ジクパー いちごみるくぷれい

「ま、待て、ジークフリート、待てと……言っている!」
するり。パーシヴァルの鍛えられ引き締まった両足から、抵抗空しく下着が引き抜かれていく。そして代わりに足首へ通されたものは──。

苺柄もキュートな、薄桃色を基調とした女物のショーツ。

屈辱に肩を震わせるパーシヴァルをよそに、いそいそと脹脛から膝、太腿へとショーツを引き上げていくジークフリートは、絵面だけ見ればただの変質者であった。
一体なぜこうなったのかだけ、簡単にだが説明しておこう。

その日、久しぶりの完全な非番を手に入れたパーシヴァルは、いつの間にか乱雑になってしまっていた部屋の片づけに勤しんでいた。あるべき場所へと物を移動させるだけだというのに、これがまたなかなかに骨の折れる作業であり、眉間に皺のひとつでも寄りそうになっていたそんな時。
(……何だこれは)
片づけは定期的に行っていたつもりではいたが、つい億劫で手を付ける頻度が減っていた、一番高い場所にある引き出しの中から。入れた覚えなどとんとない、女性ものの下着が見つかったのだ。
大きさからして、ヒューマンあるいはエルーンの成人女性用であろうが……柄が少々、少女趣味をしている。勿論パーシヴァルのものではないし、これはと思い当たる持ち主などいるはずもない。騎空団員の下着事情に詳しいものがそもそも在籍しているようであるのなら、それはそれで問題なのだが。
(誰かの洗濯物が、紛れ込んだとでもいうのか?)
こんなところに誰がしまい込んだのやら、と思いながらも、パーシヴァルの律儀が顔を出し。内密に返してやらねば持ち主も探しているだろうに、と手近な引出しの一番手前側へと入れたのだ。

その日の夜半に、ジークフリートさえ訪ねてこなければ。
下着は問題なく、持ち主に返されていたであろうに。

続いて、どうしてパーシヴァルが件の下着を身に着けさせられるに至ったかの経緯も説明しよう。
全てはジークフリートのせいなのだが、ちょっとした事情もあるとだけ、彼の名誉のためにも書き加えておこう。
ジークフリートとパーシヴァルは、どうしてそうなったのか当人同士も把握しきれていない部分があるが、恋仲である。体の関係もあるし、何なら少々特殊なプレイに興じるほどには年季が入っている。
それはそうとして。ジークフリートは、頼まれごとのためにとある物を探し求めて、パーシヴァルの部屋までやって来たのだ。恋人の部屋で一夜を明かそうという、当然の下心つきで。
そこまでで話が済んでいれば良かったのだが、済まなかったからこその今回の件がある。
比較的散らかってしまっていた部屋が整然と片づけられていると気が付いたジークフリートは、パーシヴァルにこう伝えたのだ。
『誰だったかが、探し物をしている。片づけの際に見慣れないものが紛れていた等の、心当たりはないか』
このように言われてしまえば、昼間に見つけた下着のことを、思い出すなという方が無理がある。
もしかして、と思い至ったパーシヴァルが、そこの引き出しを開けたところに入れてあるものがそうかもしれんな、とジークフリートに対して開けるように促して。
引きずり出して中身を検分しているジークフリートに、目当てのものはあったのかどうかをパーシヴァルが聞こうとすると。
『俺が探しているものは見つからなかったが……この可愛らしい下着は、お前のものか』
ジークフリートはそう言いながら。
苺柄のショーツを摘まみ、パーシヴァルの目の前にぶら下げたのだ。

そんなこんなで、広くはない私室の中での必死の追いかけっこはすぐにジークフリートの勝利で幕を閉じ。哀れにもパーシヴァルは恋人の腕に囚われて、耳が弱いというのに息を吹き込むように囁かれてしまったのだ。
『これを身に着けたお前が見たい』と。
パーシヴァルが抵抗しきれるはずもなかったのだが、往生際悪く抵抗を重ねた結果、状況はジークフリートの側へと傾くばかり。
気づいた時にはベッド上、夜着を乱され両手首を縛られて、寝心地のよいはずのベッドスプリングが男二人の体重を受けて軋む音が聞こえていた。
そして、最初から身に着けていた灰色の下着にジークフリートの指先がかかったところで、パーシヴァルもさすがに制止をかけた。
放置されただけで。
「──っ、止めろ、怒るぞジークフリート!」
「怒っても……俺は構わんし、止めはせんぞ」
パーシヴァルの怒りをよそに、ジークフリートは下着の上からパーシヴァルの性器の形に添って舌を這わせ、唾液を含ませじっとりと湿らせていく。その上から音もなく舐め啜れば、石鹸に混じって肌の匂いがわずかに薫る。混じりけのない、パーシヴァルの香りだ。興奮しないはずがない。
むしゃぶりついたジークフリートの頭を、両の腿で殴打しようとするパーシヴァル。しかしうまくいかずに挟み込む格好になってしまい、ジークフリートの好きなようにさせてしまう結果を招いた。
「おい……いい加減に」
パーシヴァルの内なる炎が、顕在化せんと熱を肌の表層部まで押し上げていく。
さすがにそうなってはまずいと判断したジークフリートは、しっとりと湿った下着の腰部に手をかけた。
「いい加減に、脱ぎたいということか。わかったわかった、そんなに『これ』を身につけたかったのか」
どう考えても違う答えを口にしたジークフリートと、頓珍漢な答えを返され一瞬反応に戸惑ったパーシヴァル。
その一瞬が勝負の境目となり、無抵抗にも等しかったパーシヴァルのほぼ唯一の着衣が、ジークフリートの手によって暴かれようとしていた。

以上の経緯があっての、『待て』だ。
湿った下着が気持ち悪いなどと言える状況ではなかったし、あがこうがわめこうがパーシヴァルにとって不利益になる結果しか用意されていなかったのだが、矜持に関わることらしく唯々諾々と状況に流されるのを炎帝は良しとしないらしい。
不本意ながら太腿まで苺柄の下着を引き上げられてしまっている以上、今の状況を目撃されて立つ瀬を失うのはジークフリートだけでなく、半ば強制的に身につけさせられているパーシヴァルも変わらない。
誰のものなのかは不明であるが、事ここに至ってはもう返すに返せないではないか、とパーシヴァルが眉間に皺を寄せたところで、ジークフリートが慣れた手つきでパーシヴァルの腰を持ち上げ片方ずつ下着を引き上げて──『試着』は終わってしまった。
腰部の肉にやや食い込んでいるし、股間の不自然な膨らみに至っては身に着けるものの性の不一致をしきりに訴えてやまない。だがジークフリートはいたく気に入り、食い入るようにその膨らみを見つめていた。
「いい眺めだなぁ、似合うと思っていたぞ、パーシィ」
何がとは言わないが、はみ出しているものがある以上、似合うとは言えないのではないか。本当はパーシヴァルはそう口にしたかった。
だが、口にしてしまえば、自分が『これ』を身に着けている事実を受け入れているように聞こえるのではと思ってしまい、相応しい言葉を探し続けていたのだった。
「……おや、苺柄が歪んでいるな……どれ」
股間のものによって不自然な形になっている苺を元に戻そうとしたジークフリートは、生地とパーシヴァルの肌の間に指を挟んで浮かせて矯正しようとしたのだが。既に下着が内側から湿っていると気づいて手を止め、下着ではなくパーシヴァルの肌へと触れるのを優先し始めた。
「まだ舌は這わせていないんだが……どんな道理で内側から濡れてくる? なぁパーシィ」
先端に指を当ててそっと引き抜けば、指先に残ったぬめりが灯りに照らされててらてらとした光を放つ。パーシヴァルの目の前でそれを舐めると頬がぱあっと紅に染まり、ジークフリートの舌先にはわずかな塩気が残った。
ぬめりの正体は紛れもなく、パーシヴァルの体液であるのだが……気にも留めていない風を装ったジークフリートは、不思議そうにパーシヴァルに問いかける。
「なぁ、どうして舐めてもいない下着が、しかも内側から濡れてくるんだと思う?」
パーシヴァルは答えない。わかりきったことを今更聞くな、といったところか。
だんまりのパーシヴァルへの意趣返しか、ジークフリートはもう一度下着の中に指先を忍ばせた。そのまま中をまさぐり、パーシヴァルの竿に指を添わせる。芯を持ち硬くなり始めているものを指の腹で撫で、下着をずらして先端のみを露出させた。
「っ、おい、ジークフリート」
「なんだ、もう濡らしていたのか、パーシィ」
亀頭を指先で捏ねれば、零れてきた体液が垂れてきてくちゅくちゅ音を立てる。それを確認したジークフリートはもう一度性器をショーツの中に戻し、布越しにパーシヴァルを責め始めた。
「なぁ、下着が変わると擦れる感覚もやはり違ってくるのか? パーシィ」
うるさいそんなこと聞くな、と目で訴えかけるも、ジークフリートは素知らぬ顔。薄かった桃色がべたべたする体液で本格的に濡れて色を濃く変えてからは、もはや遠慮も何もなく露骨に性器の形に合わせて愛撫を繰り返した。
布越しにくっきりと形を浮かせたパーシヴァルの性器は、膨らんだまま健気にもジークフリートの手淫を待つばかりで。先端の窪みに爪を立てられ、ぐりゅぐりゅと穿られては、開拓された体は悲鳴を上げるしかなく。
「──っ、う……は、ぁ……っ」
息を呑むパーシヴァル。耐えがたきを耐える姿に嗜虐心をそそられたジークフリートは、敢えて寛げずにいた自身の着衣をここでようやく寛げて、パーシヴァルの口元に自身の陰茎を差し出した。
「舐めるだけでいい、残りはお前の中を堪能する時に愉しむ」
散々に人の体を弄っておきながらそれか。頭にきたパーシヴァルは、口内に含んだジークフリートのものに軽く歯を立て、意図的に全力で吸い上げた。
これにはさすがのジークフリートもたじろいだ。自分好みに『教育』してきたパーシヴァルの口淫だ、気持ちよくないわけがない。ちゅぽん、という音とともに強引に引き抜くと、してやったりといった顔のパーシヴァルがニタリと笑んで、余計にジークフリートの機嫌を損ねた。
だから、下着を脱がせて普段通りに抱き合おうとしていた心持がどこかにいってしまった。
無言でパーシヴァルの足を開き、頭の下にあった枕を引き抜いて腰の下に突っ込んで。
ショーツのクロッチ部分に指先を引っ掛け真横へずらし、パーシヴァルの蕾が見えるや否や一息に──体を繋げた。
衝撃で硬直するパーシヴァル。だがそれすらも意に介さず、竜殺しは炎帝の体を貪り始めた。
突き刺された時にも似た熱に、時折襲われながら。

それは唐突で、かつ情熱的だった。
パーシヴァルの足は強制的にジークフリートの腰に絡ませられており、あたかも完全な同意の上での交合が実現しているかのように見えていた。
実態は、ジークフリートの独断であったのだが──それでも体は悦びを覚えるよう、パーシヴァルは躾けられてしまっている。
だから、慣れない下着を身に着けされられたままであろうと、その柄が自分の大好物を模したものであろうと、大した影響はないように思われた。
いずれジークフリートの手で脱がせてもらえると思っていたからだった。
だが違った。
ジークフリートは、一度引き抜いて小休止を挟んでも、件のショーツを脱がせてはくれなかったのだ。とっくに体液で濡れそぼったそれは体に張り付いていて身動きがとりにくい上に、いざ挿入しようにも再び手でずらさなければ結合は叶わない。
要は、手間のかかる状態のまま交合が続けられているという点で、パーシヴァルはジークフリートの不可解な行動から導き出される可能性について思い至らなければならなかったらしい。
「時間切れだ、パーシィ」
もう一度クロッチに指をかけ、真横にずらしパーシヴァルの中へと侵入を再開するジークフリート。
じわり、と布が吸いきれなかった先走りの液がショーツ越しに浮かび上がり、武骨なジークフリートの手がその周囲をもみしだく。掌が離れた時に引いた糸をわざわざパーシヴァルに見せつけ、塩加減を舌先で確かめて首を傾げる。
だがその所作にこれといった意図はなかったようだ。すぐにまたパーシヴァルの体内の熱を散らしては凝縮させ、前立腺の辺りを集中して抉った。
「あ……う、ぁっ……!」
堪らずにパーシヴァルが気をやれば、結局脱がせてもらえなかったショーツの中に放つしかなくなって──苺柄の奥からにじみ出てきた白濁が、表層を覆い溜まっていく。
繰り返し放たれた液がショーツの中にも溜まり、居心地悪そうにじり、と腰を動かすパーシヴァル。
だがそれを、ジークフリートは違う意味として受け取ったらしい。
こちらで達したかったのか、とでも思っているのか、奥へ奥へと侵入を繰り返し、パーシヴァルの第二の入り口──結腸をさかんに刺激し、抉じ開ける。
パーシヴァルがそこを弄られると船中に響くような嬌声を上げるとジークフリートは知っていたから、口には猿轡代わりに元々パーシヴァルが身に着けていた下着を捩じ込んで。
自分がどうなってしまうのかを熟知しているパーシヴァルも大人しくなり、ちゅぷ、ぱちゅ、と聴覚から犯されていく音を生み出しながら、二人の交合は続いた。
内側のより狭い部分にカリの裏側を引っ掛けるようにして、隘路を堪能するジークフリート。
泉のように後から後から湧き出てくる悦楽に完全に身を委ね、ジークフリートの雄に翻弄され続けるパーシヴァル。
やがて終焉は訪れ、後始末のことなど考えもせずに、隘路のその先へとジークフリートは精を放った。
ひくり、ひくりと脈打つ拍動と、しゃくり上げる動きで、ジークフリートが達したことをパーシヴァルも悟り。
やや薄まった精を、再びショーツの中へと放っていた。

「貴様……どういう料簡で、こんなものを俺に身に着けさせたまま抱いた」
いつものように甘い予後を、とはいかなかった。
当然だ。パーシヴァルの同意なしに、特殊なプレイに興じてしまったのだから。
「いや……似合っていたから、つい、な?」
「似合う似合わないの問題ではない」
ジークフリートが困り果てて出した言葉は、あっけなくパーシヴァルに両断された。
言えるはずもない。無類の苺好きのパーシヴァルに、『いちごみるくぷれい』なるものをさせてみたかったなどと。
その艶姿は実に鮮明に記憶に焼き付き、当分の間は苺を見ただけで即座に思い出せると確約できるなどと。
「多少伸びてしまったかもしれないが、洗って持ち主に返せば──」
「これだけ汚しておいて元通りに出来るとでも思っているのか?」
パーシヴァルの舌鋒は鋭い。二回分の射精を受け止めたショーツはどろどろになっていて、パーシヴァルの下腹部もまた精液で悲惨な事態に陥っていたからだ。
だがジークフリートとて持っている浪漫がある。簡単に引けるものでもなかった。
「俺にいい考えがあるから、この件は一旦保留にさせてくれはしないか、パーシィ」
ジークフリートの『いい考え』が本当であったことなど試しがないのだが。
パーシヴァルは、恋人の顔を立て、話に乗ってやることにした。
「…………ふん。手間は、かけさせるなよ」

そして、一夜明けて。
ジークフリートは宣言通りに、洗濯に勤しんでいた。
(やはり、なかなか汚れは落ちないか……)
手の中には勿論、昨夜しこたまパーシヴァルによって汚された──いや、元々は自分の思い付きではあったのだが──苺柄のショーツがある。
大の男がたった一枚の洗い物に難儀している姿は余程目立ったのか、入れ代わり立ち代わり見物人がやって来るほどで。
野次馬が一段落したところで、同じく洗い物でもあったのか、それとも単に暇つぶしの相手を探しているのか、やって来たのはランスロット。
「あれ、ジークフリートさん、今日は洗濯の当番じゃなかったはずですよね?」
「ランスロットか。確かに洗濯の当番ではないが、パーシヴァルに、何としてでもこれが元通りになるよう洗い直せと──」
「奇遇ですね、俺も同じような用事で洗濯に来たんです」
その先が、パーシヴァルにとって、大変によろしくなかった。

「聞いたぞ〜パーシヴァル。お前、俺の忘れ物使って『イチゴミルクプレイ』されたんだって?」
後日。ランスロットとパーシヴァルが、手合わせの時にそんな会話さえしなければ。
パーシヴァルが手合わせを中断し、ジークフリートに殴りかかるような事件など起きなかったというのに。

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