【牛及】一緒に、コーヒーでも

こんにちは、皆の及川さんです。
今日はのんびりできるオフの日です。
なのでここぞとばかりに、のんびりしに来ました。
どこにって?
ひ・み・つ・です!
って言ったら岩ちゃんに怒られるから白状します。
焼きたてパンの美味しいカフェです。
最近出来たらしくて、まだ内装からは新しい建物独特の匂いがします。
それ以外にも、パンの焼けるとってもいい香りがするんだけどね。
食パンにコッペパン、バターロールにクロワッサン……多分、カフェっていうよりもパン屋さんって言った方がいいんじゃないかな、って思う品ぞろえの豊富さだ。
勿論、俺の大好きな牛乳パンも売ってる。
ふっかふかのパンに、たっぷりのミルククリーム。下手なケーキよりも甘い、罪深い味わい。
牛乳パンと一緒にコーヒーも注文して、イートインスペースへ。
受け取り口でトレイにコーヒーを乗せてもらい、隅の方の席に腰かける。
ご丁寧に、食べやすいようほどよい大きさにパンが切られてる。
コーヒーには普段、ミルクと砂糖を入れるんだけど、今日は牛乳パンと一緒だからミルクだけ。
ほわほわと湯気を立ててるコーヒーに、ミルクを注ぐとその勢いが若干和らぐ。
マドラーでかき混ぜて一口すすると、いつもより苦い味わいが口の中に広がる。
「……なんか、ほっとするなあ」

そんな時だった。

俺はのんびり、窓の外を見ていたんだ。
すると、だ。
何の因果か。
春高に行けなくなって悔し顔を拝みたかった男ナンバーワンのおでましだ。
やっぱりいつもの鉄面皮だった。
こっちくるなこっちくるなこっちくるな……。
念を送ってみたんだけど無駄だった……気付かれた。
一直線に、こっち向かってるし。
うわ、店に入って来たし、これはまずい。

「こんな所で何をしている、及川」

そりゃこっちの台詞だっての!
しっかりカフェオレ注文してるし、正面にちょうど椅子があるからって勝手に腰下ろすし、最悪!
何考えてんのこいつ。
質問に答えずにいたら、俺の手元を見て何となく状況は察したらしい。
「食事中だったか、済まない」
こいつの目は節穴か何かなんだろうか。
三度の食事がパンひとつとか、女の子じゃないんだから。
「違いますぅ、おやつですぅ!」
確かに及川さんは顔はかわいいけど、胃袋は一般的な男子高校生なので、食べ盛りも食べ盛り。
お昼ごはんの後に早速パンひとつ、なんて軽く平らげちゃうよ。
それが好物の牛乳パンだったりしたら、ね?
ぺろっと、いっちゃうよねえ?
「そうか」
ミルク入りのホットコーヒーを傾けつつ、黙々とパンを口の中に放り込む俺と。
「で、こんなところでさぼってていいの?」
カフェオレを冷ましつつゆっくり飲んでいる牛島。
見る人が見れば異常な取り合わせだって一目でわかるし、それでなくても大の男が顔突き合わせて何かやってる様子はどうにもしっくりこない。
「今日の午後は元から休みの予定だった」
あーはいそうですか。偶然通りかかって、そんで及川さんを見つけて相席するに至ったって話ですか。
一刻も早くこいつとの会話を切り上げてこの場から立ち去りたい。
牛島の行動圏内だったなんて誤算だった。
さっさと食べて、金輪際店には近寄らないようにしよう。
無心にパンを口にしていたおかげで残るはコーヒーだけ。
けど一気に飲み干すにはまだ熱くて、時間をかけざるを得なくて。
必死に冷ましていたら、声をかけられた。
「猫舌なのか」
うるさいなあ。そうですよ、猫舌ですよ!
そんなことわざわざ口にしなくてもいいじゃん……関係ないんだし。
「またここに来たら、アイスカフェオレを注文するといい」
……は?
何言ってるんだこいつ?
「ほどよく冷やされていて、甘みの中にもほろ苦い風味が広がる」
ああ、アイスカフェオレの解説か。
もう来ないから関係ないのに。
「……ほっといてよ」
妙に刺々しい声が出たと、自分でも思った。
伏せていた視線を上げると、案の定の表情をした牛島の顔があった。
「甘いものを好むお前に向いているかと思った」
なんでそこで傷ついたような顔、しちゃうかな。
悪いことした気になるでしょ。……いや、悪い事言っちゃった気はするんだけど。
「……あの、さ」
なんかもやもやする。何か言わなくちゃ、えっと、えっと……。
「ま、またカフェオレ飲みに来るから。連絡先、教えてくれたらその時に連絡するし」
あれ、何言ってるんだ俺。
でも……牛島の顔がぱあっと明るくなったからよしとするか。
本当か、二言はないな、って顔しちゃってさあ。
そんな顔されたら、無下にできないじゃないか。

結局、その場で互いの連絡先を交換して別れはしたけどさ。
今度コーヒーを飲む約束までしちゃったけど、そんな約束する必要あったのかな?
なかったような気が、しないでもないような?
どうなんだろ?

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