【牛及】踏みつける

しとしとと、雨が降る。今宵の月を隠し、厚い雨雲が空一面を覆って。
星の光の届かない夜は、人の心を魔性へと堕とし、思いもよらぬ行動を取らせることがある。
そんな夜が、訪れていた。

牛島は、ベッドの上で目を覚ました。横たわっていたのではない。座らされている。
後ろ手に手首を手錠で拘束され、上半身を露わにされて。
ご丁寧に、猿轡まで噛ませられている。
声を上げることさえ、拘束の主は気に召さなかったらしい。
幸いにして視覚も聴覚も奪われてはいなかったから、暗い部屋の隅々まで目を凝らし、耳を澄ませた。
すると、背の高い人影が一人分、闇の中から浮かび上がって来た。
「へえ、お早いお目覚めで」
牛島には、その声の主に覚えがあった。
だが『こう』される謂れがとんと思いつかなかった。
声の主の名は、及川徹。
牛島と、恋仲にある人物だった。

「お前、今日の買い物で街歩いてた時、一体誰見てた」
その声はいたく不機嫌だった。自分の無意識の行いが及川の気分を害し、このような行動を取らせたことは明白だった。
「言えるわけ、ないよなぁ? 俺以外の奴に、一瞬でも目を奪われました、なんて」
背を壁に預けていた及川が直立し、おもむろに牛島に歩み寄る。
「違う、誤解だ、俺はお前しか見ていない、なんてありきたりな言い訳なんか聞く気はないんだよ、こっちは」
及川の長い脚が、牛島の胸を強く押す。踏んでいる、と言っていいだろう。
「お前は俺だけ見てろ」
及川の足が、牛島の胸元から臍へと降りていく。
「余所見なんか赦さない」
さらに及川の足は、牛島の下腹部へ近づいていく。
すう、と足の指先で器用に、牛島自身の輪郭をなぞり、そして。
やんわりと、体重をかけた。
わずかに呻く牛島。
及川はその、漏れたうめき声を聴き、満足げに口角を上げた。
「俺に心底惚れてるって告白してきたのは、どこのどいつだったか?」
ぐい。
更に体重をかけていく。
「抱きたくて抱きたくてたまらなくって、俺の体をほぼ同意なしに拓いたのは誰だったか?」
ぐっ。
反発力が生じたのを指先で感じ取った及川は、にんまりと笑み、続けた。
「こんなんでも、硬くするのかよ。変態」
牛島の下半身の着衣を寛げると、すっかり挿入の準備の整った陰茎が今か今かと待ちわびて、飛び出してくる。
「こうも手の付けられない奴は……」
侮蔑と高揚、両方が混在した及川は、牛島に鞭と飴の両方をくれてやることにした。
「俺が直々に相手をしてやるより、他ないじゃないか」


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