【牛及】奪い合いの主導権

いつもの牛島邸の夜、いつもの寝室にて。
余裕綽々に体を横たえた牛島が、隣に及川が飛び込んでくるのを待っていた。
だがその日の夜は、何かが違っていた。
隣に飛び込み牛島の胸に顔を埋めて甘えるのではない。仰向けに横たわっている牛島に馬乗りになり、にやりと及川は笑んだ。
「今日はお前がとびきり気持ちいいセックスさせてやるから、ゴムはなし、な」
そう口にした及川はいつものサイドテーブルからお馴染みの小箱を取り出し、左手で掴んだそれを躊躇なく背後に投げ捨てた。
そして少しばかり後ずさりし、ちょうど牛島の股間あたりに頭が来るような位置で膝を止め、確認のような一言を吐いた。
「このまま舐めてもいいだろ?」
伺いを立てている言葉ではない。相手が自分に服従しているか、服従する意思を持っているかを確かめるための儀式だ。特に答えを返さなかった牛島の様子を是と取った及川は、容赦なく牛島のスラックスのファスナーを引き下ろし、下着を寛げる。
中から牛島の逸物を取り出して竿を捧げ持ち舌を鈴口へと這わせれば、荒い吐息が及川のつむじを掠めた。
そのままベルトも外し、腿のあたりまで下着ごと下ろしてしまえば、及川の自由になる。
「このままだと、俺が犯されるみたいだな?」
どこか牛島も愉快げだ。普段と逆だな、と僅かに相好も崩している。そんな牛島に気を良くした及川が、こんなことを言い出した。
「お前がその気なら、今日は俺が頑張ってやろうか?」
すっかり勃ち上がったモノを器用に扱きながら、及川が囁く。
「抱かれるときにどこをどう弄られたら気持ちいいのか、お前のお陰でこっちは知り尽くしてんだからさ」
耳朶をぴちゃりと音を立てて舐め、その舌は徐々に下へと向かい始める。鼻先から唇へと辿ったそれは、歯列をなぞり、口中を嬲っていいかをしきりに尋ねている。
その間も及川の手は止まっていない。牛島の先端からカウパーが垂れ、及川の手を汚す。
「イってもいいよ、『ウシワカ』ちゃん」
そう。途中までは、牛島は及川の支配下にあった。
しかし、及川の攻勢は長くは持たなかった。
「及川」
及川の両の手首を引っ掴んだ牛島が、馬乗りになっていた及川の体を反転させる。
「今日のお前は、調子に乗りすぎだ」
先ほどまでと体勢を真逆にされた及川が、馬乗りになった牛島の腹の下でしおらしくしている。
腿まで露わになっている牛島とは対照的にまだ何も着衣を乱していない及川のシャツのボタンを、ひとつひとつ丁寧に牛島は外していく。
そんな行為に及川は一切の抵抗をしていない。及川の両手はとっくに解放されているにも関わらず、だ。
最終的には主導権を握るのは牛島。昔から変わらない、二人の間の予定調和が今日も起きていた。
及川の着衣を解くことなど、牛島にとっては容易い事だった。ベルトを緩めるのも、スラックスごと下着を脱がせるのも、お手の物だった。万一のために靴下も脱がせて、準備万端整った時には及川も多少『復活』して、もう一度牛島を押し倒しにかかっていた。
「さぁて、準備してくれてありがと……『ウシワカ』ちゃん」
及川は、今日こそ牛島の菊座を解きほぐし、日頃の自分と同じ目に遭わせてやるつもりでいた。
一方の牛島は、今日は騎乗位の気分なのか、くらいの認識でいた。
この余裕の差が、二人の命運を分けたのかもしれなかった。
どう『料理』してやろうか、と及川が舌なめずりをしていた頃。
舐めた指を二本、及川の菊座に捩じ込んだ牛島が、及川から主導権を奪い取りつつあった。
「こ、こら……っ、何してんだ……!」
「準備だが」
「それ、俺がお前にする準備で……っ、ぁ、そこ……っ!」
及川の陥落は早かった。
あっという間に及川の泣き所を探り当てた牛島は、及川の体から力が抜けるタイミングを見計らって指を引き抜き、代わりに両手で腰を掴んだ。
そして、慣れた徒花目がけて、一息に突き入れた。
「ん、ああ……っ! 悪趣味、だろ……っ!」
シャツのみを肩にひっかけているだけの格好にされた及川は、牛島の腰を跨ぐような体勢を取らされ、そのまま情熱に踊らされた。
平たく言ってしまおう。挿入されるところまではかろうじて握っていた主導権を完全に失い、体が繋がるなり勝手に動かれたのだ。
爪弾かれる旋律はあくまでも優美で、そんなところにまでも余裕を感じ取ってしまうのが憎らしくもあり、だからといって自力で動いてみようにもひとたび快楽の奔流に流されてしまえば態勢を立て直すことなど不可能で。
薄い膜という邪魔者のないセックスは本当に久しぶりで、そういった意味でも及川には牛島ほどの余裕もなく、牛島の好きなように揺さぶられ極めさせられ、挙句何度も中へと放たれて。
せっかく自分が主導権を握りやすい騎乗位を選んだにも関わらず、その意味を自分から手放し、あまつさえ快楽に溺れさせられ夢中になってしまったのは及川自身の方で。
事が終わり、せめて後始末だけでもと起き上がると、体内から牛島のやや薄い精液がとろりと溢れ出てきて、恥ずかしさに再び牛島の胸に突っ伏す及川。体力も使い果たした及川の頭を愛おしげに牛島が何度も撫でていたのだが、今日も多少の脱線があったとはいえ結局は元の道へと戻ってくるあたりが、二人の王道であり定石であった。

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