【牛及】春高決勝後の二人は(及川視点・140字縛りあり)

血反吐を吐くほど努力した。少なくともそのつもりでいた。なのに勝てなかった。よりにもよって、あいつとは違う因縁の相手に負けた。決勝で待っていたであろう、あいつのもとへはたどり着けなかった。口惜しさで唇を噛み締めていたら岩ちゃんに注意された。鬱憤は黒い炎となり身を焦がす。

決勝であいつも、結局俺と同じような思いをしたのを目の当たりにした。こんなところで負ける奴の心境なぞ、あいつは考えた事ないのかもしれない。それを今回思い知っただろうか。溜飲は少しは下がるだろうか。確かめるために俺は、試合結果が出て体育館から去ろうとした踵を返した。

私服姿の俺に、あいつは最初は気付かなかった。近づき、眼鏡を外したところで気が付いたようだった。チームメイトと共にバスで帰るところを呼び止めた俺と、いつものジャージ姿に着替えたあいつと。視線は絡んだが、言葉は交わさず。にらみ合い、のような状況が続いた。

人もまばらになっていく体育館。あいつを呼びに、正セッターの彼がお出ましになった。帰りましょう、とやや腫れた目をしていた彼は、俺の姿を見るなり目つきを変える。こんな奴に時間を割く必要なんか、と言いかけた言葉を、あいつが遮る。話がある、先に帰っていてくれ、と。

場所を移した。二人きりで思う存分話が出来るよう、ビジネスホテルの個室をわざわざ選んだのには理由がある。俺の胸の内に燻る、黒いものを晴らすためにはこういった場が必要だったからだ。隙を見てあいつをベッドへと突き飛ばし、馬乗りになる。見下ろす視点。それだけで十分、快楽を得られる。

何のつもりだ、と責めるような視線が俺に突き刺さる。そうだ、それでいい。もっと俺を見てろ。俺だけを。他の奴になんか囚われるな。お前は俺に負けた時にだけ、悔しそうな顔をすればいいんだ。そんなことをつらつらと考えていたら、あいつは口を開いた。

思わず殴りかかるところだった。言うに事欠き、何てことを。負けるならお前相手が良かった、だって?ふざけるな。俺がどんな思いで、お前を負かそうと必死に今までやってきたのか、お前は俺の十分の一も知らないくせに。目の前が真っ赤になり、次の瞬間、俺は──あいつに口づけていた。

どうしてそんなことをしたのかはわからない。それでも、あいつが困惑したのは俺にとっての十分な戦果だった。そのまま肌を暴き好き勝手してやろうかと腹に手を這わせようとしたところで──形勢が逆転した。一瞬の出来事だった。俺はあいつに組み敷かれて、あいつの背後に天井が見えていた。

その後がどうなったのか。言いたくもない。肌を暴かれたのは俺。何もかもをあいつの前に晒して、みっともなく喘いでみせたのも俺。身の深いところを穿たれ、男の証を注がれたのも俺。すべてが終わってから、体を労わられたのも、俺。鏡の中の姿には、赤い痕が点々としていた。

勝つのも、負けるのも、あいつ相手の時が一番精神が高揚する。それだけの関係だと思っていた。けれど、あいつはそれ以外にも俺に意味を見出し、含みを持っていた。俺に、特有のぬくもりを求めていた。それを、俺の同意なしに、衝動に任せて収奪した。同性相手なんてのは、意味をなさなかった。

シャワーを浴びていると、体の中からどろりと溢れ出るものがあった。自分の体が、雄としての経験を積むより先に、雌を経験した証拠だ。一人鳥肌を立てていると、背後に気配を感じた。あいつもシャワーを浴びに入って来たようだ。シャワーヘッドをひったくり、頭から俺に浴びせかけていく。

目にお湯が入りそうになって咄嗟に目を瞑れば、俺よりも少し厚みのある唇が口を吸う。まだ熱が静まらないのか、昂ったままのものが押し付けられる。抵抗を忘れさせられた俺は、いつの間にか壁に固定されていたシャワーヘッドに頭をぶつけそうになりながら、もう一度雌にされつつあった。

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