【田及】sweet,sweet angel

「龍くん、これ食べたい」
それは8回目のデートの時のこと。
田中にとっての重要ミッション、今日こそ手を繋ぐ、を無事達成しての、公園からの帰り道。
商店街のアーケードを散策していた二人の目に留まったのは、大きめのパフェが飾られたショーウィンドウ。
「割り勘にしていいし、何なら俺が払うし……ダメ、かな?」
手を繋いだままの田中が、及川の手を引いて店へと一直線に歩き出したのは道理であった。

ショーウィンドウの前まで来て、パフェの値段を確かめている及川と。
及川には感づかれないようにこっそりと財布の中身を確認している男が、一人。
「ね、ね、龍くん」
おねだりモードに突入している及川に田中が勝てるわけもなく。
「ちょっと大きいけど……二人で半分こすれば食べられそうだし……いいよね?」
割り勘と帰りの交通費を勘案して、足りる事実を確認し田中がほっとしたのもつかの間。
一度は離れた手を及川によって恋人繋ぎに変えられてしまい、どぎまぎしながら店のドアを開けると……先客の視線を一身に受けている恋人を見ると、少々複雑な心持にもなった。

ちょうどボックス席が空いており、ちらちらと横目で見られながら席へと向かいながらも。
二人の頭の中は、割と違っていたようで。
純粋にパフェが食べたいだけの、甘ったるい脳ミソをしている及川と。
パフェを楽しむ恋人がどんな表情をしてくれるのかを妄想するばかりの、別方向に甘ったるい脳ミソをしている田中。
それぞれ椅子に腰を下ろし、さて注文するメニューを考えようかという猶予もなしに、及川の口から飛び出したメニュー名も加えて色々と問題だった。
「えっと、表に飾ってあった、スイートエンジェルひとつで!」
名前までは確認していなかった田中が、なんだその名称は、と椅子からずり落ちそうになったのも無理もなかった。

終始ニコニコしながらパフェ──スイートエンジェルを待つ及川は、じっと厨房の方を見たまま視線を外そうともしない。
だから田中は、思う存分に恋人の可愛らしい姿を見つめていられた。
目元を緩め、口角を上げ、頬杖をついてパフェを待つ姿は……白馬に乗った王子様を待つ少女さながらに愛らしく。
昔を懐かしみわずかな哀愁を漂わせる、そんな隙さえ客の気を惹くために利用する娼婦のようでもあって。
万華鏡に引けを取らずに様相を変えてみせる恋人を眺めているとあっという間に時間は過ぎ、田中の体感時間ではさほど経たずにパフェは運ばれてきた。
「お待たせしました。こちらご注文の『sweet angel』です。ごゆっくりお寛ぎください」
二人の真ん中にパフェは置かれ、あらかじめ用意されていたカトラリーを手にした及川が、鞄を漁りスマートフォンを取り出して。
「龍くん龍くん、ピースしてピース」
言われるがままに人差し指と中指を立て、残りの指を田中が握り締めたのを確認した及川は、パシャリというオーソドックスなシャッター音と共に一枚の画像を撮影した。

その場でSNSに投稿された画像には、次のようなメッセージが添えられていた。
「ずっと前から気になってたお店で、ずっと前から好きでたまらなかった人と食べるパフェって格別だよね!」
画像には田中本人は見切れていて、手しか鮮明には写っていなかったのだが。
烏野の手の鑑定士・影山によって、田中の手であると即座に見抜かれ一悶着起きるのだが、それはまた別のお話。


[ 70/89 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -