ジクパー 雨の日の再会 (端折ったベッドシーン)

ジークフリートがパーシヴァルの本質に触れるのは、初めてだった。
騎空挺に乗っていた頃には、貴族としてのパーシヴァルの顔など知りようもなかったから。
各地の言語を操れるという点は、旅慣れたものの特徴だと思っていた。
同じく、文化に通じている点も。読み書きについては深く知る機会は訪れなかったけれども、騎士団時代はよく自分の代わりに書類仕事を担ってくれていたのは覚えている。
世界には壁の薄い部屋が存在していることを知らなかったあたりで、ああ根本的な育ちが違うのだなあと実感せずにはいられなかったが──一国の王位継承権まで持つという事は、相応の教養を身に着け各方面にも気を遣わなければ品性さえ疑われかねない、ある意味ではこの上なく冷たい世界なのだとも言えただろうか。
グランサイファーに居た時とはまるで違う調度品に囲まれて過ごしているパーシヴァルだったが、品々に引けを取らない確かな品格を感じられる。所作ひとつひとつが優雅で洗練された、骨の髄まで教え込まれた美しい型だ。
そんな男が。
恋しさ余って身を滅ぼしかけて、自分の前で紅涙を流したなどと、にわかには信じがたく。
それでも尚──硬質な甲冑越しにでも伝わってきた全身の気配は、空白の二年を必死に埋めようとするものであり、余人に口を差し挟ませるのを許さなかった。
だからジークフリートは今こうして、パーシヴァルの私室に通されているし、それをアグロヴァルも黙認している。
警護の兵が扉の前に二人立っているようではあるが、中の会話に聞き耳を立てて報告するなどという野暮を働くような者でもないと思いたかった。
ジークフリート個人の意見としては、どうせいずれは明るみに出る事実なのだから、いつパーシヴァルとの関係を槍玉にあげられようと構わなかったのだが。

情熱的な瞳が、ジークフリートを捕らえて放さなかった。
首に回された腕が熱い。パーシヴァルの魔力で満たされた部屋の中、防火処置が施されているとは言えども、次々に生まれては消えてゆく狐火の儚く美しいこと、この上なく。環状に生まれた炎が足元で揺らめき、ゆったりとした舞踏を演じ、二人の歩みの軌跡を作り出した。
次々と外され、床を叩く音を立てる甲冑。
どこをどう外せばそこまで手早く武装を解けるのかパーシヴァルが気付けなかったのも無理はない。
熱烈な口づけに翻弄され、内に秘めた昂りが炎となって屋敷を焼かぬよう留意するのに必死であったのだから。
鎧を脱いでしまえば、パーシヴァルにとってはただひたすらに懐かしい……空の時代を思い出させる傷跡の残るジークフリートの体と、騎士団時代からの付き合いである体臭が五感に染み渡る。
相変わらず手入れとは無縁の、伸びるに任せた髪も。
吐き出される息も、自分の名を呼ぶ声も変わらない。
変わってしまっていたのは……パーシヴァルの方で。
毎日湯を使い清潔に保たれた体は、ジークフリートの匂いをより顕著に感じ。
後ろに流すのをやめ、後頭部でひとつに括った髪の手入れを欠かさなかったのは……ジークフリートと共に過ごした日々の証を風化させないためで。
長兄の手によって引き離された後も未練がましく恋い慕ったひとの手を忘れないために……不用意に思い出さないために、この二年……誰の手も取らずに過ごしていたパーシヴァル。
望んだすべてが目の前にある。望んだずべてで包まれて、自分は今愛する人と時間を共にしている。
最上の幸福と、この後に待ち受けているめくるめく瞬間を思い、溺れた。

寝台の上、天幕を引いてしまえば、二人だけしか知りえない空間が生まれる。
どちらがどちらを抱くのか、知りえる者は屋敷の中に何人存在しただろうか。
全てを掴んでいるのは、長兄のアグロヴァルのみであったかもしれない。
ただ、知られていようと、パーシヴァルはもはや、ジークフリートを手放す気など毛頭なかった。
世継ぎ問題を解決させたいのであれば、ウェールズに伝わる秘術でも何でも使ってみろ、と腹も括ってある。
そんな程度には、パーシヴァルも……勿論、ジークフリートも……執念深かった。

時折自慰に耽る機会があったとはいえ、騎空挺で二人が生活していた頃よりはずっと頻度が落ちていたせいで、パーシヴァルの中はすっかり『開拓前』の状態に戻ってしまっていたと言えた。
肌を吸われれば敏感に反応する割に、内側を穿たれると一本の指でさえ、なかなかに難儀した。
二年の歳月が、二人の間に重くのしかかり、暗雲を立ち込めさせた。
だがそれも切り開かれていく。二人分の献身によって、かつての緩め方をようやく体が思い出したのか──パーシヴァルの喉から、二本目の指が押し込まれた時に甘ったるい声が漏れ出たのだった。
契機が訪れてしまえば早いもので、枕を掴んで必死に快楽を逃がそうと、パーシヴァルは腰を揺らす。パーシヴァルの先端からとろりと透明な汁が溢れ出てきたのを掬い取って、ジークフリートは三本目の指をパーシヴァルの腹の中に埋め込んでいき。
たまらずに精を飛ばしたパーシヴァルの胸が白く汚れる。指でグチグチと腹の中を攪拌しながら、ジークフリートはいつでも挿入できるよう自身を追い立てながら、パーシヴァルが放ったばかりのものを啜った。
日に焼ける機会のなかった白い肌に、鮮やかな花弁が瞬く間に散っていく。翌朝のことなど考えていない所業だったが、パーシヴァルは怒りもしなかった。ジークフリートとの関係を隠す気などとうに失せていた。
根元から最後の一滴までも絞り出すように扱いて、先端の窪みにわずかに残った白濁を直接吸ったジークフリートは、そのままパーシヴァルの足を大きく左右に割り開いた。
しなやかで長さのあるパーシヴァルの陰茎を一舐めし、続いて両手の指を使い、パーシヴァルの蕾を左右に大きく開かせた。生まれた隙間に唾液を流し込みかき回せば、先ほどよりも水気の増した音が室内に響く。
パーシヴァルの息遣いももはや苦しそうなものではなくなっていた。苦痛に耐えるものとはまるで違う、快楽を逃がしきれずに内に溜め込んでしまっている戸惑いを滲ませた、そんな息遣いだった。
指が引き抜かれて、縁に引っ掛けられ左右に開かれたまま、ジークフリートのものがあてがわれる。
来る、とパーシヴァルが身構えた瞬間、蕾の上を竿が滑り、拍子抜けした直後。
不要な力の抜けたパーシヴァルの体内に、ジークフリートの長刀が収められた。
灼熱の隘路を拓くのは久しぶりで、具合の良さに思わずそのまま放ってしまいたくもなったジークフリートだったが、小手調べにと亀頭の裏側をパーシヴァルの縁に引っ掛けて軽く揺すってやった。途端に身も蓋もない喘ぎ声を出し始めたパーシヴァルだったが、さすがに恥ずかしかったのか、頭の下にあった大きな枕を引き抜いて抱き締め、噛みついて声を殺し始める。
快楽からくる涙が目尻に浮かび、頬へと伝い流れていく様を見てしまっては、ジークフリートの嗜虐心も頭をもたげざるを得なかった。
パーシヴァルの腰を抱えて足を大きく開かせ、滅多に挿入しないような深いところまでの侵入を果たせば──枕に噛みつく余裕もなくなったパーシヴァルの手から、枕が転がり落ちる。
そのまま奥の狭い箇所を切っ先で抉れば、感極まった声が後から後から生まれ、高らかに部屋を満たす。
ぷしゅっ、と音を立てて精液とも潮とも区別のつかない液体を漏らしたパーシヴァルは、発熱した時にも似た朱を顔に差して、ジークフリートに限界を訴えた。
緩急をつけて盛大に締め上げてくるパーシヴァルの体内を思う存分に蹂躙していたジークフリートも我慢をやめて、パーシヴァルのためではなく単純に自身の快楽のための動きへと腰の振りを変えていく。
散々啼かされ声が掠れたパーシヴァルが、声の代わりにとジークフリートの背中に爪を立てて合図した瞬間。
二年越しの想いの丈が、パーシヴァルの体内へと注がれ始めた。
狂おしいほどの多幸感が、二人の間に満ちていた。


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