目指せ!ぼっち飯 1【岩泉・牛島・影山・日向・宮】

岩ちゃんの教室へいつものように押しかけて、いつものようにお昼ご飯を食べる。
いや、食べようとしたんだ。
「いわちゃん」
なのに思いっきり、無視された。
もう一回、呼んでみる。
「岩ちゃん」
また反応がない。真ん前にいながらにして、見事に俺の存在をなかったことにしている。

こ、これは。
知らないうちに俺はまた何かやらかして岩ちゃんを怒らせたんだ。
そうに違いない。
じゃなきゃ、岩ちゃんが自主的にぼっち飯を決め込むはずがない。
それにしても、ぼっち飯キメてる岩ちゃん、かっこいい。

待てよ?
岩ちゃんがぼっち飯キメてるだけでかっこいいってことはだよ?
イケてる及川さんがやったらもっとかっこいいってことだよね?
じゃあ、及川さんがぼっち飯をキメるしかない。
絶対及川さんの株が上がる。ストップ高になる。
ウシワカなんか目じゃないし、飛雄も問題じゃなくなる。
全国ぼっち飯イケメン大会で審査員の満場一致で優勝するに違いないよね。





というわけで、やってきましたお洒落なカフェ。

注文したのは、お財布に優しい本日のランチ。
……ちょっとばかり、量が少ない気がするのは、気づかなかったことにして。
ここならいつものむさ苦しい連中は絶対誰も来ないはず。
女の子からの視線も痛いほどに感じる。
いい感じいい感じ。

と、思ってたのになあ……。

窓際の席に座って、ぼっち飯の修行に勤しんでた俺の邪魔をする奴が現れた。
窓をコンコン叩いてきたんだ。
何様のつもり、ってちょっと眉間にしわを寄せて視線を向けてみれば。
そこにいたのは、ウシワカ様でしたとも!
ええい!
忌々しい!
外出先でどうしてあいつの顔なんか見なきゃいけないわけ!
来るな来るなって念も送ったのに入ってくるしさあ!
向かいの席にわざわざ座ってハヤシライス勝手に注文してるしどういう神経してるのこいつ!
心なしか嬉しそうだし、ぼっち飯は邪魔されるし、いつの間にかウシワカ様はデート気分になってるし……。
もうぼっち飯は仕切り直すしかないか。





今度こそ。
先日のカフェからはかなり離れた、定食屋。
同じように、日替わり定食を注文する。
量の心配もないから今日は安心してぼっち飯が堪能できるに違いない。
いただきまーす!
お箸を片手に両手を合わせて、いざ! と意気込んだ、までは順調だった。
「及川さん?」
またしても邪魔が入るまでは。
飛雄のくせに!及川さんのぼっち飯を邪魔するとは!
「相席いいっすか?」
そう言いながら向かいに座らないでよ!
メニュー手に取らないでよお昼時だけど!
お前も日替わり定食かよ違うの頼めよ主菜も副菜もだだかぶりじゃん!
……あー。あー。
今日もぼっち飯はダメなのか。
及川さんはぼっちになれないのか。
飛雄のやつもウシワカ同様妙に嬉しそうだしさあ。
外食がだめならもう、岩ちゃんに無視してもらうしか、ぼっち飯の実現は見込めないのか。
ぼっち飯への道は、予想以上に遠く険しかった……。





巡り巡って学校でぼっち飯を決め込むことにした。
教室の自分の席だとぼっち飯どころじゃないから、もちろん岩ちゃんのところに行って。
岩ちゃんは薄情にも、俺が来るのを無視して先にお昼食べちゃってたけど、ぼっち飯の実現が目的だから気にしない。
牛乳パン、牛乳パン……。
はむっ。
やわらかい。あまい。おいしい。
しあわせ!
堂々と昼間から甘いクリームをたっぷり食べられる、魔法の食べ物だよね、牛乳パンって!
黙々と牛乳パンを食べる俺。特に反応のない岩ちゃん。
やった!
ぼっち飯の実現だ!

って思ったら、最後にとんでもないどんでん返しが待っていた。

「クリームついてんだろ、間抜け面が余計に間抜けに見えっぞ」
口の端にクリームがついてたのを、指で拭う岩ちゃん。
で、それをそのまま舐める岩ちゃん。
女の子たちの、キャーっていう黄色い声。

あれ?
またまた、ぼっち飯失敗したっぽい?



ぽい。
どうしてか、岩ちゃんが俺を見る顔が、赤いんだよね……。
耳、まで。
かみさまかみさま、俺はこれから、どうしたらいいんでしょう?





ふふーん。
及川さんだって学習するのだ。
近場で食べようとするからぼっち飯が成立しにくいだけなんだ、きっと。
駅でいくつか離れたような場所だったら、絶対ぼっちになれるよね!
だって及川さんを知ってるような連中と顔を合わせる確率自体が一気に減るんだもの!

というわけで、電車でいくつか行きまして。
こう、みんなの前での及川さんのイメージらしからぬ、ひなびた食堂に入ったのです。
ほわほわと湯気の立つお味噌汁。やわらかく炊きあげられた雑穀入りごはん。
焼き鮭と、付け合わせかな? 大根おろし、佃煮にほうれん草のお浸し。
日替わり定食にはここにもう一品好きなものを追加できるらしいけれど、どれにしようか迷ったから後で注文することにして、と。

お箸を片手に、いただきます、のいの字に口が動いたところで。

まさか!
まさか、だよ!
また邪魔が入ったんだ!
俺のぼっち飯、返せ
「だいお、いや、及川さん!?」
どうしてここに、チビちゃんがいるんだよ!!

もうやだ……。
なんでこう、及川さんのぼっち飯計画は失敗するわけ?
チビちゃんはちゃっかり相席して親子丼食べてるし。
ご飯粒頬っぺたにつけてさぁ、変なところが抜けてるんだよね、おチビちゃんは。
放っておくのが危なっかしいっていうか、なんていうか、さぁ……。

「そうだ、チビちゃん。及川さんに何かしら、ヘンな気持ちなんて持ってないよね?」
見事に吹き出した。
それもそっか。今までの三回、野郎たちがこぞって及川さんに懸想していたからって、チビちゃんまでそうとは限らないもんね?
だよね。失礼なこと聞いちゃったよね。
そう思って謝ろうと思った。
ら。
チビちゃんの顔が、見る間に真っ赤になってさ。
なんか、かわいい?
いや、違う、そうじゃない、及川さんにはそっちの趣味なんかない!
ビミョーな雰囲気になったし、なんかこう箸も進めづらいし、どうしたらいいの!
助けて岩ちゃん!

……って、岩ちゃんが助けてくれるはず、ないか。
だってチビちゃん……日向は、岩ちゃんにとってのライバルになっちゃったんだからね?





前回はチビちゃんの運にしてやられた。だから今度は、運でもどうにもならないような遠くでぼっち飯を満喫してやる!

そして俺は観光ついでに関西まで出張?したのである。顔見知りのいるはずもない空間なら、誰も乱入してこないに決まってる!
そう思ってたんだ。
そう考えること自体が、まっつん曰く「フラグ立てるなやめとけ」だったらしいと気がついても、後の祭りだよねえ……。

ご当地グルメに舌鼓、なんて打てるほど懐が暖かい訳じゃないから、適当にそのへんのお好み焼き屋さんに入った俺。
自力でうまく焼けるかどうかいまいち自信もなかったんで、お店の人に焼いてもらおうと思って待ってたんだ。

そしたら、だよ!
あり得なくない!?
知らない人に声かけられた!

何て言うか、人を食ったような奴。
あれ、もしかして、オリコウサンの師匠の人?とかワケわかんないこと言われるし。
こっちはお前のことなんか知らないのにさ、いつの間にか前に日替わり定食食べてたときの俺の画像見せられてさ、もっとワケわかんないよね!

お前が犯人か飛雄!って。
ってことはなに、ユースで選ばれたどこかの誰かに俺のこと暴露して、更に画像までデータで渡しちゃうほどなの。
俺、そんなにプレゼンされる位、お前に色々撮られてたの?
つか、撮ってたの?
肖像権が何とかって訴えたら勝てるかな?
ま、飛雄だから勘弁してあげるけど。
寛大な及川さんに感謝しなさい。

って、人のお好み焼き勝手に焼き上げてるし、ホント何なのこいつ!
あっ食うな!味見じゃない!
半分払うからって問題でもない!
慌てて食べ始めたよ。のんびりしてたら食べ負ける。

激戦の末、七対三位で及川さんの勝ち。どうだ、知らない奴。そう簡単に及川さんに勝てるとでも……?

え、口の端にソースついてるって?
どこだろ、拭かないと。

油断した。
ここやでぇ、って指で拭ってくれたのはまぁ、その、許してやらなくもないよ。
それを、舐めるな!
エロい目でこっち見ながら!

あとで飛雄に問い質したらあっさり吐いた。飛雄と同じように、俺のこと狙ってるんだって。
及川さんは二度びっくりしました。
地元でも包囲網が出来つつあるってのに、まさかユース組さえ心配しなきゃなんなくなるなんて。

岩ちゃんも最近俺の目をあんまり見てくれないし、誰に相談すればいいのこれ……。


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