【牛及】お酒に呑まれた及川さんの話

俵のように担がれて牛島にお持ち帰りされている及川は、酔いつぶれて正体なく眠りこけていた。
眠りこけていたはずだった。
それがどうしたことか、牛島宅の玄関をくぐるなり、ぱちりと目を開けたではないか。
「……あれ?ここどこ?」
ふわふわした思考のまま、思いつきのままに及川が尋ねる。
「俺の家だが」
素面の及川ならば間違えるはずのない、牛島の声が発せられた。
しかし、及川は。
「そっかー、いわちゃんちかぁ」
盛大に勘違いをしているようだった。
「いわちゃんならぁ」
とさっ。
三和土から二歩ほど進んだところに、及川が腰を下ろす。
「おれのこと、すきにしてもいいよ?」
にへら、と相好を崩し、満面の笑みを浮かべる。
岩泉なら、という条件付きで、与えられる全権。
それが牛島の、逆鱗に触れた。
「なぁんてね、いっかい、いってみたかったんだ──」
沸点の低いわけではない牛島が腹を立てる理由はただ一つ。

牛島若利は、及川徹に懸想していた。
それも、盛大に。




及川徹は再び、俵のように担がれていた。
行先はただ一つ。
牛島家の寝室だ。
主の巨体を埋めて尚余裕を残すよう、苦心して搬入したキングサイズのベッドがそこに鎮座している。
まだ事態を呑み込めていない及川をベッドの上に下ろし、裸でも体が冷えないよう空調を整え、肌を露わにしていく。
そこでようやく、及川は自分の身に何が起きているのかに、気付き始めたように思われた、のだが……。
「いわちゃ?」
再び、及川は誤解をしてしまい。
二度、逆鱗に触れた。

「ま、まって、いわちゃんはこんなことしないし! だれなの!?」
たくし上げられた服で両腕の自由を奪われた及川は、半狂乱になりつつ牛島への抵抗を重ねた。
しかしそこは、酔っ払いと素面。腕にこめることが出来る力がまるで違う。
なす術なく全裸にされた及川は、一般家庭にあるはずのない頑丈な手錠で両手首をベッドヘッドに拘束され、哀れにも両足まで開かされている。
目隠しのおまけつきで、だ。
無我夢中で抵抗を続ける及川だったが、何せ狙いが定まらず、相手を蹴とばそうと足を動かしても空を切るばかり。
及川は知る由もなかったが、及川の抵抗を躱しながらも、牛島は服を全部脱いでいた。
いつの間にか肌に触れてくる感触が変化したことに及川も気付き、顔色が悪くなっていく。
「ね、ねえ……誰、なの……」
牛島は答えない。
答える代わりに、及川の菊座にローションをぶちまけた。
「っ、な、なに、やだぬるぬるする……っ!」
薄手のフェイスタオルを猿轡にし、牛島は及川から言葉も奪い取る。
及川がうめき声しか上げられなくなったのをいいことに、牛島は侵略を開始した。
以前買い求めた指用のコンドームを利き手の指に装着し、手始めにと一本を強引に及川の中へと埋め込んでいく。
ぐっ、と力を籠めれば割とあっさり嵌まったものだから、牛島はひとつの勘違いをした。
及川は、誰かと『ここ』を使った性交渉を経験している、と。
抵抗のために及川が力を入れていたせいで逆にあっさりと入り込めてしまっていたのだが、牛島はそうとは知らずに、見知らぬ何者かに強烈な嫉妬心を抱いた。
そして、自分ではない誰かに勝手に身を許した、及川の不貞──及川は牛島のものでも何でもないのだが、牛島は及川を占有する気でいたという意味では不貞とも言えるだろう──を憎んだ。
そこからの牛島は容赦を知らなかった。二本、三本と指を増やし、呼吸をするのが精一杯の及川の体内を蹂躙し、弄虐の限りを尽くした。
環状に膨れている箇所を敢えて指先でぐりぐりと刺激しては随喜の涙を流させて、弛緩しつつあった及川の花蕾から指を引き抜き、代わりに反り返った自身をあてがった。
何をされるのか、聡い及川はとっくに気付いている。しかし、彼は抵抗する手段を奪われて久しい。
言ってしまえば、まな板の上のコイだ。
かぶりを振って何事かを必死に訴えかけようとする及川を無視して、牛島は下半身にぶら下げた長刀を一思いに及川の中へと突き刺した。
痛みさえ覚えるほどの締め付けを堪能し、ああそういえば何もつけていなかったな、と思い出した頃には、とうに引き返すことなどできない領域に足を踏み入れていた。

猿轡を外し、目隠しも取ってやると、牛島の顔を見た及川は突如として泣き出した。
「う、ふぇ……うしわかちゃんの、ばかぁ……っ」
ひっく、ひっく、としゃくりあげながら、及川は尚も続ける。
「おれが、どんなにこわかったか、ぜんぜんかんがえなかったでしょ……」
しってたら、もっと、ちゃんと。
及川が言い終える前に、牛島は及川の唇に自身のそれを重ねた。
歯列をなぞる舌にどうして及川が応じたのか、及川の真意を知る三分前の出来事であった。

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