目指せ!ぼっち飯 3【木兎・赤葦】

及川さんは懲りました。
もう宮城はだめだ。魔境だ。どこで何を食べようと誰かが来る気がしてならない。
ああまで完璧な布陣を敷かれると、打ち破るより先に違う場所を開拓した方が手っ取り早いと思うんだ。
伊達工? ああだめ、あんな男だらけのむさ苦しいところ。牛野郎曰く「可憐」な及川さんは、ああいう場所には近づかない方がいいんだってさ。
その意見には、白鳥沢レギュラーの良心・白布くんも首を縦に振っていたから八割五分間違いないだろうし。
残り一割五分の可能性について考えると怖いから、ぼっち飯の夢を追いかけて、いざ仙台駅!

降り立った地は、多分東京のどこか。
方向だけ確かめて乗った特急だか新幹線だかは、俺をなんとなく東京っぽい場所まで連れてきてくれた。
しかし、そこから先がわからない。
どうしよう!
駅ってこんなに複雑な構造をする建築物だっけ?
及川さん知らない!

「及川さん、こんなところで何してるんですか」

…………え?
優に五秒は、固まったよ?
何で俺のこと知ってる人が東京にいるの?
及川さんそこまで有名だっけ?
しかも誰だろう。俺全然知らない。東京にいる知り合い、知り合い、いるわけないし……。

「って、烏野の皆さんからは紹介される機会もなかったですよね、すみません。赤葦って言います」
律儀に自己紹介までして、彼は一体俺に何を求めてるの?
「梟谷学園のセッターで……」
あ、そういうつながり。合宿か何かで、烏野は関東に行ってたって話を金田一あたりから聞いた気がしたから、多分誰かが及川さんのことをリークしたんだ。
「日向に及川さんのいい画像貰ったんで、一度会ってみたいなって思ってました。光栄です」
今度はチビちゃんか!
どうなってるの烏野ネットワーク!
俺関係の情報セキュリティガバガバじゃない?
おかしいよね?
「あ……どうも……初めまして及川です……」
らしくない返ししか出来なかったしさぁ。そんなに及川さんは初々しくないです。心がささくれてます。ぼっち飯連敗記録更新してますから。
「立ち話も何ですし、体を冷やしますからどこかに入りませんか?」
それもそうだ。立ち話する位ならぼっち飯大作戦のための計画を練らないと。
というわけで、年もよくわからない赤葦くんの勧めのままに、近くにあったカフェに入ったのですが……。

いつだったかに似た展開、なかったっけ?

まいっか。お腹もすいたしオムハヤシ食べよう。
ボックス席に通された俺たちは、それぞれ自分の腹を満たすためのメニューを注文し、運ばれてくるのを待つのみとなった。
けどさ!
この待ち時間が苦しいよね、初対面というかこっちが向こうのこと知らない場合って!
あっちは一方的に俺のこと知ってるみたいだし。
俺赤葦くんのこと全然知らないし。
年上っぽく見えるけど、身近にまっつんという例があるから、見た目じゃわかんないよね……聞くのが一番。
「あのさ、赤葦くんって」
「この春に三年になります」
年下だった!
なんてこと!
しかし赤葦くんの攻勢は続く。
「日向に見せてもらって、ああ綺麗な人だなって思ってたんですけど、画像より本人の方がずっと」
えっ何この子。出会い頭の事故だと思いたかったのになんというか、アレな発言が目立ちますよ?
いや、俺の周囲には色々な意味で少々どころじゃない残念な面子が揃っていてほしくないのに揃っていたりもしますが。
残念筆頭の牛野郎と比べてもいい線行くんじゃないかな。
っていうか、遠征先でも残念を引き当てるなんて、及川さんの運はどうなってるのかな?
不思議だよね?
頬赤らめて目線を窓の方にやって、赤葦くんはどうやらあっち系の気があるのかな?
よりにもよって俺に。
そういう星の下に、俺は生まれてしまったのでしょうか?
信じたくないけど。

心の中の激流とは無関係に、やっとオムハヤシが運ばれてきた。
一緒に赤葦くんの注文したメニューも運ばれてきた。
配膳されて、ごゆっくりどうぞ〜ってお店の人もいなくなって。
いよいよまずい。
ぼっち飯ツアーどころじゃない。
明らかに俺を狙ってると現時点で判明してるのに、この個人的な修羅場をどう切り抜ければいいんでしょう。
さっさと食べて会計して逃げ出すしかないのかな。
とか考えてたら、窓の外を見た赤葦くんの顔が青ざめていく。
知り合いにでも見つかったのかな?

「あーかーあーしーーーー!!」

なんかいかにもうるさそうな人が窓越しにこっちを見てる。
赤葦くんは頭を抱えてる。
どこかでこの顔も、見たことがあるような……。

まさかその数分後に、赤葦くんと同じく俺まで頭を抱える破目になるなんてね。
ボックス席の急所、通路側に座られてしまい脱出不能に陥ったから。
見た通りにうるさいし、なんか近いし、猛禽みたいな目でこっち見てくるし。
赤葦くんにもしきりに話しかけて鬱陶しがられてるのに全然気にしてないあたり、図太いのかなこの人は。

どうやってこの後、俺が包囲網を突破したかって?
……思い出したくも、ないよ。

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