目指せ!ぼっち飯 2【澤村、菅原、東峰、牛島、白布、五色】

及川さんは知恵を絞りました。
どうにかして費用を控えつつぼっち飯が実現できないかどうか。
そこで、ひとつの諺に行き当たったのです。

「灯台下暗し」!

まず青城はムリ。みんなの人気者の及川さんを放っておく女の子なんかいないから、ぼっちどころの騒ぎじゃなくなっちゃうもんね。
そして、一番安く上がりそうなのが烏野近辺。飛雄やチビちゃんに遭遇する確率はあっても、試行回数でどうにかなりそうな気がする。
場合によっては伊達工あたりも視野に入れてみよう。白鳥沢は部外者立ち入り禁止だから近隣で鉢合わせる確率もそう高くなさそうだし、穴場なのかな?
まず下見に行ってみよう。そうしよう。

あれ?
烏野って坂の上にあったんだっけ?
このへんは岩ちゃんナビにいっつもお世話になってるから、地形とかいまいち覚えてないんだよねー。
まあいっか。そのへんのお店でぼっち飯が決行可能かどうかだけ、見てくればいいんだ。

昔ながらの引き戸を開けて入ったお店。
小さなスーパーマーケット? いや商店? 季節関係なしに肉まんが売ってるような、とりあえず謎の品ぞろえのお店。
あっ、お店の名前見るの忘れた。
まあいっか。
帰りに確認すればいいだけのことだから。
ええと、店内は……イートイン、と言えなくもないスペースはある。
買い食い用なのか、それともご近所のおばあちゃんの憩いの場的な意味合いなのか、用途はいくつか考えられる。
ってことは、俺のぼっち飯の舞台になってもいいってことだ。
今回こそ、いけるかな?
すいません、おじ……じゃないや、多分おにいさん……肉まんひとつ。

蒸かしたての肉まん。
これも多分、立派なぼっち飯になる献立に違いない。
さあ、念願の!
いただきまーす!

「あれ、及川か?」

神様。
これはどういうことなのでしょう。
聞いたことのある声がします。背後から。

「ほんとだ、及川じゃん」

「こ、声かけなくても良かったんじゃないか、もしかして」

しかも三人。
何なの! 何なのもう!

振り返ったらさぁ、主将クンと、ちっともさわやかじゃないさわやかクンと、なんて言ったっけあのヒゲの人。
ええと、ええと。頑張れ俺の思考回路。
思い出した!
順番に、澤村、菅原、東峰……だった、はず。
あんまり自信ない。試合じゃ番号でしか認識しないもの。
でもさ、三人揃って現れるなんて、ぼっち飯どころじゃないよね?
どう考えても三人寄れば文殊の知恵って方向じゃないし、女が三人集まったら姦しいの男版だよね?
やかましいよね?
ね?
たすけて、いわちゃん!! 及川さんの危機だよ!

及川さんの願いを聞き入れてくれるほど、バレーの神様は甘くはありませんでした。
どころか、更なる試練を課するつもりの様子です。

「しかし、この辺にも来るんだな、及川」
さわやかじゃないさわやかクンは黙ってて……。
「日向や影山が言ってた通り、意外とあちこち出歩いてるもんなんだな」
追い打ちかけないで主将クン……ちゃんと名字で呼ぶから……それにしても飛雄どころかチビちゃんまで情報横流しとは。いやでも、悪気はないんだろうな、ぼっち飯の企てなんて絶対気づいてなさそうだったし。
「な、なあ、及川の迷惑になったら申し訳ないだろ、二人とも……」
そう! それ! 迷惑になるんだよヒゲ君よくぞ言ってくれた!
そのヒゲは無駄じゃなかった! 大人の証だったんだね!
さあ引き下がってもらおう、今日こそ及川さんのぼっち飯が実現する日だ!

(こうでもして好感度稼がないと、俺が食い込める可能性なんてないに等しいだろ)

あれ?
今何か、途轍もなく打算的な独り言が聞こえてきた気がしたけど、誰のだろう?
まあいっか。ぼっち飯の味方になってくれるヒゲ君だとしても、以降は気にしなきゃ問題ないだろうし。
そもそも及川さん、野郎にこれっぽっちも興味なんかないはずですし!

(抜け駆けはなしって言っただろ、旭)
(そうだぞ、主将つながりでの会話だってほとんどないんだ、機会は全員均等にって協定だろう)
(そうはいっても、俺だって今回ばかりは引きたくないんだよ)

あれ?
なんか三人でこそこそ話してる?
もしかしてこれ、いける感じ?
ぼっち飯完遂?
やったー!

ぬか喜びでした。

「「「肉まんひとつ」」」

残り二つになってた肉まんを巡っての胃袋による戦いが幕を上げたけど、俺は一体いつぼっち飯……できるのかな……。
う、うるさい……。
こんなことなら、別の場所を最初から見に行けばよかった……。





及川さんは反省しました。
ある程度親睦のある学校の近くは、よろしくない。
バレーの神様が何かこう、引き寄せちゃうものがあるみたいです。
だから、ぼっち飯実現のためには、その逆を突く必要があるようでして。

来たくもなかったけど!
来ましたよ、白鳥沢の方向まで!
全然仲良くない学校だし、向こうも俺のこと快くは思ってないだろうし!
これでだめなら、県内全域がおれのぼっち飯妨害にかかってると思って間違いなさそうだ!

ちなみに、計画をより盤石にするために、この日のために白鳥沢に通ってた兄弟のいる友人から、制服を一式お借りしました。
ちょっとサイズは小さいですが、着られないほどじゃないし、そこまで不自然じゃない。
あちこち紫色が入ってる制服は正直落ち着きませんが、ぼっち飯の実現のためには背に腹変えてられない。

さて、時間帯は放課後。
そのへんの学生に混じって敷地の中へ。制服着てるから誰も気に留めない。
順調!
……いや、ここで気を抜いたら絶対ウシワカの奴でもひょっこり出てくるに違いない。
用心用心。
学食があって、放課後もある程度の時間開いてるってのは調査済み。今回のターゲットはそこだ。

いざ学食に来てみると、これまたご立派な建物で設備で、お金持ちの学校だな〜って感じです。
及川さんが優雅に過ごすには最適な場所だね。学費免除の推薦来てたら危なかったな、俺の学費だけはお母ちゃんできるだけ安くあげようとしてたもの。
おっと、余計なこと考えてる間にも、お腹をすかせた男子高生で席が埋まっちゃう。
メニュー色々あるし迷うなあ……。
あ、ロールケーキとコーヒーのセットがある。
これにしよう。
でも、どうやって注文すればいいのかな……って!

「及川」
見つかった!よりにもよってあの牛野郎に!
「本当ですね、及川……さんがいます」
ちょっと、さん付けまでにどうして間があったのかな、白布くん?
「どうしてうちの制服を……まさか及川、とうとうその気になってくれたのか」
絶対そんなのないし!
つか、部外者が紛れ込んでるんだからもっと慌てろお前ら!
「あ、あ、あの、初めまして、及川さ、その、あく、あ、握手してもらっても、」
誰だっけこの子。やけに特徴的な前髪の……あ、五色くんだっけ。
どうして及川さんと握手したいのか知らないけど、とりあえず。
「握手って、これでいいの?」
とりあえず両手で、ぎゅっと。男の骨ばった硬い手なんて触って何が楽しいのやら。
「五色、抜け駆けはなしだとあれほど」
「牛島さんも五色も、抜け駆けするような頭があるなら赤点取らないでください」
なるほど、読めた。
ウシワカとパッツンもとい五色くんは、点数取らなきゃいけない試験で赤点の憂き目に遭い、部活に出られないんだ。
で、レギュラーの中でも成績がまともな白布くんが責任を取り?二人の赤点対策に乗り出して、学食で勉強会を開こうとしてるんだ。
でないと、この時間に制服着て教科書と参考書持ってるわけないもんね。

あれ?何か今大事なことを聞き逃してしまったような?
まいっか。
とりあえず、ロールケーキセットを注文しないと。

「及川、注文しようとしていたのはこれか」
どうしてこういう時だけ察しがいいんだ牛野郎め!
そうだよ今まさにお前が指し示してるのが、俺が食べようとしていたものだよ!
こうなったらおごらせてやる。懐寒くなってせいぜい苦しめ!
「そうだよ。もちろん奢ってくれるんだよね?」
「当たり前だろう、それ位の甲斐性がなければこの先お前を養っていくことなど、」
「牛島さんは少し黙っててください、本題を忘れられては困ります」
白布くんが割って入る。
「で、ここで警備員を呼び事を荒立てるよりも、交換条件と行きませんか」
なんだろう。話を聞いてみよう。
「五色と牛島さんは、このままだと次の試験も赤点を取りかねないので、自主補習の必要があります。しかし、俺一人では二人を期間内に仕上げるには無理があります」
……後輩にここまで言われるほど、ウシワカはばかだったの?何なの?及川さんの今までの罵倒も、理解されてなかった可能性もあるの?
悲しくない?
つらい。
何とかしてこの牛野郎に、及川さんの罵倒で心を傷つけられてもらわなければ困る。
じゃないと俺ばかり損した気がする。
「一人で馬鹿二人を養うには無理がある、ってことでOK?」
「そういう事です」
ありゃ、さらっと肯定した。ウシワカちゃん、おつかれさま。後輩にもばか認定されてるよ。
「ま、ロールケーキの恩もあるし、してあげないこともないかな。ただし、それ以上のことはなしで」
「わかってます。天に誓って、牛島さんにトスは上げさせません」
「それはいくら何でもひどいぞ白布」
「牛島さんは黙っててください。また赤点取りたいんですか」
あ、しゅんとした。余程ひどい出来だったのかな。テストの答案見て笑ってやろうかと思ったけど、及川さんは心優しいからよしておいてやるよ。

「……白布、この組み合わせは」
「牛島さんに及川さんを充てたら声に聞き入るだけで内容なんか頭に入ってこないでしょう」
「いやしかし、それは五色も同じでは」
「五色は留年しようと俺の後輩のままですから。牛島さんが万一留年して同級生に、なんて悪い冗談にもなりませんよ」
うっわ、一蹴されたし理由がひどい。
しかし理に適っている。留年して同学年になったらどうするつもりなんだろ。
「ってわけで、五色くん? よろしくね」
牛野郎のポケットマネーで食べるロールケーキはふんわり甘くておいしかったんだけど、そもそも俺は何をしに白鳥沢まで来たんだったっけ……??

またやっちゃった!
ぼっち飯やりに来てデザートご馳走になった挙句家庭教師の真似事しつつ敵校と親睦深めてどうすんのさ!
これ絶対岩ちゃんにばれたら大笑いされるか殴られるかのどっちかだよどうしよう!
どっちもやだ!
たすけて!だれかー!


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