【牛及】彼シャツ

ついてない。
今日はとことん、ついてない。
ランニング中に牛島と鉢合わせたのはまだいいんだ。
お互いのコースで重なる部分があるのは知ってたし、一緒に走ってくれる日があることも知ってたから。
そこまではどちらかというと幸運だったんだ。
仮にも、好きな人と一緒に居られる時間だからね。
俺だって、人並に恋とかしちゃうんです。
あ、趣味がどうとか言いっこなしね。
男の趣味っていうか、どうして牛島なんかを好きになったのか、まだ自分でもわかんないから。
聞かれても困っちゃうし、恋の相談をしたくてもノロケにしか聞こえねえって岩ちゃんにさえ相手にしてもらえなかったから。
そんなこんなで、彼氏である牛島とランニングをしていた最中に、気まぐれな秋風が雲を運んで来たんだ。
それもとびっきりの。真っ黒な雲が見る間に頭上を覆って、大粒の雨が降り出してさ。
全力で走りながら、どっちの家が近いか話し合って。
寮生活をしている牛島の家は大邸宅って聞いてたし、敷地はだいぶ離れてるって聞いてたから、すぐ結論は出た。
俺の家で雨宿りして冷えた体を温めよう、って。
あ、不埒な意味じゃないよ、ほんとに。
まだ手を握っただけの本当に清い仲です。牛島のおばあ様からきつーく言われてるんだって。それを律儀に、しかも男相手に守る必要なんてあるのかどうか俺にはさっぱりわかんないけどさ……まぁ、守って本人たちの気が済むなら構わないよね。
まあ、そんなわけで、俺の家には今牛島がいます。
びしょ濡れになった二人分のトレーニングウェアは洗濯機の中です。ゴウンゴウンと、年代物の音を立てています。そろそろ買い替え時かしら、ってお母ちゃんが言ってたのを思い出す。徹も同意見です。正直、うるさいです。
そんで、トレーニングウェアを脱いだ牛島と俺が一体どこで何をしているか、ってのが次なる問題になるわけだけど。
ご安心を、俺はちゃんと乾いた部屋着に着替えてシャワーの順番待ちをしているし、牛島は先に俺のものだけど着替えを持たせてシャワーを浴びてますから。
健全でしょ?
不健全な展開を期待した人たち、残念でした〜。

なんて考えてるうちに、牛島がシャワーから出てくる。スウェットの下は穿いてるけど渡したはずのシャツをまだ着てない。体をまだ拭き終わってないせいかな。
「はやく体拭いてシャツ着ておいてね。俺もシャワー浴びてくるから」
うん、健全、健全。……あいつの裸の上半身見て、正直すっごくどきどきしたけど、多分ばれてはいない、はず。
服を脱いで、地味にパンツの心配をする。渡したパンツが伸び伸びになって戻ってきやしないかな、なんて。
腰回りが結構違うのは知ってる。ワンサイズ違うかもしれないってことも、知ってる。そのくらいのことは、お互いに明かし合う仲だから。
全部服を脱いで浴室に入り、シャワーヘッドを掴みレバーを傾ける。温かいお湯が心地よい。体だけさっと温めて急いで出て、いつものお気に入りのふわふわバスタオルを頭からかぶる。上から順番に拭いていき、大体踝あたりまで拭き終えてからさっきまで着ていた服を身に着けていく。
……そういえば、牛島は俺の部屋で何か暇つぶしでもして待っているんだろうけど、暇つぶしになりそうなもの置いてあったっけ……?

とまあ、俺は自分の部屋に戻ったんだ。そこには勿論、待っててもらってた牛島もいる。ただし、予想外の格好で。
「……ねえ、なんで上何も着てないの?」
まだ牛島は上半身裸だった。正直刺激的すぎる。
「なんでも何もない」
そう言って牛島は、俺のシャツ……よくある丸首のTシャツを着ようとしたんだ。
「破れそうだったから着るのを諦めたんだ」
……え? そんなに体格差、あったっけ?
ぺたぺたと牛島の上半身を、掌全体を使って検めていく。自分とは違う弾力。違う厚み。腕のあたりなんか一回袖を通したら脱げるかどうか怪しいくらいだ。
「……失礼しました、青城のジャージでよければ余裕もあるだろうし、とりあえず着といて」
これで着られないとか言われたら俺の沽券に大いに関わる。俺だってちゃんと体は鍛えてるのに、こいつとは筋肉のつき方が全く違うんです、って立証されたようなことになるから。

……結果論。
青城のジャージは入りました。
どうにかね!!!!!
俺だって! 鍛えてるのに!
体の薄さを心配されました!!!!!
ちゃんと食べてるのかって言われちゃいました!!!!!
失礼しちゃうよね!!!!!

……ふぅ。
失礼なのは失礼なんだけどさ。
青城のジャージ姿のまま、牛島を寮へ帰すわけにはいかなかった。
ぴっちぴちの青城ジャージは、牛島の実に立派な上腕筋やら胸筋やらを惜しげもなく晒していて……ね。
恋人のこんな姿、誰にも見せたくないじゃない?
実質半裸みたいなものなんだからさ。
だから、洗濯機でそのまま乾燥させて、トレーニングウェアが乾ききるまでの間、お待ちいただくことになったのですが。
その間に……。

「あ、だめ、牛島、そんなとこ触ったら……!」

なんてことが、あったのか、なかったのか。
牛島のおばあさまにばれたら雷が落ちるから、二人だけの秘密です。

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