【モブ及】菓子折りおじさんといっしょ

「その人、荷物多いから触るの無理ですよ」
 気の強い、けれど底意地の悪そうな、目鼻立ちはそこそこ整っているだけにもったいない顔つきの女の子の傍に、偶然その人は立っていた。勢いに任せて物事を推し進める年を通り越して、酸いと甘いを噛み締められる、そんな人。
 両手に四つの紙袋をぶら下げて、何とかして吊革につかまろうとした時に、言いがかりをつけられるだなんて不運な。父親よりはおそらく若い、仕事に自分自身を捧げても悔いのない、悪いことには考えの及びそうもない人が、痴漢する必要なんかないだろう。
 何か触れたとしてもきっと、手に提げた袋のうちのどれかですよ。
 そう追い打ちをかけたら、特にお咎めもなく、駅の構内で当事者含めて解散していて。余計な時間を使っちゃったから急がないと、って俺も走り出そうとしたら。紙袋まみれのあの人が、切羽詰まった声で俺を呼び止めた。
 是非お礼をしたいからって頭を下げられて、仕方なしに学校名と所在地だけ教えたら、次の週に本当にその人はやってきた。
 教室で授業を受けてたら校長室に呼び出されて、何をしでかしたのかとはやしたてるクラスメイトを適当にあしらい、本物の革が張られたソファの置いてある校長室の前まで来たら。部屋の中から扉が開かれて、電車の中ではさえないおじさんだったはずの人が、きらきらした笑顔で俺を出迎えた。
 にこにこしている校長先生と、同じくにこにこしているおじさんと。応接セットのテーブルを間に挟んで腰かけた俺は、目の前にある化粧箱に若干引きつつ、よそ行きの笑みを口元に張り付けた。
 中身は偶然にも、俺の指折りの好物と一致していた。
 教室にその箱ごと持ち帰ったらやっぱりからかわれて、やっと授業の続きに戻れると思ったら帰り際にそのおじさんがわざわざ教室にあいさつに来たからまた騒ぎを蒸し返されるしで、何となく散々な目にあった。
 化粧箱の中に手紙が入っていたと気づいたのは、中身をおいしく食べ終わってから何日か経ってから。縦書きの便箋に書かれた、多分達筆な文字が示していたのは、おじさんの連絡先。時間の都合のいい時にでもと、学校の近くにある焼き立てパンと軽食のおいしいお店の名前も書いてあった。
 部活帰りに、閉店時間の近づくそのお店の前を横切ったら、おじさんは本当にお店の中にいた。約束もしてないのに、外に立ってる俺に気づいて、手招きして隣の席を指差して。やっぱり今日も、嬉しそう。つられて俺の口元も、やわらかい曲線を描く。
 あったかいココアと、夕方に少しだけ焼いたって話のクロワッサンをおごってもらって、その日はおじさんを駅で見送った。
 今度は痴漢と間違われないようにって、軽口も忘れずに。次の週も遅くなった日にあのお店の前を通ったら、やっぱりおじさんがいた。
 同じようなことを五、六回繰り返したあたりで、俺は自分の名前と連絡先を教えた。俺の何をそんなに気に入ったのか、おじさんはとても喜んでいて、まとまって時間の取れる日にもう少しちゃんとしたものを一緒に食べよう、なんて誘ってもくれた。
 小遣いで買い求めるものとも、ちょっと奮発して食卓に登場いただいたものとも、一線を画した手間のかかった料理。文句なしにおいしかった。テーブルマナーがどうのとうるさいことも言われないのに、こんなにおいしいものが食べられるなんて。俺は浮かれていた。
 部活のオフに合わせて、おじさんとおいしいものを食べる。正しくは、ご馳走してもらう。習慣として定着してきた頃、おじさんが持論を話してくれたことがある。
 手間暇をかけることで月並みな食材も大いに化ける、だから素材が同ので片づけてしまうのはもったいない。俺たちのバレーとも通じるものがあって、年が離れていたけれど、親近感を感じたんだ。
 体育館の整備で、二日連続で部活がなかった日。ホテルの最上層にある、景観も申し分なければ料理にも難癖のつけようのない、未成年にはもったいないお店に連れてきてもらった。お酒にはあまり強くないって話のおじさんが、その日は珍しく一杯のワインを注文していた。俺の前では一度もアルコールに手を出さなかったから、意外と言えば意外だった。
 ほろ酔いの上機嫌なおじさんは、いつもよりずっと子供っぽい印象になって、すっかり砕けた口調でお喋りを始めた。料理がワインとよく合うと聞いたから頼んでみたものの飲みなれないから違いがよくわからなくて惜しいことをしたとか、酔いの回った目でしか見られない夜景の宝石箱をそのままとっておけたらとか、あちこちに話が飛んでいくのがただ面白かった。
 帰れなくなった時のためにって、おじさんは自分用の部屋をあらかじめホテルに予約しておいたと聞かされて、そこまでして大人はお酒が飲みたいものなのかな、って不思議になった。危なっかしい足取りのおじさんを支えて部屋にたどり着いたら、ネクタイもベルトも緩めたおじさんは、整えられたベッドの上に体を投げ出したきり、大の字になって動こうとしない。
 ベッドの下に落ちたスーツのジャケットをハンガーにかけてから、酔っ払いにはお水だったっけ、とコップに水を注いで持っていくと、最後の力を振り絞って靴と靴下を脱いだおじさんの足が見えた。
 だから、ちょっといたずらをしてみようかと、魔が差したんだ。
 俺が渡したコップの水をあっという間に空にして、おじさんの体はもう一度ベッドに沈んだ。血の巡りが良くなっているからか、スラックスの上からでも、そこが膨らんできているのが見える。掌をあてて上下に軽く擦ったら、柔らかかった中に芯が入り始めた。
 下着の中ですっかり窮屈そうに形を浮き上がらせていたから、ずらして直に触ってみると、思いのほか熱くて大きくなってた。自分にも同じような形のものがついてるのに、抵抗感もなかった。支えなくても空を仰ぐ角度を保つようになって、指先でくりくりと先端をいじって遊んでいると、おじさんがゆっくり体を起こした。
「とおる」
 俺の名前を呼ぶ声が、いつもよりずっと甘い。たった一度名前を呼ばれただけで、色々なことがどうでもよくなってきた。腿を開いてベッドに座り直したら、生まれた隙間におじさんの手が這う。かたちに沿って指でなぞられて、もどかしさに腰が勝手に揺れた。
 しっかり気持ちよくなりたい、それしか頭の中になくなって、制服を脱ぎ捨てベッドに横になった。家の煎餅蒲団とは違って、ホテルのベッドは弾力もちょうどいいし足もはみ出さない。
 汚したとしても、自分で洗わなくていい。
 汚すようなことを、思う存分にできる。
 腹につきそうなほどそり返ったものの裏側を、親指の腹で繰り返し撫でられる。すぐに溢れてきた透明な液でべたべたになって、体を捩ろうとしたら吸い付かれて、我慢なんかできそうになかった。結局全部おじさんの口の中に出しちゃって、俺からおじさんにいたずらを仕掛けてたはずが、いつの間にか逆転して、俺がおじさんにいたずらされてたんだ。
 大きく腿を開いたまま膝を曲げたら、今しがた気持ちよくしてもらったばかりのところが、おじさんかた見放題になる。誰にも見せたことなんてないところも含めて。
 俺の腹の上のぬるつきを拭った指が、そのまま足の付け根の窄まりにお伺いを立てている。そんなとこ、何に使うのかは知らないけど、意外なことにかなり心地よかった。襞になってるところも捲られたら、さっき出したばかりなのにすぐにまた出したくなって、気持ち良すぎて泣きそうになった。
 おじさんの指が、自分でも滅多に直接触らない場所の、さらに内側へと近づいてくる。擦れる感覚も強かったし、ちょっと違和感もあった。
 けど、中に埋まった指が動いた瞬間、堰を切ったように二回目の分が出始めた。
 胸どころか顎のあたりまで広く汚して、引き抜かれた指が宥めるように縁を行き来するのを感じながら、少しだけ残ってたのを扱いて吐き出していたら。おじさんが擦っていたところや俺の手に、ぬるついた生温かい体液がかけられた。おじさんの、だった。
 体の中に自分じゃないものが入って来るのは当然初めての経験で、余韻がかなり強かった。ひくん、と疼いて仕方なかったから三度目もあったし、帰る間際になってもやっぱり我慢できなくなって、結局四度目もあった。毎日時間が取れるわけじゃないしこれから困らないようにって、一人でするときに必要なものも買ってもらった。
 今まではおじさんにおいしいものを食べさせてもらってたけど、今日はおじさんに俺自身をおいしく食べられてて、これからもおいしく食べてもらうためにちょっとずつ練習していくことになったから、割と大事になってきたのかもしれないけれど。
 ええと、何が言いたかったのかっていうと。地道に練習して、一人だけ指で気持ちよくしてもらうだけじゃなくて、ちゃんとおじさんと一緒に気持ちよくなれたらいいなって思ってるってことと。えっちなこと目当てでおじさんに俺の時間を割いてたわけじゃないって、わかってもらいたいってこと。
 今のところはこのふたつ、かな。きっとこれから増えていく。
 だって俺は、おじさんの前だと、どうしても可愛くなっちゃうから。
 格好いいはずの及川さんを可愛くしちゃったんだから、その分だけ可愛がってもらわないと、拗ねるんだからね!

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