目指せ!ぼっち飯 3【赤葦side】

こんばんは。初めての方は初めまして。
赤葦です。少々読みづらい姓だということは承知しています。
今日は……いえ、今日も木兎さんのお世話をしていましたが、少し変わった出来事がありましたのでご報告しますね。
結論から申し上げますと、憧れていた……いや、違うか。密かに想いを寄せていた人に、会えました。勿論、木兎さんもその場にいましたけどね。
今日は用事があって、外出していたんです。
乗り換えの都合上、新宿駅まで出向きまして。
何度経験してもあの駅、紛らわしくて個人的には不得手です。全部地下で繋がっているわけではないあたりが特に。改札口の数を数えるだけでもうんざりします。
階層構造も好きじゃないんですよ、空洞化を心配するお偉方の気持ちはわからないでもないです。
話が脱線しましたね、申し訳ないです。
で、恥ずかしい話ですが、迷ったんです。あまり行かない方向へと行くつもりだったので、そのせいと言ってしまえばそれまでですが。
けれど、迷って正解でした。
用事自体は別に急ぐわけでもなかったので、構内図さえ見れば大体どうにかなりますから。
その、構内図を見に行く道中に。
いたんですよ。
俺の片想いの相手……及川徹さんが。

「及川さん、こんなところで何してるんですか」

どうして彼が東京まで出てきているのかはわからない。
けれど、よほど声をかけられるって事態を想定していなかったようで、五秒は優に固まっていた。
……そうか。及川さんは、俺の事は知らなくても仕方ないのか。

「って、烏野の皆さんからは紹介される機会もなかったですよね、すみません。赤葦って言います」
簡単な自己紹介から、始めることにした。
「梟谷学園のセッターで……」
そこまで説明したところで、及川さんは合点がいったらしい。頭の回転は速い方のようだ。ああ、そういうつながりか、という顔をして俺の方を見てくれた。
「日向に及川さんのいい画像貰ったんで、一度会ってみたいなって思ってました。光栄です」
情報源が日向だったことが余程ショックだったらしい。顔色をころころと変えながら、及川さんは百面相をしている。
「あ……どうも……初めまして及川です……」
反応が思いのほか初々しい。可愛い、ってこういうことを言うのかな。年上の男の人相手に失礼かもしれなかったけれど。
それにしても、本当にどうして、及川さんは東京にいるんだろう?
色々と聞きたいこともある。ここは賭けに出てみるのが良さそうだ。
「立ち話も何ですし、体を冷やしますからどこかに入りませんか?」
及川さんのことをもっと知りたい。ついでにお腹も満たしながら、色々なことを聞かせてほしい。それに、俺のことも知ってほしい。
丁度近くにカフェがあったから、そこに誘った。お昼時だったけれど、丁度ボックス席が空いていて、そこに通してもらえた。
及川さんはオムハヤシを、俺はクラブハウスサンドを、それぞれ注文し。それぞれの品物が運ばれてくるまで、待つことになった。
年上とは思えないくらい、及川さんの雰囲気は柔らかくて温かい。
「あのさ、赤葦くんって」
ああ、これは多分同い年なのか年下なのかを聞かれてるな。
「この春に三年になります」
俺が一方的に三年の及川さんを知ってるだけだったのを、失念していた。
「日向に見せてもらって、ああ綺麗な人だなって思ってたんですけど、画像より本人の方がずっと」
……ずっと、綺麗で。華やかで。
ああ、耳が熱い。
頬も火照っているのがわかる。
及川さんを間近で見つめていられる絶好の機会なのに、目を合わせていられない。

ちらちらと及川さんの方を見ながら時間は流れ、注文したメニューが運ばれてきた。ごゆっくりどうぞ、とウェイターさんは俺たちに一言残して去った。及川さんはかなり色恋沙汰には聡い様子で、多分俺の好意も筒抜けなんだろう。どことなく落ち着かない様子で、心なしか急いでオムハヤシを平らげようとしている。
……はぁ。次に会う約束、何とかして取り付けたいのに、難しいなあ…………ん?
何か、途方もなく、嫌な予感がする。
今、窓の外に目をやってはいけないような。
でも、確かめなければならないような。
意を決して、視線だけ窓の外へ。

終わった……。

「あーかーあーしーーーー!!」

俺は頭を抱えた。
木兎さんだ。木兎さんも、及川さんを知っているし狙っている。
これは絶対邪魔をしに来るパターンだ。

木兎さんは俺たちを見つけるなり店に入ってきて、わざわざ俺たちのボックス席に相席してカツサンドを注文し、厚かましくも及川さんの隣に腰かけた。及川さんは事実上脱出不能になり、明らかに頭を抱えている。
すみません、及川さん。木兎さんがまさかこんな形で迷惑をかけることになるだなんて、俺の読みもまだまだでした。
しかも。
試合で集中した時にしか発揮しないような、猛禽の目をして及川さんを狩る気でいるだなんて。
それなのに、この人の言うことときたら。
「チューしてくんないと、ここどかない!」
子どもですか。木兎さん。仮にも俺より年上で、及川さんとは同い年ですよね?
自分が何歳相当の言動をしているか、一回でも顧みたことはありますか?
……ありませんよね。

こう、なったら。
「及川さん」
及川さんには、木兎さんの額なり頬なりにキスしてもらうしかない。
唇は二人が特別な関係になってからにとっておきましょう、とでも言えば木兎さんレベルなら十分にごまかせる。
「木兎さんと俺の頬に、キスしてください」
ついでに個人的なお願いも織り交ぜてみる。

結果。
次に会う約束は出来なかったのですが、しっとり温かくて柔らかくていい匂いのする及川さんの唇は堪能できました。
どんな手段を使ったか、って?
木兎さんを追い払った後に、少々本気を出させてもらっただけですよ。


[ 41/89 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -