【牛及】純情を弄べ!(上の続きです)

こんばんは、皆の及川徹です。
皆の、だよ!
まだ特定の一人のモノになったわけじゃないからね!
いやちょっと危ない目には遭ったりしてるけど……そこは、ほら、ノーカンで。
一つよろしくお願いします。
さて、前回は岩ちゃんで遊ぼうとして散々な目にあったので、なるべくお触りは自重してもらう展開を狙っていこうと思います。純情な相手だったら多分この取り決め程度でいけるはず。
いけなきゃ俺が困る。
あ、でも、岩ちゃんで遊ぶの結構楽しかったしなぁ……じゃなくて、じゃなくて!
どうして今日はこんばんは、から始まったのかを説明してなかったじゃないか。
これだから岩ちゃんにドジだのグズだの言われちゃうのかな。ひどいよね、悪口。
答えは簡単。土曜の夜の今からLINEを使って、明日の午後あたりにでもデートご飯で釣り上げるターゲットを抽選するからです。
方法は至ってシンプル。
野郎どもの名前があちこちに登録されているから、上下にスクロールして止まった画面内に表示されてる範囲で一番に目に飛び込んできた男をデートご飯に誘う、ってことで。
さて、吉と出るか凶と出るか……。
脳内では雰囲気を出すために頑張ってドラムロールを流しています。
じゃん!
画面が止まりました!
果たして一番に目に飛び込んできたのは!
『岩ちゃん』
またかよ!
その下に『ウシワカ』もあったのに目が無意識に避けたんだなきっと!
岩ちゃんのすぐ上には東峰旭って存在感薄そうに申し訳なさそうに表示されてるのに……なにこれ。
あ、い、う、って男コンプリートじゃん。もうちょっとかわいい感じの女の子の名前でも登録しよう、この並びはさすがに物騒だ。俺の貞操が危ない。
特にウシワカの奴は危ない。奴は体育の柔道でも結構な腕前だって聞いてるから寝技に持ち込まれたら体格差も相まって勝てる気がしない。というかそんな事態に追い込まれた時に鼻息荒く迫られたら俺の人生が終わってしまう気がする。
今のうちにリストから消しておいた方が俺の人生のためなのかもしれない。
……でもなあ。消したら消したで、白鳥沢の連中があいつのスマホを逐一チェックして、俺がリストから削除したのを見つけて突撃してきそうだしなぁ。
どっちがましか、天秤にかけたら、一目瞭然だよねぇ……。
消さずに放置しておくのが、一番穏便に済むんだろうな……。

おっと。話が逸れに逸れた。
岩ちゃんをデートご飯に誘わなくちゃ。
この間べろちゅーされた上に授業に遅刻させられたことはまだちょっと根に持ってるけど。
カフェオレぬるくされたのはもう許してあげてるから良しとしよう。
通話、通話っと……。
「もしもぉし、いわちゃ『及川か』」
…………あれ?
岩ちゃんの、声じゃない?
大慌てで画面をタップし、相手を確認する。
『ウシワカ』
げえっ!
一段間違えてタップしてたみたいだ! 俺のドジ! これじゃあ岩ちゃんの言った通りじゃん!
俺の話一言も聞いてなかったなこいつめ!
しかもうっかりスピーカーモードに切り替えていたらしく、奴の声が思いっきり室内に響く。
『及川、明日の午後、時間はあるか』
「……へ? いきなり、何、言ってるの?」
間違い電話でした切りますとさえ言わせる間もなく、奴は勝手に俺を何かに誘う気でいるらしい。
『日頃何かとお前に渋い顔ばかりさせているから、詫びというわけでもないが、一緒に食事でも』
「行く」
あ。やっちゃった。あいつの言う食事イコール、全額あいつ持ちのただ飯が食えるだから。しかも結構いいものだから。
たまには間違えてみるもんだね、岩ちゃん…………あれ?
この話、岩ちゃんに話したら、大馬鹿扱いされた上に俺がゲンコツ食らうんじゃないかな?
……黙ってよ。

ただ飯を満喫するためにわざと朝食を軽めに済ませておいたから、待ち合わせ場所に向かった時には既に腹の虫が大合唱を始めていて。顔を合わせるなりの第一声も、俺の腹の虫で。滅多に表情を崩さないあいつが相好を崩したんだから、よほど面白かったんだろう。
まいっか。今日は何が食べられるんだろう。
「感謝してよね、特別に時間作って来てあげたんだから……今日は、どこに連れてってくれんの?」
「牛タンのローストビーフ丼が食べられる店だ」
き、聞いただけでものすごく期待できそう。
生唾が止まりません。
聞いただけで飯テロになりそうな威力さえあります。

……連れてきてもらったお店は、なんかこう、未成年が入るには気後れするような佇まいのお店でした。
そこの暖簾を慣れた風にくぐって、お店の大将に挨拶するウシワカちゃん。
くっそ、慣れてるってか! こんなにもうまそうなものなのに、何度か足を運んでるってのか!
羨ましい!
あっ本音が。いいよねこんな時くらい。
顔なじみなのか、こっちを見ただけで品物の支度を始めた大将……いや、お店のご主人?
どう表現するのがいいんだろうね?
とかなんとか、埒もない事を考えてる間に、牛タンローストビーフ丼がやってきまして。
見た感じは通常のローストビーフに近くて、でも牛タンっぽいサシが入ってて……ああもう、おいしそう!
いただきます!
あっ幸せ!俺の中の牛タンの世界観変わった!
なんていうのかな、コリコリしてるけど、プリプリもしてるし、何より柔らかい!
牛タンってこんなに優しい味するんだ……なんか、感動。
ご飯の硬さと言い、タレとの調和と言い、こうもおいしいものが存在する世界に感謝したくなるくらいにおいしかった。
終始ニコニコしていた俺にウシワカちゃんも余程満足したのか、お土産用のこれまた高そうなローストビーフまで買ってくれたし。
何て幸せな一日だったんだ!
間違い、バンザイ!

……けど、ね?
その、お土産。俺が持つって言ってるのに、ウシワカちゃんときたら、首を縦に振ってくれないんだ。
心なしか顔も赤いし。
手持無沙汰で三歩先を蛇行しながら振り返り立ち返り歩いてたら、足元の段差に躓いて転びそうになって。
支えてくれた時に、手と手が触れ合って、さ。
そのまま振り払うのも失礼な気がしたから、手を繋いだまま、歩いて帰って来たんだけど。
ウシワカちゃんの顔、真っ赤だったんだけど。
……この位なら、許されるよね?
神様。

[ 48/89 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -