた。
知りたくもなかった宮侑の性交渉事情。片割れの治に自分を抱かせている間柄で、それはどのような意味を持つのかも及川は何となく思い当たる節があった。
だから、相手は伏せて、差し障りのないと思われる範囲で話してしまったのだ。
「ふぅん」
興味があるのかないのか、相手に読ませない不可思議な返事をした侑は、なら行きましょか、と及川の手を引いて繁華街の細道へと入っていく。
形ばかりの窓が設けられ、防音とベッドと風呂にばかり予算が割かれている──ラブホテルへと、及川は侑の手によって連れ込まれた。
「せいぜい飛雄くんにバレない程度に、遊んで帰りましょか」
既に影山が侑に対して、及川との性的な関係を暴露していたとは知らずに、及川は手の内を明かしてしまっていたのだ。

「で、どっちも突っ込む方じゃないんだろ……何して帰るつもりなんだよ」
男二人でも余裕をもって足を伸ばして浸かっていられる湯船の中で、及川は侑へと問う。
「及川さん、部屋よう見ぃひんかったん? おもろいモンがあったんですわ、これが」
よいせ、と湯船の中から侑が手を伸ばし、洗い場の床に置かれていた何かを及川の目の前に差し出す。
及川の言葉で形容するならば、『妙に太いミミズ』。双頭の形状をした玩具など影山は知りもしないだろうし使う気もなかったであろうから、及川がその存在と接点がなくとも仕方のない話であったが。
「飛雄くんはもうこれでもかってくらいにピュアですやん、及川さんに教えたろと思いまして」
玩具を持ったまま、最低限体を拭いた侑が浴室を出ていく。
及川も腑には落ちなかったが、後を追いかけた。

それが及川にとっての悪夢の序章であった。

「はーい及川さん、力抜いてー、深呼吸してー」
どうしてベッドに押し倒されて、恋人のものでもない玩具を菊花に押し込まれているのか。
及川は盛大に混乱していた。
「は……っ、なん……で……!」
それでも日々の性交で慣らされた肉体は挿入に対してとことん従順で、ずぶずぶと細いとは言えない襞付きの双頭蛇の片割れを呑み込んでいく。
「はっや、どんだけ普段飛雄くんに抱かせてるんです、羨ましいですわぁ」
どうやら及川の側の方が太くなっていたらしく、侑の方は解きほぐした蕾にもう一方をあてがい、するりと体内へと埋め込んでいく。
「どの……口が、言うんだ……あっさり、入ったの、そっちだろうが」
「そうですぅ?」
いちいち語尾の上がるイントネーションにはなかなか慣れない。
ついでに言うと、自在に角度を変えられる双頭蛇を体内に含んでいる比率が、どう考えても自分の方が大きいように感じられてならない。
及川は、徐々に余裕を失っていった。
「あ、やだ、とびおたすけて……っ!」
「なんでです?」
「やだ、これ……っ! きもちいいけど、いや……っ!」
「強情ですなぁ、飛雄くんのカノジョさんは」
息抜きと思って楽しんでいけばええのに。
そう囁いた侑の瞳孔が、縦にすぅと細められたような気がした及川は、無闇に抵抗するのをやめた。
「や……っ、いや……っ、そこだめぇ!」
ぱちゅ、くちゅ、とどちらのものとも知れない水音が、蛇の頭からひっきりなしに生まれていく。
「よう、やく……本気に、なってきましたなぁ……っ!」
完全に侑が主導権を握っていて、及川はそれに振り回されるばかりで。
「や、やだやだやだ、とびお、いっちゃ、う……あ、あぅ……やぁ……んん……」
ぴゅっ。
ぴゅくっ。
ぴゅうっ。
ぴゅうううう……しゃああああ……。
しばらくして、及川の何物ともつかない放出が終わった。
恍惚とした及川とは対照的に、唖然としている侑。
「……あ、ごめ……俺、イくと色々……その……出ちゃう、んだ……」
「……はぁ。なんか、飛雄くんが及川さんに入れ込む理由が、何となくわかったような気ぃしました」
うわびしょびしょ、どないしよ、と本気で困っている様子の侑を尻目に、せいぜい今のうちに悩んどけ、お前の相方は存外嫉妬深そうだぞ、と胸中で及川はつぶやくのであった。

数日後の夜。
「や、待て、治待て待て、待てったら待て!」
「待つか」
利尿剤入りのお茶とペット用トイレシートを手に持ち侑に迫る治と。

「も、もうだめとびお、もう他の人の前で漏らしたりしないからコレ抜いて……!」
「ダメです及川さん、俺以外の前で漏らしたなんて許せません」
及川の性器に綿棒を突き立て栓をして利尿剤プレイに勤しむ影山と。
両者はどこか、似通った部分があるのかもしれない。

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